difficultなダイイングメッセージ<解答編>
一応問題は提示していますが、問題編の方から先に読んでもらったほうがよいと思います。
日本語が流暢な留学生、エドワードが自宅で殺された。
被害者の遺体のそばには、血文字で「difficult」と一言だけ書かれていた。
容疑者は、被害者の幼馴染である、ジェニファー、アンナ、クリストファー、ミッシェルの四人。
いずれも愛称で呼び合うほど仲が良かったらしい。
果たして、「difficult」が示す人物とは、四人のうちいったい誰だろう?
喫茶店のテーブル席で、Uはボールペンを投げ出してため息をついていた。
「フフ、パズルやクイズが得意な設定はいったいどうしたんだい?」
Tが悠々とホットコーヒーを口にする。
「いやいや、お前の問題毎回訳が分かんないんだよ。一体何だよこれ」
「この前のは解けてたじゃないか。今日は頭が回らないのか?」
「いや、フル回転させてこれだ」
「ったく、しょうがないな」
そういうと、Tは残ったコーヒーを飲み上げ、カップを置いた。
「まず、『difficult』の意味は分かるな」
「いっぱいありすぎてわからない」
「ボケはいいから」
「まあ、普通考えれば『難しい』だな」
「その通り」
すると、Tはテーブルの上にあったボールペンを手に取り、メモ紙の空白の部分に「難しい」と書いた。
「さて、ここから変換するわけだ。被害者のエドワードは日本語が流暢で、漢字はもちろん、四字熟語や難しい熟語の意味も理解しており、さらに音読み訓読みや難読漢字なんかも、そこらの日本人よりも詳しいとの情報がある。この中で、変換に必要なキーワードを探すのだ」
「ん、そういえばなんかそういうことを言ってたな。えっと、別に『難しい』という単語は四字熟語でも難しい熟語でもないし、難読漢字でもないから……となると、音読みと訓読み?」
「その通り。じゃあ『難しい』の『難』を音読みで読んでみたまえ」
「えっと、『難』の音読みは……『なん』?」
「続けて読むと?」
「『なんしい』……『ナンシー』か!」
「ご名答」
そういうと、Tは「難」の上に「なん」とルビを振り、「=ナンシー」と付け加えた。
「しかし、容疑者の名前に「ナンシー」なんていないぞ?」
「まだまだ。変換は三段階目が必要なのだ。つまり、ここからさらに変換が必要と言うことだ」
「な、まだ何かやるのか?」
「まだヒントは与えていたはずなんだがな。『四人とも被害者とはとても仲の良い幼馴染で、お互いに愛称で呼び合う仲だった』っていうヒントを」
「んなの、ヒントと思ってねえよ」
「ん、そうなのか。まあ、ここからは少し知識が必要になるのだが」
Tは突然、空白部分に「ベス」「ボブ」「ビル」という名前を書き始めた。
「さてU君。ここに書かれている英語圏の名前、正式名はわかるかね?」
「正式名?」
「うむ。英語圏の人名には、伝統的に短縮形で呼ばれる場合が多く、そのまま愛称として使われていることもあるのだ。つまり、ここに書かれている名前は、英語名の短縮形と言うことだ」
「で、正式名は?」
「なんだ、これくらいなら聞いたことがあると思ったのだがな。ならば、お前が好きなインターネットで、正式名が何なのか調べることだ」
「なんか、腹立つな」
ぶつくさ言いながらも、Uは携帯電話でサイト検索を行った。
「お、これか。英語の人名短縮形一覧。これによると、『ベス』は『エリザベス』、『ボブ』は『ロバート』、『ビル』は『ウィリアムス』の短縮形となっているな」
「その通り」
Tは「ベス→エリザベス、ボブ→ロバート、ビル→ウィリアムス」と書き込んだ。
「さっきも言ったが、容疑者たちは被害者とお互いで愛称で呼び合う仲だった。つまり、ダイイングメッセージも、愛称で書かれていたのだ」
「何でそんなめんどくさいことするんだよ」
「そりゃ、問題を難しくするために……いや、犯人に悟られないようにするためさ」
「……逆に悟られないか?」
「まあいいや。さて、今回出てきた『ナンシー』。この愛称の正式名は何だね?」
「えっと……」
Uは短縮形から「ナンシー」と書かれている項目を探した。
「正式名称は『アン』または『アンナ』……あっ!」
「そういうことだ。つまり、今回の犯人はアンナだったわけだ」
Uが調べている間、Tは「ナンシー→アンナ」と書き込んだ。
「おのれ、こんな調べなければわからん問題を……」
「何、調べる機会も機械もあったじゃないか。必要なのはそこまでたどり着く発想力さ。知識が足りなければ、どこかで調べればいいことだ」
「ぐぬぬ、おのれぇ……」
Uは悔しがりながらも、残ったアイスコーヒーを一気に飲み干した。
「にしても、なんでそんな問題思いついたんだ?」
「ああ、これ実は中学生の時に、『難しい』を『ナンシー』って読めるなって思ったんだ。で、それだけじゃ簡単すぎると思ったから、いろいろいじったわけだ」
「いじりすぎだ、ちくしょう」
「ということで、今日は俺の勝ちだな。じゃあ、支払いは頼んだ」
そういうと、Tは席を立った。
「ちょ、ちょっと待てよ。そんなの聞いてないぞ!」
「別に四百円くらい構わないだろう。前回は俺がおごったんだから、今回はお前の番だ」
「ぐぬぬ、卑怯な……」
「まあ、次に会った時は飯をおごってやるさ。それじゃあな」
悔しがるUをよそ目に、Tは喫茶店から出て行った。
実際に中学の頃に思いついた問題で、いろいろといじった結果、ややこしくなりました。
皆さんは解けましたか? あと、納得できましたか?