勇者と魔王のセカンドライフ
~魔王の間~
薄暗い部屋に2人はいた
1人は夜のような黒い髪に黒い瞳
整った顔立ちで聖剣と呼ばれる刃を構えた青年。
1人は燃えているかのような赤い髪、凍てつくような青い瞳、青年を見て微笑む顔は見るものを魅了するくらい美しい少女。
「なぜ、貴方は1人で来たの?仲間がいたじゃない」
少女は呟く綺麗な声で。
「うるさい、黙れお前せいだ。全てお前せいなんだ」
青年は、怒った声で吐き捨てる。
「わからないわ、私は何もしていない、何故狙われるかもわからない、何故貴方・・・勇者様が怒っているのかも」
少女は微笑むのを止め、凛とした声でそう言った。
「お前がいなかったら裏切られなかった。お前がいなかったら騙されなかった。お前がいなかったらこんな世界に呼ばれなかったんだぁぁああ」
青年・・・勇者は、聖剣に魔力を纏わせ少女に斬りかかる。
しかし少女は転移の魔法でそれをかわした。
「そうそれは辛かったよね。悲しかったよね。しんどかったよね。」
少女は、悲しむような表情で言った。
それでも勇者の斬撃は止まらない。
「貴方も、勇者も私と一緒なのね」
勇者は一心不乱に聖剣を振るっていた。
しかしすべて少女にかわされる。
勇者は、迷っていた。この少女は何を言っているのかと、この少女が言っていることは正しいのかと、この少女・・・魔王を信じていいのかと、勇者は聖剣を振りながら迷って、悩んで、 苦しんで、けど常に少女の声が聞こえた。もう戦わなくてもいいと
貴方は自由だと、何も信じなくてもいいと
もう苦しまなくてもいいんだと。
勇者の剣はいつの間にか止まっていた。
ただ力無く倒れこむ。
魔王は、勇者を抱きしめる。
勇者と魔王の澄んだ瞳から一筋の雫が落ちる。
「全てを話合おう。気がすむまで。」
魔王がそう呟いた。
2人はそれから自分の過去を話した。
勇者は3年前にこの世界に呼び出されたこと。
仲間ができ旅をしたこと。
魔王を倒せば元の世界に帰れると国王に言われたこと。
魔王にたどり着く前に仲間達が裏切り逃げたこと。
そして元の世界に帰る方法がなく国王に出されたと知ったことを話した
魔王は生まれ持った魔力の高さから隔離、監禁されていたこと。
魔王の力を利用しようとする奴等しか周りにいなかったこと。
利用出来ないとわかると去って行ったこと。
人の国に迷惑を掛けたことなど様々な罪を擦り付けられたこと。
そのせいで人に恐れられ命を狙われたこと。
結局2人は似た者同士だったのだ。
2人が落ち着きまた話す。
「これからどうしようか。魔王さん」
「それなら私といてください。」
魔王が少し頬を赤らめて言う。
「勿論、じゃあどこいこうか。」
「人のいないところがいいな。・・・そうだこのお城を破壊して私達が相討ちしたことにするのはどうかな」
「いいねそうしようか」
「そのあとに転移の魔法で遠くに行きましょう、勇者様」
爆音とともに魔王城が崩れ落ちその後2人をみたものはいなかったという。
どこか人のいないところで第2の人生を2人で幸せに暮らしているのかもしれない。
召喚物で元の世界に戻れないのって理不尽ですよね。なんかやるせない気持ちになります。あと2人が幸せに暮らしていることを祈ってます。