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第1話 くろいそらへ






 とくに理由もなく街をぶらつく・なーんてことはよっぽどの暇人か散歩愛好者か、あるいはこれから始まる物語の主人公と相場は決まっているものだ。

 俺は『突然非日常的な出来事に見舞われる主人公に憧れて街をぶらついてみたものの結局何も起こらず無駄に1日を消費する高校生』という設定のもと、無意味な日曜日を過ごす為に街へ繰り出した。

 家に居たって楽しいことなんて無い。

 家族とはもうほとんど口を利かない仲になっている。

 それももう、苦ではない。


 あぁ、暇だ。



挿絵(By みてみん)




 もう空から美少女でも落ちてこないかなー。

 そんでもって地面に叩きつけられて開始二ページで完結とかね。

 この際、美少女じゃなくてもいいや。

 男でもいいんでお願いします神様。


 あぁ、俺はなんてバチ当たりなことを願ったのだろう。

 俺が間抜け面で物思いにふけっているまさにその瞬間、大気圏で一人の男が燃え尽きた。

 













 

「物事には順序というものがあるのだよイチト君」

「順序………ねー」

「そう、学業しかり、昨日のジャイアンツ戦しかり、まっとうな順序、過程がなくては何事も成されないのだよ」

「そういえば昨日ジャイアンツ負けたな」

「黙りたまえイチト君。そう、昨日の試合は攻めの順序を誤った。故に敗北という結果に終わったのだよ」


 クラスメイトの野田と街でばったり出くわした俺は、非日常云々というさっきの妄想を話してしまったのが運の尽き。

 バカな上に理論家の野田はすぐさま面倒極まりない理論を展開してきたのだ。

 実に面倒だ。


「そう、今までの確固たる順序の上に今の日常があるのだよイチト君。『非日常』………実に聞こえのいい言葉だけど、それを獲得するまでにはおそらく尋常ではない順序があるだろう。そう、そして『非日常』を手に入れた時、イチト君、君にとって『非日常』はなんの変哲もないただの日常に成り下がっているのだろうね」

「十点差だったな」

「黙りたまえイチト君」


 俺は適当に野田の言葉を聞き流し、繁華街へ向かう。

 なぜか野田がついてくる。


「時にイチト君、君は今の生活に満足していないのかい?」

「別に。ただもう少し面白みがあってもいんじゃね?ってな」

「それは贅沢というものだよイチト君。いいかい、世界には恵まれない子供達が………」



挿絵(By みてみん)



 俺は無言で歩みを速める。

 背中で『あっちいけ』オーラを出したつもりだったが、野田が鈍いのかまったく気にしない様子でついてくる。

 どうやら野田も暇を持て余しているらしい。

 やれやれ、いつもの平凡な日曜日のまま終わりを迎えそうだ。




 街をぶらつく、なーんて行為で非日常に出会えるのなら世界は今頃混沌に満ち満ちていることだろう。

 十時間、街をぶらついて得たものは疲労感だけだった。

 とくに期待していたわけではない。

 だいいち、このご時世だ。

 街をぶらつく程度で得られる非日常なんてたかが知れている。

 せいぜいどこかの芸能事務所にスカウトされたり、可愛い子と知り合いになれたりする程度だろう。

 ―――――だが、それすら、俺には無い。

 家に帰れば一人の世界。

 苦ではない。

 だが、そこに楽しさは皆無だ。

 

 そうか。


 俺はただ、なにか楽しいことを見つけたかっただけなんだな。


 などと他人事のように考えつつ、俺は布団にもぐり込む。

 非日常なんていらない。

 なにか楽しいと思えることを探そう、明日から。

 俺は決心し、目をつむる。


 ――――現在二十三時半、皮肉にも非日常は俺の元に舞い降りた。






「おい」


 突然の呼びかけに、全身が硬直する。

 夢か?幻聴か?それとも誰かいるのか?いるなら誰だ?

 俺は幻聴であると結論づけた。

 ―――――だが。


「起きているのは分かっている」


 まじだ。

 まじもんだ。

 ………どうする?

 相手は不法侵入者だ………なにをされるか分かったものではない。

 

「ど………どちら様で?」


 なんで敬語やねん。

 という自己ツッコミはむなしく、更に用意していた『なんで関西弁やねん』という二段自己ツッコミはすんでのところで飲み込む。

 

「貴様を殺しにきた」

「……………………」


 沈黙。

 『ころす』って何語だっけ?

 という現実逃避に至るのにそう時間はかからなかった。

 

「冗談だ」

「……………………」


 沈黙。

 本気なのか本気じゃないのか。

 本気で殺しにきたのか本気で冗談を言ったのか。

 どっちやねん。

 なんで関西弁やねん。

 ヤバいぞ俺。

 今までに無いほどに脳細胞が活性化している。

 その証拠にツッコミの切れが尋常ではない。

 枯れる直前に乱れ咲く桜のごとく……って、じゃあ俺、死ぬじゃん。

 

「貴様は命を狙われている」

「……………はい?」

「昼間も貴様を殺ろうと宇宙から奇襲を仕掛けてきた者がいた。まぁ、そいつは大気圏で燃え尽きたが」


 ギャグか、これはギャグなのか、笑っていいのか、笑うべきなのか。

 ………………沈黙が苦しい。

 俺は全身全霊の力を集め、くすっと小さく笑う。


「笑い事ではないぞ。死にたいのか?」

「……………すみません」


 どうやら笑ってはいけなかったようだ。

 俺はおそるおそる起き上がり、枕元の電気スタンドのスイッチを入れる。

 蛍光灯の白い光が、その侵入者の姿をあらわにする。

 全身真っ黒、腰に刀を差し、凛と立つその男は俺より少し年上に見える。

 つうかデカ!

 2メートルはあろうかという巨躯だ。

 

「生徒会長の、武士道幹雄ぶしどうみきおだ」


 え?

 なに?

 今名乗ったの?

 今の名前なの?

 そんな名前アリなの?

 つうか生徒会長?


「私は副会長のカナリアイム・ベルトラインです。カナとお呼び下さい」


 誰も居なかったはずの空間から、更に一人の少女が現れる。

 こっちは学校の制服らしき服装だ。

 身長差が激しい。

 


挿絵(By みてみん)



「おめでとうございます。当選しました」


 そう言って、制服の少女は俺に紙を一枚手渡す。

 ……………見たことのない言語だ。


「……………………」

「あぁ、統一言語はこの星ではまだ出回ってなかったな」

「うっかりしました……翻訳機も手元にありません」

「まぁいい」


 黒ずくめの生徒会長(?)は腰の刀を抜くと、俺に突きつけて言った。


「その書類にサインするか、今死ぬか、選べ」


 ほーらやっぱり………。

 最初のは冗談じゃなかったじゃねぇか……………。

 俺はガタガタ震えながら放ってあった筆箱に手を伸ばしてペンを取り出し、書類にサインする。

 

「おめでとうございます。これであなたも超宇宙学園の一員です」

「超宇宙学園って……?」

「囲まれたな……詳しいことは後だ。まずはこの星からの脱出を優先する」


 この星………?

 なにを言って……

 俺の思考はここで止まった。

 生徒会長(?)の手刀は見事に俺の意識を刈り取ることに成功する。




 


 目を覚ますと、そこは保健室だった。

 保健室は保健室なのだが、いかにも保健室というだけだ。

 どこの学校だ………?

 うちの学校の保健室はこんなにも奇麗でないし広くない。

 掲示物に目をやると、どれも見慣れない言語で書かれている。

 そういえばさっきの書類と同じような感じが…………?

 俺はベッドから降り、深呼吸する。

 次第に記憶が回復し始めた。

 

 たしか俺は黒ずくめの暴漢にやられて………。

 

「生徒会長を暴漢呼ばわりとは………本人に聞かれたら命の保証はしかねますよ」

「!?」

「あ……失礼。つい読心機能を使ってしまいました」

「な………?」



挿絵(By みてみん)



 そこにいたのは、小さな女の子。

 十歳かそこらだろう、書記と名乗ったあの少女と同じ制服を着ている。

 

「因みに私は製造されてからまだ二年しか経っていません。つまり二歳です」

「せ、製造………?」

「はい、私は人造人間です」

「……………………」


 ………そういう設定のアニメかなにかにでもハマっているのだろうか?

 ――――可愛らしいことだ。

 あれ、でも今心を読まれたような………?


「…………まぁいいです」

「ここは?」

「超宇宙学園です」

「なんだそれは」

「超すごい宇宙の学園です」

「とんちやってるんじゃないぞ」

「冗談というモノを狙ってみました」

「冗談は狙うモノじゃない」

「記憶します」

「しなくていいから、ここがどこか教えてくれ」

「超宇宙学園です」

「…………………」


 俺はドアへ向う。

 このままでは埒があかない。

 自分の目で確かめるしかないようだ。


「あなたは地球出身でしたね」

「………まるで地球以外の出身があるみたいだな」

「ここは地球の方には少々珍しい環境です」

「………どういう意味だ?」

「言葉通りですよ。今のあなたに、現状を受け止めるだけの気力があるとは思えません」

「何を言って………」

「従って監禁します」


 ガチャン、という音とともにドアの中央が赤く光る。

 ――――まさかと思ったがそのまさか、鍵をかけられてしまったようだ。

 開かない。

 遠隔操作でロックできるドアなんてまた大層な。


「お前………」

「窓もロックしましたよ。袋のネコですね」

「ネズミだろ」

「ネズミなんていませんよ?」

「いや、なんでもない」


 さぁ困った。

 見知らぬ学校の保健室に監禁されてしまいましたよこんちくしょう。

 しかも電波少女と二人っきり。

 ―――――悲惨だ。

 これを悲劇と言わずになんと言う。

 

「お話をしましょう」

「なんでだよ」

「さぁ………なんででしょう?」

「……………」


 俺は脱出を早々に諦め、ソファーに腰掛ける。

 電波少女も向いのソファーに座る。


「あなたは、宇宙人が存在すると思いますか?」

「いきなりなんだよ」

「答えて下さい」

「…………まぁ宇宙は広いし、どっかには居るんじゃねーの?」

「では宇宙のどこかに地球人と同等あるいはそれ以上の文明を持った生命体が複数存在したとします」

「………………」

「彼らはお互いの存在を認識し合い、コミニュケーションをとり始めます。そして戦争や侵略といった知的生命体の因果的歴史を積み重ね、やがて手を取り合って一つの共同体を作り上げたとします」

「………………」

「やがて、共同体をよりよく運営する為に宇宙中から優れたリーダー達が選ばれ、彼らの活躍によって宇宙はより繁栄しました。しかし、彼らの命は無限ではありません。そこで、将来の宇宙のリーダー達を育成する機関の必要性が提唱され、実験的に設立された学校の一つがここです」

「……………………………?」


 仮定の話をしていたんじゃないのか?


「正式名称を第二超宇宙学園。『教育』の発達している地球式の教育システムを取り入れた学校がまさしくここですよ」

「冗談………だよな?」

「冗談は狙うモノではありません」

「さすがに信じらんねーよ」

「ここから出て外を見てみればすぐ理解しますよ。もっともショックで倒れるのが先でしょうけど。地球型の教育システムに則する為に中型種ばかりとはいえ………他星人を見慣れない地球人の方には刺激が強すぎますから」


 あぁ、昨今のアニメや漫画は影響力が強すぎだ。

 こんな小さな子供すらここまで汚染されるとは。

 嘘をついているようには見えない。

 おそらく心の底から信じきってしまったのだろう。

 やれやれ、だが誤った道を進んでしまった子供を正しく導いてあげるのも大人の役目だろう。

 などと自分がまだ高校二年生であることは棚に上げ、俺はこの少女に現実というものを教えてやることにした。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

「………ノヴァといいます」


 俺が急に態度を変えたので彼女は少し訝しみつつ、答える。

 ノヴァって何人だよ。

 彼女の見た目は東洋人とも西洋人ともはっきりしないので、偽名と断ずることはできない。

「歳は?」

「ですから、二歳です」

「いや、本当の年齢」

「製造されてからの年数であれば、二年と三ヶ月に四日ほどですが」

「そうか、そういえば人造人間とかいう設定だったな。それはなんてアニメだ?」

「アニメ………?」

「あぁ、なんのアニメの設定なんだよ」

「言っていることが分かりません」


 こいつは筋金入りだ。

 どうやら本気で何かのキャラになりきっちまっているようだな。

 

「いいかいお嬢ちゃん」

「名前で呼んで下さい」

「…………ノヴァ」

「はい」

「お前が人造人間だっていう証拠を見せてくれ」

「無理です。たとえ私を解剖しても素人では中型二足歩行種の雌型と見分けがつきませんよ。なにせヨクトメートル………10のマイナス24乗の極小の生体機械が実際の構造と同一で配列していますから」

「じゃあなにか特殊な能力とか」

「………機能の無断使用は禁じられていて………」


 のらりくらりと躱しやがって。

 しかもどの言い訳も理にかなっていて(実際は全く理にかなってなどいないのだが)ボロを出さない。

 なんて可愛くない奴だ。

 

「あの黒いのとかはお前の友達か?」


 俺は面倒になり更に話題を変える。


「あながち間違いではありませんね」

「いいか、これは拉致と言ってだな…………」

「あなたはちゃんと署名したと聞いてますけど?」


「そういえばしたな。でもあんな意味不明な言語で書かれたものなんざ無効に決まってるだろ」

「これは統一言語と言って、全宇宙で通用する言語です」


 ノヴァは壁に貼ってある掲示物を指して言う。

 やれやれ、なんてこったイタズラだ。

 

「あのな、これは立派な犯罪なんだ。今すぐここから出せば警察には行かないでやる」

「順応力の低いヒトですね………いいでしょう」


 ノヴァが言い終わると同時にガチャンっという音がして、ドアの赤い光が消える。

 

「あなたみたいなヒトには多少危険でも実物を見てもらった方がはやいですね」

「まだ言うのか………」

「これを持っていって下さい」

「…………これは?」

「拳銃です。地球のモノと同じ型なので扱えるはずですよ」


 どこから取り出したのか、ノヴァの手には黒光りするモノが。

 おそるおそる手に取ると、ズッシリとした重量感がこれを本物だと決定づける。


「こんなもん使えるかよ!」

「ご安心を。その程度の武器で死ぬのはこの学園において地球人とモブトー星人だけですから」


 モブトー星人って誰だよ!


「逆に心配になってきたぞ」

「この学園の保険医は宇宙でも屈指の名医です」

「そういう問題じゃねぇ」


 心のどこかでは、『もし彼女の言うことが本当だったら?』と考えてもいた。

 つまりこのドアの外が魑魅魍魎、奇想天外のパラダイスだとしたら?

 いやいやそんなことは無い、とすぐさま考えを抹殺し、俺は拳銃をノヴァに突っ返す。

 

「いらねー」


 これを持ったまま行くと、ノヴァの話を信じたみたいじゃないか。

 無い、万が一、いや億が一でもあり得ないんだ。

 そう、きっと俺はどこかの変人達に拉致られて見知らぬ学校まで運ばれてきただけなんだ。

 本来それだけでも一大事なのだが、このときの俺は正常な思考ではなかった。

 半ばやけくそ、俺はドアの前に立つ。

 深呼吸、そして―――――――自動ドアだった。

 自分で開けようとしていた俺は虚をつかれ、一瞬動きが止まる。

 ドアの取っ手らしき部分から、本来の位置へと目線を戻す。


 さぁ笑え。

 俺は即座に気を失い、再び保健室の世話になるのだった。

 








というわけで連載開始します。書きためてあるので、しばらくは連日投稿できるかと。

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