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私の“使い魔”さま  作者: 夢見の筆
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刀剣を求めて

「ケイオスさん、こちらが刀剣専門店です。私は来たこと無いんですけど、マルス君がよく利用してるみたいですけど…」


「ああ、あの青年か…なるほど、品揃えは悪くないな…だが、エリス…」


ケイオスの剣を買い求めに二人が足を運んでいるのは、マルスがひいきにしている刀剣専門店だった。

しかし、二人の足は店の入口を前にして、一歩も進んでいなかった。

見本品として店外に掲示されている一振りは光沢も装飾もほどよく、誰が見ても良作なのだが…

いかんせん、貴族のマルスと同じ店で買い物をしようとしたのが、間違いだったのだ。

柄の部分に貼ってある値段は、それだけで住む世界の違いを認識させるものだった。


「他にも西側に刀剣専門店があったと思いますけど…西側は…」


「スラム街の近くだから、店が開いてるかすら分からない…か…」


昨夜のスラムでの殺人事件はセントラルシティの至る所で話題となっており、見回りの治安部隊がそこかしこで目につくくらいであった。

そんな状況では街の西部に行く人もいないだろうし、西側の商店は殺人鬼を怖れて店を開けていないだろう。

事態の解決の為にも武器が欲しいところだが…こんなところで足止めされるとは、二人とも思ってもみなかったことである。


「とりあえず、行くだけ行ってみませんか?もしかしたら、開いてるかもしれないですよ。」


「分かった。なら、行くとするか…」


エリスは目の前の高級刀剣専門店に背を向け、街の西側へと歩き出す。

その表情は重く沈み、足取りもまた同様に重くゆっくりとしたものになっていた…

ケイオスはそんなエリスに、すれ違いざまに一言だけ声をかけるのであった。


「エリス。」


「はい?何ですか?」


「殺人鬼だろうが何だろうが…俺がエリスを守り通す…安心しろ。」


ただ、それだけを告げ、ケイオスはいつも通り、エリスの一歩後ろをついていく。

少なからず不安に重くなっていたエリスの足取りは、ケイオスの言葉を受け、いつも通りの歩みを取り戻していた。

もっとも、その表情はケイオスの不意打ちの優しい言葉を受け、尚更に見せられるものではないくらい、ぐしゃぐしゃになっていた…


「それで…どこまで行くつもりだ、エリス。目の前にある店は、刀剣専門店ではないのか?」


「はっ、はいっ?あっ、はい、そうですね!開いてる…みたいですね。」


ケイオスに注意されて店内を覗き込むと、老店主が荷棚の掃除をしているところであった。

エリスの視線に気がついた老店主は驚きながらも、人の良さそうな笑みを浮かべて、店の外まで出てきた。


「おやおや…可愛らしいお客様だね…ここは刀剣専門店だよ。何か探し物かい?」


「こんにちは、おじいさん。私じゃなくて、私の連れが剣を買いに来たんですけど…おじいさん、こんな時でもお店を開けてて大丈夫なんですか?」


「ああ…そりゃあ不安だとも。いつ殺人鬼が現れるか分からないんだからね。けどね…そんなことで店を閉めとくわけにはいかないんだよ。いつでも変わらず店を開け続けることが、私の信条だからね。」


「はあ…すごいんですね…」


「それにほら、こんな時でもお店を開けてるから、君のような可愛らしいお客様が来てくれた。なかなかに素晴らしいことじゃないか。」


穏やかな笑顔で話す老店主のそれは、まさに年齢を重ね成熟された人の在り方であり、容易に真似できるものではない。

現に、西側の商店は軒並み店を閉めており、この老店主の刀剣専門店が開いてることが傍から見ればおかしな光景だろう。


「店主よ、我が名はケイオス…貴殿の店に対する思いの尊さ、感銘に値する。是非ともこちらの店で刀剣を買い求めさせて頂きたい。」


店の外に陳列されていた刀剣を眺め終えたケイオスは、老店主の前に来るなり、深々と頭を下げた。


「おやおや…今時随分と礼儀正しい方だね…こちらの人がお嬢さんの連れのお客様かい?」


「は…はい…」


「深紅の双眼…人間とは違うみたいだね…でも、お客様には変わりなさそうだし、礼儀正しいし…気に入ったよ、君たち。好きなだけ見ていきなさい。」


老店主はケイオスの異質さを見抜きながらも、破顔して二人を客として店内に招き入れようとした。

しかし…


「そう簡単に…事は運ばない…ということか…」


背中に突き刺さる強烈な殺気を受け、ケイオスが振り返る。

そこに立つのは、一見すればただの中年の男性…

もっとも、両手に持った治安部隊から奪ったであろうサーベルと、足元に浮かぶ魔力の波動さえなければ…だが。


「あ…ケイオス…さん…どうしよう…私…足…震えて…」


殺気に当てられたエリスは、その場から動くことさえできず、膝から崩れ落ちかかっていた。

老店主は気丈にも殺人鬼の姿を直視できており、エリスに肩を貸して、何とか身体を支えていた。


「店主…エリスを、その娘を頼めるか?刀剣を一振り使わせてもらうが、代金は後で払う…」


「分かった、この娘は責任持って店の奥に連れていく…お前さんも無茶するんじゃないぞ…」


「すまないな、店主…エリス、また後でな…」


ケイオスは店の外にある剣を一振り抜き取ると、静かに目を閉じる…

老店主がエリスを連れて店の奥に去っていくと、冷たい殺気を纏いながら深紅の双眼に魔力の灯を宿しながら、目の前の殺人鬼と対峙する。


「スペル(術法展開)、マテリアルコート(装具、魔力補強)…さあ、返してもらおうか…お前に魔器は不釣り合いだ!」


ケイオスは踏み込みと同時に、魔力で強化した剣を横凪ぎに振るっていく…

さながらそれは疾風であった…

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