使い魔さま、現る
「次は…シュレイ君の番だ。」
一人、また一人と順調に召喚と契約を行っていき、残るは二人だけとなった。
その二人とは、召喚を行う順に、シュレイ・ミンストン、エリス・ミュールである。
名を呼ばれたシュレイは魔法陣の内側へと歩いていく…
「では、シュレイ君…召喚術の咏唱を。式典口上は間違えないように。」
「分かってるさ…」
レオン教授を横目に、シュレイは目を瞑り、己の魔力を極限まで解放していく…心臓が血液を作り出して全身に送るように、魂が魔力を作り出して精神の補強をする。
ゆえに魔力は精神力とも称され、心の在り方が魔力指向を決めるものとなる。
博愛主義者なら心優しき使者を、残虐な心の持ち主なら相応に冷酷な使者を…それぞれの魔力指向に合った使者が喚び出される。
「コール(我は喚ぶ)!サモン、サーヴァント!(来たれ、我が使者よ)」
シュレイを中心に魔法陣が光り輝き、異世界の門がひらく…
逆光の中から出てきたのは、長い茨のツタを幾つも有する巨大な植物だった。
「契約の儀に従い、問う!その名、マンイーターに相違ないか!応ずるならば我と魔力の交換を行え!我は契約者、シュレイ・ミンストンなり!」
契約のコードを読み上げ、シュレイとマンイーターの身体から淡い光が粒子となり舞い上がり、互いの魂を結ぶ線…魔力線が形成される。
召喚科の学士が世界論、その中にある魔物知識を学ぶ理由の一つは、喚び出した使者との契約に名を呼ぶ必要があるためである。
「ふぅ…じゃあな、仲良し三人衆。もっとも、そのうち一人は召喚に失敗して脱落しそうだがな!」
エリスを一瞥すると、シュレイは笑いながら召喚の間を後にした。
クレアは火トカゲのサラマンダーを従え、マルスは天馬のペガサスを従えながら、エリスにエールを送る。
「大丈夫よ、エリス…あんなトゲトゲ頭の言うことなんて気にしないで」
「入学当初、エリスはいまだかつて無い魔力指向の持ち主だと言われていたんだ…たとえ今までどの魔術にも適性が無かったとしても、今回はきっと…」
「うん。ありがとう、二人とも…行ってくるね。」
受験者最後の召喚を行うため、エリスが魔法陣の中に足を踏み入れる…
すると魔法陣は黒い光を放ち出すのであった。
その異様さにレオン教授すら見とれているうちに、エリスが召喚を行う。
「コール!サモンサーヴァント!」
直後、召喚の間を微弱な揺れが襲い、黒く輝く魔法陣から六本の魔力の固まりが外界へと凄まじいスピードで飛び出していく。
「これは…暴走とも違う…だが…有り得ない…これほどの魔力の波動…いったい、何が…」
レオン教授が目を細めて魔法陣の中心を見ると、エリスの他にもう一つの人影があった。
肩まで届く漆黒の髪…見るものを畏怖させる深紅の双眼…
いわばそれは覇王の風格にして、神にも近い畏れ多さであった。
意を決して、エリスは目の前の強大な存在に語りかける。
「あなたは…いったい…」
「転移の際に歪みができたか…とは言え…我が名はケイオス。俺を呼び寄せるとは大したものだな、小娘。」
男は不敵に、エリスを見下ろしていた…