召喚の前に…
薄暗い部屋の中に入っていくと、漆黒に塗り潰された床の中央に複雑怪奇な魔法陣が描かれている…
この部屋こそ、召喚士が使い魔を召喚するための部屋…召喚の間である。
「さて、皆さん既に習っているとは思いますが、使い魔を召喚し、契約するまでの流れを確認しておきましょう。」
レオン教授が受験者を見渡す。
召喚科の卒業試験の受験資格は、召喚術概論と召喚術応用論、そして世界学基礎の三つの講義において、認定試験を受け、全て全問正解すること…
つまり、今からレオン教授が話す内容は、彼らにとって何度となく復習してきた内容なのである。
「まず、召喚の方法ですが…初期契約召喚と契約使者召喚では法式が異なります。皆さんがこれから行うのは、初期契約召喚…大掛かりな魔法陣を展開し、異世界から自分の魔力指向に見合った使者を引き出す召喚です。異世界にいる数多の生物から一つの使者を探し出すため、膨大な魔力を消耗します。そうして喚び出した使者との契約ですが…」
「使者の名を問い、契約のコードを読み上げ、魔力の相互授受を行い、魔力線を召喚者と使者の間に結ぶ…そうだろう?」
すぐにでも召喚を始めたいのか、苛立ちながら受験者の一人、シュレイ・ミンストンがレオン教授を見返す。
しかし、話の腰を折られたことをレオン教授は何ら気に留めず、淡々と話を続ける。
「その通りです。召喚者と使者の間に結ばれた魔力線は契約が切れるまでは消えません。契約は召喚者が契約破棄のコードを読み上げるか、どちらかの生命力、または魔力が尽き果てるまでは継続します。」
レオン教授の回りくどい言い方でも、受験者には十分伝わっていた。
すなわち、契約した以上、契約破棄の呪文を使者にかけるか、召喚者か使者の命か魂が尽きるまで…死ぬまでは契約が続くということ。
「使者は皆さんの大切な相棒となります。召喚と契約に使った魔力が回復するまでの間に、十分コミュニケーションを取ってください。では…お待たせしました。受験者は番号順に並び、一番の者は魔法陣の中に入りなさい。」
そしていよいよ、使い魔の召喚が始まる…