お見合いで婚約破棄を叫ぶ王子が娘に傷物は去れと暴言を吐くので彼が得ているうちからの恩恵も取り上げて去った
不本意な茶会に不本意な参加。とてもではないが最初から到底納得できないままの着席から事件は起こった。
「母上!私はこんなブスと結婚したくなんてないです!お前なんかと結婚なんて絶対しないからなっ!」
王家から顔合わせをしてください、どうかどうかと頭を低くされて頼み込まれ娘からはお城に行ってみたい、なんてキラキラした顔で言われたら断れる母親なんていないと思う。
「婚約破棄します!キズモノの女は高潔なここから早く去れ!汚らわしい存在めっ」
第三王子は現在七歳ほどだった記憶がある。つまりクソガキムーブの年齢だ。
「な、何を言っているんだ……」
王妃と王が信じられないものを見る目で息子を見ており、こちらの顔はまだ目撃していない。これ幸いと王子が罵倒した娘の母親であるルシリエスは、ゆっくりと紅茶をテーブルに置いた。
「私の娘がブス……?」
「お母様、どうしたの?痛い痛いの?」
三歳の娘がよしよしと母のドレスを撫で撫でした。おい見ろ王子、この子は優しい天使にしか見えないっていうのにどこに目がついてるんだ??
「私の娘に婚約破棄……?」
ルシリエスは娘を撫でてから指をスィッと動かせば座っている光が鈍く光る。
「私の作ったアイテムの恩恵に頼り切って育ったくせに、なにを一人で成長した気になってるのかしら?」
氷が今にも降ってきそうな瞳で男の子を尋問する。しかし、怒りが伝わっていない興奮状態にいる娘のお見合い相手は尚も、こちらをバカにしくさった態度で舐めてかかってきていた。
王たちはこちらの天を割きそうな怒りに触れ、ぶるぶる震え出す。謝りなさい謝りなさいと親が必死に言うのに肝心の息子はぷん!と顔を背けている。
いいご身分だ。よし、いいだろう、その喧嘩は買ってあげよう。
無言で娘を抱っこして王族に向けて腰を曲げて、マナーを最低限守った体裁をすれば呼び止められたが振り向くことなく、母親の笑みが浮かんだ進行は誰かに止められることはなかった。
次の日、王子の食事や服、ありとあらゆる生活の質が落ちた。王子は当然泣き叫ぶ。あれが欲しいこれが欲しい。全てが欲しいとうるさく泣く。
父親と母親、王と王妃は震えて貴方の生活を支えていた商会と夫人の発明したものを使わせれば、今度は王家全てに下ろすのを停止すると昨日話し合ったのだと言われた。
王子は平民一人に何を言ってるんだと叫び抗議したが、貴方がバカにしたのは夫人の娘なのだから、娘を蔑み出て行けと追放を宣言してありもしない婚約を破棄した報復を今まさにされている。
などと説明されても王子は惨めな生活をさせられたことはないので、ただ意地悪をされているようにしか思えない。
元に戻してくださいとワアワア泣いても父親も母親も首を横に振り、子供が言うことを聞かなかった罰なのだと言い聞かせる。
「イヤですイヤです!」
この言い聞かせることも許しの条件に入っていた。
「あのブスが!」
「やめなさいっ」
「口を閉じろ」
「えっ」
怒られた経験のない子供が眼をまんまるに開けたが、親たちは怖い顔をしている。
「な、なんでぇ」
「お見合い相手に暴言を吐く人間は王家に相応しくない。私が言いたいことがわかるか?」
「ひう……で、でも」
「本当はどうなの?」
「好きなのか?嫌いなのか?」
「す、好きです。可愛いからあんなことを言いました」
王妃と王は目を伏せた。あの会長は娘を馬鹿にしたものを許さない。
「はぁ、諦めなさい」
「え」
王が首を振る。王子は目に涙を溜めてポロポロ流すが、涙と同じで出たものは元に戻らないということをしっかり教えなければならない。
*
「ただいま」
「おかえり」
ルシリエスはフィナドに向けて笑う。王家といい商売の話を付けられたから気分は最高。夫はリビングから出てこちらへ来た。
「王妃はやっぱり忘れていた?」
「ええ、あの女、貴方が平民枠として入ってきた時に虐めてたことをすっかり忘れているわ。謝らなかったし、こちらの会長補佐の名前を聞いてもダメだった。あれは片隅にも残ってないわね」
「そんなことだろうと思った。一体全体なんの冗談かと思ったからね」
夫のフィナドは学生時代、貴族のお遊び的な感覚で虫のように小突かれて散々な生活を送っていたと聞いていたから。ルシリエスはその王妃に息子を通じて一番ダメージを受ける方法で報いられたのだ。
本当はもっと違う方法だったのだが、運命の采配で王妃の息子がやらかしてくれた。自分たちに勝ちの風がふわっと吹いたのを感じ取れるほど、綺麗にピッタリハマったのだ。
王子の生活を支えていた、ルシリエスたちの商会が契約している魔道具屋や、必要不可欠なものでなくて無くても困らないが今まで高品質だったものでなくなる不便さは想像に容易い。
王家も国、他国への影響が強い商会を使わずにいたらその噂が知られただけで他の国や商人たちに信用されなくなるほど、今やこちらの肩書きは大きくなっていた。
それもこれもルシリエスによるアイデア商品の凄さのおかげだ。このおかげで王家の依頼を受けつつ自由に采配を振るえるし、ああやって生活用品を人質に王家のダメさを無言で指摘できる。もっとも本来のターゲットである、王妃に手を下さず罰せたのは僭越至極の境地。
今頃息子にビービー言われてノイローゼ気味になっていることだろう。過去夫に対して非道なことをしたくせに、娘に見合いを申し込むとは何事かと商会ごと引越しをする計画もしたほどだ。
他の国から誘致があるから、ここでなくとも構わない。この国の人間からすると税金が入るからいて欲しいだろうけど、王家が愚かな国なんて嫌悪感が強すぎて住み続けられない。憤慨していると夫が落ち着いてくれ、と苦笑する。
「報いられたから前ほどは腹が立ってないわよ?」
「僕より怒ってるよ」
「そうかしら?」
娘を馬鹿にされていた分だけの消費しか、し切れていない。王子だけの罰であり王妃たる母親の過去の清算はまだなのだ。
王妃にどうやってこの思いを思い知らせてやれるのか、時々燦然たる想いで胸に燻っていたので次なる手に笑みが止まなかった。
王も王だ。過去妻がバカにした相手を調べもせずに招喚しておいて、何もなく終わるわけがない。知らないで許される地位ではないのだ。
王子は数年後、許されることはないままジワジワと真綿に首を絞められるように周りから軽く扱われるようになった。
それに伴い王妃も息子の母親として商会の娘に暴言を吐かせるような教育をしていると広まっており、評判を落としていたので思った通りの展開になって、ルシリエスは大満足である。
娘は娘でしっかり恋をし別の男の子と遊ぶ約束をしていて、彼女なりの青春を楽しんでいる。夫とも順調に商会を大きくして無理のない範囲で楽しんで経営していた。
過去、平民の夫をおもちゃ扱いして弄んだ相手に足をすくわれると王妃は思ってもみなかったことだろう。やられた方は忘れないのだ。
王妃はすっかり忘れているので自分がきっかけや発端などとは知らないままだが、わざわざ言う気はない。精々、息子周りの醜態で世間や世論で右往左往しておけばいいと思う。
「お母様、文字これであってる?」
「あってる。綺麗な字にかけたね」
「うん」
夫が作業をしている音を聞きながら、娘の柔らかな髪を撫でた。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。人の悪口がすぐ出るのは親の真似をしているだけなので悪気はない子供。悪い見本がすぐそばにあっただけです




