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08.屍人と正体

ーーー現在


 「こんなところだな」

 「いやいや、村は廃村になってるじゃないですか」

 「去年同じようなことが起きたと言っただろ」

 

 「俺は新聞で読んだだけだが、その日も大量の魔物が森から出てきて、それを倒すため街からフニャードに冒険者を送ったが、皆殺しにされたらしい」


 「えぇっ!皆殺し⁉︎そんなサラッと言わないでくださいよ」

 「そのことがあってこの村は終わった」


 シンの話を聞き終えたルーには疑問ができていた。


 「あの、いくつか聞きたい事があるんですけど」

 「かまわん」


 「土鬼が見つからなかったってことは、ミドビルさんを殺したのは結局何だったんですか?」


 「わからない。ただ、ミドビルは死ぬ寸前に『鬼が出た』と言っていた。やはり土鬼がいたのかもしれない、去年も大勢殺されてるわけだしな」


 「去年村を襲ったのも同じ魔物ですかね」


 「どうだろうな、だが今回は違う点が一箇所あったそうだ」

 「なんですか?」


 「村の近くの貯蔵庫が叩き壊されて、蜂蜜が全て無くなっていたらしい」


 「蜂蜜が?あ、わかった!なるほどな、それ魔物に見せかけた人間の仕業ですよ絶対!」


 「かもしれんな」

 

 ルーが名推理を披露して、シンがそれを適当に流す。事件を解明したルーが次の質問に移った。


 「じゃあもう一ついいですか」

 「なんだ」

 「シンさんは今何歳ですか?」


 唐突な年齢確認にシンが僅かに驚く。


 父とシンが、少なくとも十年以上前から遺跡調査をしていたにしては、シンの見た目が若すぎる事をルーは気にしていた。今の昔話を聞いてその疑問が強まったのだ。



 「俺は…正確にはわからんが三百年は生きている」



 人の寿命は約七十年、シンの語った長すぎる年月に、ルーはある確信を持った。


 「三百年!やっぱり長命種だったんですね!」

 「まあな」

 「その尖った耳、血の気のない白い肌…」


 シンが土を掘る手を止めてルーを見る。


 「エルフですよね!初めて会いました」


 「…あぁそうだ。俺はエルフだ」


 シンが土掘りを再開する。


 「まさか同じ街にエルフが住んでるなんて思いませんでした」


 「もう質問はいいだろう。口じゃなく手を動かせ」


 その話題を避けたかったのか、シンが急かした。


 「はーい」

 ルーが気の抜けた返事を返す。

 


 それからかなり深く掘ったところで、スコップが硬いものに当たって短い金属音が鳴った。


 「掘り当てましたよ!」


 ルーが休憩中のシンを呼ぶ。


 「でかした。そのまま掘り起こせ」


 シンは貧血でも起こしたのか、荷車の上でぐったりしながらチョコレートを食べている。


 「石の棺なんですね?木製かと思ってました」


 ミドビルの棺は石棺だった。


 「俺はミドビルと賭けをしていてな、その関係であいつには丈夫な棺に入ってもらった」


 「賭け?どんな賭けですか?」


 「長く生きた方が、先に死んだ者の全てを貰うという賭けだ」


 「えー!面白い!エルフとドワーフ、長命種だからできることですね」


 「ははは、面白いだろう!」


 「あっはっは、おもしろいです!」


 深夜に重労働をして気がおかしくなったのか、二人は笑いあった。しかし突然ルーが我に返る。


 「ちょっと待ってください。じゃあ死体を魔物とか墓荒らしから守りたいんじゃなくて、この棺の中の物が欲しいから掘ってるんですか!」


 「違う違う。安心しろ。それとこれとは別だ」 


 図星を突かれて焦ったシンが言いくるめる。


 「なぁんだ、てっきり自分が本当の墓荒らしをさせられてるのかと思いましたよ」


 「テールの息子にそんな事させるわけないだろ」


 (こいつやっぱり勘がいいな)

 シンは心の中でルーに感心していた。


 「石で出来てるなら壊れることはなさそうですね」


 ルーはそう言うと、山でも崩すような勢いで掘り始めた。八年前に埋めた木製の棺なら、もう腐っていると思っていたため、今まで力を加減していたようだ。


 しばらく掘ると穴は深い所でルーの背丈を超えていた。サボっているシンに声をかける。


 「掘り出したんですけど、この棺かなりデカいですよ!」


 シンが荷車から降りて穴を覗くと、大人が五人は入れるほど広く掘られていた。


 「お前やりすぎだ」

 「棺はどうやって上に運びますか」

 「投げれるか?」

 「流石に無理ですね」


 冗談を言っていると、遠くで地響きがした。


 「今何か…」


 「今何か聞こえなかったか?」そうルーに声をかけようとしたが、足に違和感を覚える。


 見れば隣の墓から腕が出てきて、シンの足を掴んでいた。


 「!」


 ゾンビだ。

 シンは驚いたが、ここで声を出せば下のルーがパニックになる。その声を聞きつけて他の墓からも別のゾンビが出てくるかもしれない。そう考え、小声でルーに話しかけた。


 「おい、これを使え」

 荷車に載せていた縄をルーに渡す。


 「えっなんですか?」


 「馬鹿、大きな声を出すな!」

 そう言ってシンが自分の足元を指差す。


 「?」


 指された先を見るため、ルーが穴から顔を出すと、既に肩まで出てきていたゾンビと目が合った。


 「うわぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 初めて見るそのおぞましい姿に、ルーは大声をだしてしまった。それが引き金となり、他の墓も土がモゾモゾと動き始める。


 「馬鹿野郎!」

 

 シンが怒鳴りながらゾンビの腕を振り払う。続けてルーに指示を出した。


 「俺が魔術で少し棺を浮かせるから、それを巻き付けろ!」


 命令と同時に縄を投げつけられたルーは、ゾンビを見た衝撃と合わさってパニックになる。


 「あっとえっとあっとあの」


 「何してるんだ!」

 

 見かねたシンが穴に降りてきた、どうやら縄を巻くのを手伝うらしい。だが遅れてもう一人降りてきた。


 穴に入ってきたのはほとんど骨のゾンビ、それを見たシンが即座に後ろ回し蹴りを放つ。喰らったゾンビはバラバラになった。

 

 するとルーがシンの体を掴んで、すごい力で引き寄せる。


 「だ、ダメですよ!噛まれたらどうするんですか!」

 「噛まれるのがなんだ!屋敷に戻れば消毒できる」


 「何言ってるんですか!ゾンビに噛まれたらゾンビになるんですよ!」


 「は?」


 「だからボァッ」

 ルーの左頬にシンの拳が炸裂する。


 「それは迷信だ!」


 殴られた頬を抑えながら、ルーが「でも」と言い始めるがシンはそれを許さない。


 「こいつらは浮遊思念体だ!所謂ゴーストと呼ばれるやつで、生き物の死体に取り憑かなければそのうち消えてしまう弱い魔物なんだ!噛まれてもゾンビになどならない!」

 

 「わかったら立て!石棺を引っ張り出すぞ」

 「…はい」


 剣幕に押されたルーが、力無く返事をする。

 

 シンが棺に魔術をかける。殴られて冷静になったルーが縄を巻き付けた。


 棺を引っ張り出すためにルーが穴から上がると、そこは墓場から地獄に変わっていた。


 「うわぁ」

 

 既に地上は骸骨とゾンビで溢れている。暗くてよくは見えないが、特に墓場の入り口に集中しているようだ。


 「墓場は浄化されてるんじゃないんですか!」

 「とっくに切れてたようだな」


 文句を言ったルーの気持ちはもっともだが、今それを言ってもどうにもならない。


 「まだしばらくは棺にかけた浮揚魔術が効いている。俺がこいつらの相手をするから、お前は棺を穴から出して荷車に載せろ」

 

 「わかりましたよ!」


 ルーが縄を掴む。浮揚魔術は非常に効果的で、難なく棺を引っ張り上げることができた。


 だがその大きな動きに気づいたゾンビと骸骨の軍団が、二人を見つけて襲いかかってくる。


 それを見たシンが右手を横に突き出すと、空間から何か短い棒のような物を出した。収納魔術だ。

 

 ルーはその後ろ姿を見ていた。


 取り出した棒は金属製で、装飾の凝ったキノコのような形をしている。


 シンが右手で持ったキノコを身体の左側に構え直すと、キノコの頭から白い光が出現した。


 その光は細長い刀身となる。シンが引きつけたゾンビ共を横薙ぎ一閃、三体を斬り伏せた。


 「なんですかそれ!」

 後ろで見ていたルーが目を輝かせて叫ぶ。少し元気が戻ったようだ。


 「魔力のレイピアだ、早く棺を載せろ!」


 急かしてはいるが、律儀にルーの質問に答える余裕はあるようだ。

 

 「載せました!」


 「荷車を引いて着いてこい!」

 そう言うとシンは、前にいたゾンビ数体を斬って突いて蹴り飛ばして道を開ける。


 その勢いのまま走って行って、墓場の木柵をレイピアで切断。荷車が通れるようにした。


 「入り口は数が多すぎる!ここから出るぞ!」


 「はい!」


 走るシンに、慣れた荷車捌きで着いていくルー。ゾンビ共を置き去りにして、二人は村の鉄門まで走った。


 村の入り口が見えてルーが安心すると、シンが立ち止まった。


 「なんで止まるんですかぁ⁈」

 シンにぶつかりかけたルーが、なんとか荷車を急停止させる。


 「おかしい…」

 「何がですか!早く出ましょうよ!」

 「お前、門を閉めてたよな?」

 「多分風か何かで開いたんですよ!」


 「待て!来た時にあんな所に家があったか?」


 シンが鉄門近くの民家らしき影を指差す。


 「家なんかどうでもいいですよ!もうゾンビが追いついちゃいますって!」


 揉めているその時、雲の切れ目からシンが言った民家らしき物に、月明かりが照らされた。二人は自分達が見た光景に目を疑う。



 民家は、大きな熊の魔物だった。



 巨大な黒い体には、ところどころに赤い毛が混じり、頭には禍々しい二本の角が生えている。


 そして何よりも、足が全部で八本あった。


 「シ、シンさんあ、あ、あれ、あれ」


 「ミドビルめ、とんでもない見間違いをしてくれたな…まさか鬼熊とは」


 鬼熊おにぐまとは。

 大きく丸い胴体から、前足が六本生えた計八本足の特大の熊の魔物。どの足も太くて長いが、特に背中から生えた一対は巨大で、これで相手を叩き潰すのと、咆哮で獲物を気絶させるのを得意としている、土鬼より遥かに危険な魔物。好物は蜂蜜。


 標高の高い山に住み、人前に現れた記録はほぼ無いため、シンも実物を見るのは初めてだったが、資料と挿絵で存在と特徴は知っていた。


 鬼熊はこちらに既に気づいてゆっくりと近づいてきている。どうやらここら一帯は、もう既に奴の縄張りだったようだ。


 「獣避けがあるんじゃないんですか!?」

 「あるから今までは入って来なかったんだろうな」


 シンの推察通り、壁や門が壊されていなかったのは鬼熊が他の魔物同様に、獣避けを嫌って村に近づかなかったからだ。だが今回は縄張りを守るため、それを無視してまで侵入者の元へやってきた。生きて帰す気はないだろう。


 「逃げるぞ。荷車は諦めろ」

 「ひ、棺は?ミドビルさんはい、いいんですか?」

 「そんなこと言ってる場合じゃない」


 「俺が合図をしたらお前は後ろに走れ。手ぶらならゾンビも撒ける。反対側の壁を超えて逃げろ」


 「シンさんはど、どうするんですか」

 「俺にはとっておきがある。任せてくれ」


 そう言うと、シンが収納していた最後の荷物を取り出す。それは回復薬の瓶だった。だが中の液体が黒い。通常は青か緑だ。


 瓶の栓を抜き、シンが中身を一気に飲み干した。そして合図を出す。


 「行け!」


 ルーは無我夢中で走った。


 

 

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