表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

13.武器と鎧

 背後から殴りかかったルーの拳は空を切る。シンが身体を屈めて避けたのだ。


 屈んだ体勢のまま足払いを放ち、転んでうつ伏せになったルーを、膝で抑えつけて右腕を取り、背中側にまわし極める。


 そうやって上になったシンが、ルーを見下ろして言った。


 「次の仕事が終われば必ず続きを話す。手伝ってくれるな?」


 右腕を極められたルーは、自由の効く左腕と足で思い切り地面をつき飛ばした。その怪力で二人は宙を舞う。背中に乗っていたシンは投げ出されて、少し離れた位置に着地した。


 「ハッハッハ」


 吹っ飛ばされたシンが笑いだす。


 「お前は狼男と認めないが、その腕力はなんなんだ?さっさと正体を見せてみろ!」


 「五月蝿い!」


 ルーがまた殴りかかった。左右の大振りの連打をシンが躱して受け流す。全て防いではいるが、どれか一つでもまともに当たれば骨が折れそうな威力だ。

 

 「まるで子供だな。勢いはあるが、通用はしない」


 打ち終わりを狙ってシンが鳩尾に一撃をいれた。ルーはたまらず膝をつく。


 「ぐはっ、くそ!」


 悔しがって地面を殴る。身体はルーの方が強いだろうが、そこには諦めざるを得ない圧倒的な実力差があった。


 「このように、戦闘面ではなんの役にも立たんお前だが、体力と腕力は評価してるんだ。これからもよろしく頼む」


 シンが手を差し伸べた。敗北したルーがそれを少し迷って握る。引っ張り上げられ、立ち上がった。


 「いつでもかかってこい、相手をしてやる。だが今のお前じゃ勝負にならん。わかるな?」


 「…はい」


 怒りに任せて襲いかかり、返り討ちにあったルーは、その痛みで頭に登った血が引き、ばつが悪そうに答えた。


 「手伝うだけで良いとは言ったが、魔物が複数現れれば俺も手がまわらん。だから自分の身を守れるくらいにはなれ」


 言い終えるとシンが石棺を指差す。


 「ミドビルの盾と剣がある。お前が使え、今回の本当の報酬だ。後で金も払う」


 「…報酬って、勝手に人の物使えませんよ」


 「墓場で話しただろう。これも全て賭けで勝った俺の物だ、どうしようと俺の勝手だ」

 「…でも剣も盾も触ったことすらないですよ」

 「今から触って使えるようになればいい」

 「…昨日も言いましたけど。俺は戦えませんよ…」

 「今俺に殴りかかったのにか?」

 「…カッとなっちゃいました」


 武器を持つということは戦うということ。少し前のルーなら喜んだだろうが、ここ数日のことや、今シンに負かされたことで自分の弱さを痛感し、怖くなっていた。


 「なら持っているだけでもいい。覚えが無くとも素手よりはマシだ」


 しつこく言われ、しぶしぶ石棺まで行って中のものを取り出す。


 「これがミドビルさんの…」


 手に取った剣は厚みのある幅広の剣身で、その重さからミドビルが相当な剛腕の持ち主だったことがわかる。盾の方は真っ黒で円形。大きさはルーの肩から腰が隠れるくらい。どちらも全て金属製の、無骨なものだった。

 

 「あいつは大剣と呼んでいたが、お前が持てばロングソードだな」

 「ドワーフは背が低いですもんね」

 「構えてみろ」


 武器を持つのが初めてのルーは、それっぽく構えてみる。


 「…なかなか様になってるぞ」


 おそらく励ますためのお世辞だが、ルーも楽しそうだ。心の中の少年が顔を出していた。


 「お前今日仕事は?」

 「今日と明日は休みです」

 「なら盾と剣を持って街に行くぞ。揃えたい物がある」



 シンの要望で、二人は街の大通りに向かう。そこは様々な種類の店舗が立ち並び、賑わいを見せていた。


 「なんか休日に街を歩くと開放感ありますね」

 「昼間に来たのは久々だ。かなり様変わりしているな」

 「今ってどこに向かってるんですか?」

 「鍛冶屋だ」

 「こっちじゃないですよ?」


 ルーの話を聞かないシンは、しばらく歩いて空き地の前で立ち止まった。


 「ここにいたはずだが…」

 「誰かに会いに来たんですか?」

 「そうだ。防具を買いにな」

 「防具?武具屋は大通りの外れにあります」


 ルーの案内で武具屋に向かうと、大きな店が見えてきた。


 「あれです」

 「品揃えが良さそうだな」

 「商品は多いですよ。それに今、街で武器と防具が買えるのは、この【ボーペン武具店】だけですね」


 ルーは荷物を届けに動き回るので、店には詳しかった。ここにも何度も配達に来ているらしい。二人が店に入ると、厚手のエプロンをした店員が出迎える。


 「いらっしゃいませー」


 「店員が女だと?」

 「やめてください、そんなこと言うの」

 「店内もえらく綺麗だな」

 「ああそれは、街に何軒かあった冒険者用の店が、最近一つに統合されて巨大な武具店になったからです」

 「なるほどな、俺の知ってる雰囲気じゃないわけだ」



 ボーペン武具店。ここは冒険者用の商品が置かれる店。ルーの言った通り、何店舗も集めただけあって店内は広い。さらに武器や防具だけでなく、回復薬や小物など、さまざまな商品が並ぶ。シンがその様子を観察していると、店員の女に声をかけられた。


 「何をお探しでしょうか?」

 「鎧だ」

 「こちらにございます」


 連れてこられた店の一角は、数多くの鎧や盾が並んでいた。


 「好きなのを選べ、ルー」

 「買いに来たのは俺の防具だったんですね。好きなのって言っても、種類が多くてどれがいいのか…」


 「よろしければお手伝いします」


 店員が一緒に選んでくれるらしい。


 「こちらはいかがでしょう?」


 出されたのは金属製のこれといった特徴の無い、プレートアーマーだった。


 「かっこいい!」


 ルーはあまり乗り気じゃなかったが、鎧を見て気分が上がる。だがその鎧をシンが断った。


 「動いた時に音の出ない物にしてくれ」

 「少々お待ちください」

 「えー、かっこよかったのにー」



 次に店員が持って来たのは茶色のレザーアーマーだった。それは胸と肩部分だけが守られている簡素な物。


 「羽豚の皮から作ったものです。通気性に優れます」


 羽豚は耳が背中まで続く翼になった豚。食べると美味しいが、飛べるため家畜化が難しい。


 「方向はこれでいい。だがもっと強度が必要だ」

 「あの、予算はどれくらいでお考えですか」

 「気にしなくていい」

 「…承知しました」


 シンの言葉で店員が奥に引っ込んでいった。それを見ていたルーは、そもそもの疑問をぶつける。


 「なんで鎧を買うんですか?」

 「身を守るためだ」

 「わかってますよ。何のために身を守るんですか?」

 「金の林檎を取りに行こうと考えている」

 「リンゴ?なんでしたっけ」

 「昨日、まぜ麺屋の店主が言ってただろう」

 「なんか言ってたような気がするな…。それと、あそこの名前は味開拓です」


 ルーは昨日途中で寝てしまったため、林檎の話はうろ覚えだった。


 「行く場所が厄介でな、魔物の出る森を突っ切らないといけない」

 「ひぇー、大変そうですねー」

 「そのための鎧と武器だ」

 「えっ⁉︎俺も行くんですか⁉︎」

 「そうだ、お前も行くんだ」


 やっと鎧を買いに来た理由がわかったルーは、ボーッとするのをやめて、真剣に店内を見まわす。


 「もっと強い武器とか買いましょうよ!あの槍とか!」

 「お前には剣があるだろ」

 

 「お待たせしました。これがうちで用意できる最高の品です」


 奥から出てきた店員が、自信満々に持って来たのは、黒いレザーアーマーだった。


 「黒撃牛の背中の皮を惜しげもなく使った逸品です。王都でもここまでの物は、なかなか手に入らないでしょう」


 黒撃牛とは、乳牛の二倍ほどの大きさがある筋骨隆々な牛の魔物。強靭な後ろ足から繰り出される突進は、見てから避けるのが難しいほど速い。強力な突進をするだけあって皮膚は頑丈。



 「着てみろ。ルー」


 そのレザーアーマーは、先ほどの羽豚の三倍は分厚い革でできていた。その革に鋼鉄の板が張り付いた胸当て、同じ構造の肩当ては四層になっており、革鎧というよりは鎧だ?


 「すごい!動きやすいし、ぴったりですよ。意外と音もしないし、でもこれ高いんじゃないですか?」


 「金貨四十枚です」


 「き、金貨、よ、よんじゅう︎⁉︎」


 その金額にルーは、鬼熊を見た時以上の衝撃を受ける。


 銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚。


 ルーの郵便所での一ヶ月の給金がおよそ銀貨七十枚。金貨四十枚は五十七ヶ月分という計算になる。


 「それを貰おう」

 「ありがとうございます。よろしければ何かおつけしますが?」

 「良かったな。何かつけてくれるらしいぞ…おい…」


 ルーは立ったまま失神していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ