第05話:ゾンビvsゾンビ
王都の大通りを歩いていると、やたらと視線を感じる今日この頃だ。
「おい、見ろよ」
「ああ、例の騎士団だ」
「拝むとご利益があるらしいぞ」
通りすがりの人々が、俺たちを指差してヒソヒソと話している。
変態騎士団。
それが、今の俺たちの二つ名だ。
国王から直々に授かった決死騎士団の称号は、完全にこの不名誉なあだ名に上書きされていた。
「なんかさー、最近みんな見てくるよね! あたし有名人?」
能天気に笑うのは、大剣使いのモアだ。
彼女の装備は、相変わらず面積極小のビキニアーマー。
しかも聖女のビキニという国宝級アイテムのため、無駄にキラキラと神々しい光を放っている。
「ええ、私たちの実力が評価された結果」
魔術師のマホが淡々と頷く。彼女も当然聖女のビキニだ。
モアのものから更に面積が小さくなり、これもまた無駄にキラキラと神々しい。
「人気者だねー!」
モアが手を振ると、沿道の男たちが鼻血を出して倒れた。
地獄だ。
俺の胃痛は、もはや慢性的なものになりつつあった。
そんなある日、俺たちの宿に一人の客が訪れた。
「失礼します」
現れたのは、純白の修道服に身を包んだ少女だった。
銀色の髪を後ろで束ね、凛とした瞳には強い意志が宿っている。
聖女教会の聖女、ルナ。
規律と信仰を重んじる、まさに清楚の体現者として王都では有名だ。
「貴殿らが、王都を騒がせている……その、破廉恥な騎士団ですね」
開口一番、辛辣な言葉が飛んできた。
俺は即座に土下座したくなったが、なんとか堪える。
「いかにも」
モアがほぼ丸出しの胸を張って答える。
「私は聖女教会の代表として参りました。単刀直入に申し上げます」
ルナは、モアの胸元を直視しないように視線を逸らしながら言った。
「国宝、聖女のビキニを返還していただきたい」
「「ん?」」
モアたちが声を揃える。
「あれは聖なる遺物です。本来は教会の最奥に安置され、祈りを捧げられるべきもの……。貴殿らのような者が身につけ、あまつさえ白昼堂々と街を歩くなど……冒涜にも程があります! 即刻お返しください」
なんという正論。
俺も心の中で「そうだそうだ」と頷いた。
返せば、少しはまともな格好に戻るかもしれない。
「えー! やだ!」
モアが即答した。
「これ着心地いいもん!」
「そう。この露出度こそが、最も効率的なマナ吸収を実現する」
「洗濯もいらないしねー! 楽ちん!」
二人は口々に拒否する。
ルナの眉がピクリと動いた。
「……信仰なき者に、聖遺物を持つ資格はありません。どうしても返還しないと言うなら、力ずくでも……」
空気が凍りつく。
まずい。
聖女教会と揉めるのは避けたい。
俺は慌てて割って入った。
「ま、待ってください聖女様。彼女たちも悪気があるわけじゃないんです」
「悪気がないなら何をしても許されると? 公衆の面前でその格好は、公然わいせつ罪に相当します」
返す言葉もない。
「……わかりました。では、テストをしましょう」
ルナは溜息をつき、提案してきた。
「貴殿らが本当にその聖遺物に相応しい高潔な魂を持っているか、私が査定します」
「査定?」
「はい。ここから北にある『嘆きの地下墓地』。最近、アンデッドが活発化しているその場所で、貴殿らの戦いぶりを見せていただきます。もし信仰に背くような卑しい振る舞いがあれば、その場で没収いたします」
こうして、俺たちは聖女様監視の下、アンデッド退治に向かうことになった。
***
『嘆きの地下墓地』は、その名の通り薄暗く湿ったダンジョンだった。
腐臭が漂い、どこからともなく呻き声が聞こえてくる。
「皆様、浄化の準備はいいですか? ここは穢れが強い……」
ルナが杖を構え、神聖魔法の詠唱を始めようとした。
その時だ。
「肉だー!!」
モアが叫んだ。
いや、腐った肉しかないぞ。
「行くよマホ! ゾンビ狩りだー!」
モアが飛び出す。
マホも続く。
当然、二人ともビキニ姿だ。
「なっ……!?」
ルナが絶句する中、戦闘はすでに始まっていた。
ゾンビの群れが襲いかかる。
爪が、牙が、彼女たちの無防備な肌に突き刺さる。
「いたぁぁぁい!! 噛まれたぁぁぁ!!」
モアが絶叫する。
ゾンビに肩を噛みちぎられ、鮮血が噴き出す。
だが、モアは止まらない。
痛みに顔を歪めながら、強引に大剣を振り抜く。
ゾンビの首が飛ぶ。
「アスクー! 回復!」
「『ハイ・ヒール』」
俺の魔法が飛ぶ。
傷が塞がる。
モアは血まみれのまま、次のゾンビへ突っ込んだ。
「『エクストラファイアーボール』」
ドゴォォォン!!
近くにいたスケルトンと共に、マホ自身も吹き飛ぶ。
吹き飛ばされた先は、スケルトンとゾンビが特に密集しているエリアだ。
「『エリア・ヒール』」
「『エクストラファイアーボール』!」
空中で回復されたマホは、そのまま着地地点でもう一度爆発魔法を唱えた。
爆心地の敵を一層し、吹き飛ばされてこちらに戻ってきた。
「『ハイ・ヒール』。お前、もう少し自分を大切にしてくれ……」
「爆発で飛びながら空中を移動する……一石二鳥。空中で回復するのが一番安全……」
その異様な光景を見たルナは、震える声で呟いた。
「な、なんなのですか……あれは……」
その瞳は、恐怖ではなく、別の何かを見ているようだった。
「避けることも、防ぐこともしない……。自らの肉体を差し出し、痛みを受け入れながら、悪を討つ……?」
ルナの中で、何かが音を立てて崩れ、再構築されていく。
「これはまさに……受難。そう、聖典にある聖人の姿そのもの……!」
え?
今なんと?
俺が確認しようとする前に、奥から強大な魔力が膨れ上がった。
ボスの部屋からだ。
現れたのは、宙に浮く骸骨の魔術師、リッチだった。
リッチは骨の指を掲げ、不吉な霧を放つ。
「『死の雲』……!」
呪いの霧が充満する。
触れるだけで皮膚がただれ、吸い込めば肺が腐る即死級の黒魔術だ。
聖女ルナが叫ぶ。
「いけません! 結界を張らなければ……!」
だが、遅い。
いや、彼女が早すぎたと言うべきか。
「毒? なにそれ!」
モアが霧の中へ突っ込む。
全身の皮膚が紫色に変色し、見るからにやばい状態になる。
「げほっ! ごほっ! これキツい!」
血を吐きながら走る。
マホも続く。
「すごい……視界が歪む……これが呪いによる幻覚作用……トリップしてきた……!」
狂気だ。
呪いを食らいながら特攻するなんて、自殺志願者でもやらない。
「『ハイ・ヒール』!『ハイ・ヒール』!『ハイ・ヒール』!!」
俺は必死に回復を連打する。
MPがゴリゴリ減っていく。
だが、そのおかげで彼女たちは死なない。
死なないまま、ゾンビのようにリッチに肉薄する。
そしてマホが自分たちの足元に爆発魔法を放ち、その衝撃でモアが飛び上がった。
「死ねぇぇぇ!!」
モアの大剣が、空に浮かぶリッチの頭蓋骨を粉砕。
霧が晴れる。
そこには、傷一つなくなった二人が立っていた。
「やったー! 勝ったー!」
「呪いも……たまにはいい」
二人はケロリとしている。
俺はその場にへたり込んだ。
MPを節約するためにある程度のダメージを負ったところで回復するには、あのスプラッターな現場を注視し続ける必要がある。
早く帰りたい。あまりに精神的負荷が大きすぎる。
すると、ルナが静かに近づいてきた。
その目には、涙が浮かんでいる。
「……素晴らしいです」
「はい?」
ルナが俺の手を両手で握りしめる。
「呪いの苦しみを一身に受け止め、それでも歩みを止めないその姿……。これぞまさに高潔。貴殿らこそ、真の聖徒です!」
「……はぁ」
何を言っているんだこの人は。
「誤解していました。私の目は曇っていたようです。形式や規律にとらわれ、本質を見失っていた」
ルナは熱っぽく語る。
「服など、肉体を飾る虚飾に過ぎない。真の信仰とはこれほどまでに無防備で、これほどまでに痛みを恐れないものだったのですね!」
嫌な予感がする。
すごく嫌な予感がする。
「その聖女のビキニは、貴女達のためにあるものです。いえ、貴女達こそが、伝説の聖女なのかもしれません」
ルナがモアたちに向かって深々と頭を下げる。
モアたちは「よくわかんないけど褒められた!」と喜んでいる中。
「私も……学び直さなければなりませんね」
ルナがおもむろに、自らの修道服の袖を掴んだ。
そして。
ビリッ、と破いた。
「え」
「まずは、この動きにくい布切れから捨て去らねば……信仰に近づけませんから」
聖女様の目が完全にイッていた。
「やめて! そっちに行かないで!」
俺は必死に止めた。
これ以上、露出度高い人間を増やしてどうする。
しかも聖女なんて、一番マズい役職だ。
結局、ルナがストリップを始めるのはなんとか阻止したが、彼女の中で俺たちは真の聖人として認定されてしまうのだった。




