第04話:爆誕! 変態騎士団
マグマゴーレムが崩れ落ちた後、そこには大量の希少鉱石が散らばっていた。
この洞窟自体が元々鉱山だったこともあり、ゴーレムの核やボディは高品質な素材の塊だ。
「……純度が高い。これは高く売れる」
マホが熱心に赤熱する鉱石を選別している。
「あと5つくらいは入るな」
俺たちの持ち運べる量には限界があるから、金になりそうな部位を厳選しなければならない。
モアは……うん、なんかデカい岩を持ち上げて遊んでるな。あれが役立つのは、このパンパンに入った袋を持ち運ぶときだ。今は好きにさせてやろう。
「貴殿ら、無事か」
そこへ、騎士団長が声をかけてきた。
見れば、部下の騎士たちはボロボロだ。熱と磁力で装備をやられ、立っているのがやっとという者も多い。
「ええ、なんとか。そちらは?」
「……面目ない。我々は足手まといになるだけで、何の役にも立てなかった」
騎士団長が自嘲気味に笑う。
確かに、今回は装備の相性が最悪だった。彼らの実力不足というよりは、相手が悪すぎたのだ。
「討伐の功績は全て貴殿らのものだ。素材も好きなだけ持っていくといい。我々は残った回収作業と、ギルドへの報告を引き受けよう」
「いいんですか? じゃあ、遠慮なく一番いいところを」
そうして素材の分配や今後の手続きなど、諸々の事務的な連絡を済ませた後。
騎士団長が、改めて俺たちに向き直り、重々しく口を開いた。
「我々は鎧に頼り、慢心していた。だが貴殿らはその鎧すら捨て、己の肉体ひとつで困難に立ち向かったのだ。その勇姿、まさに戦士の鏡……!」
違う。
誤解だ。あいつらはそんな大層な覚悟でビキニな訳では無い。
だが、俺にそれを訂正する気力はなかった。
「この勝利と英雄的行為は、必ずや国王陛下に報告させてもらう」
「……あ、いや、それは勘弁してほしいんですが」
俺は必死に頼み込んだ。
だが、騎士団長は「謙虚な男だ……」と涙ぐみ、より固く俺の手を握りしめるだけだ。
俺は一国の公式記録にビキニの変態が載ることを想像しながら、引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。
***
数日後。
俺たちの元に、王宮からの使者が現れた。
「国王陛下が謁見を求めている」とのことだ。
俺たちは王宮の馬車に揺られ、城へと向かった。
「ねえねえ、王宮のご飯ってステーキ出るかな!?」
「宮廷の書庫、閲覧許可もらえるかな……」
二人は遠足気分だ。
そんな中俺一人だけが、胃が爆発しそうなストレスを抱えている。それはなぜか。
「……なぁ、お前ら。なんでまだその格好なんだ?」
ビキニだ。
これから国王陛下に会うというのに、正装する気配が微塵もない。
「ん? だってこれが私たちの正装じゃん」
「そうだよ! 英雄としてのありのままの姿を見せるのが礼儀……」
二人はキョトンとした顔で言った。
常識が死んでいる。
TPOという概念が、マグマと共に燃え尽きてしまったらしい。
俺だけが、胃薬の瓶を握りしめて震えていた。
もしかして、公序良俗違反で処刑されるんじゃないだろうか。
「露出狂の入城は死罪」みたいな法律があったらどうしよう。
「……なぁお前ら。頼むから服を着てくれ」
俺は最後の抵抗を試みた。
「これが私たちの正装」
「王様の前で嘘つくのー? ありのままが一番!」
どうあがいても、こいつらはビキニで謁見する気だ。
もうどうにでもなれ。
***
そして、謁見の間。
レッドカーペットが敷かれ、左右には煌びやかな貴族や騎士たちが列席している。
その最奥の玉座に、国王が鎮座していた。
厳粛な空気。
張り詰めた緊張感。
その場に、場違いにも程がある三人組が入場した。
ローブ姿の俺と、ビキニ姿の二人の問題児だ。
ざわ……。
貴族たちがどよめく。
「な、なんだあの格好は……」
「はしたない……」
「いや、待て。あれが噂の……」
「防御を捨てた背水の陣……あの着てる意味のない装備は、歴戦の証なのか……?」
ヒソヒソ話が聞こえてくる。
どうやら、騎士団長が良いように広めてくれたおかげで、「変態」ではなく「ストイックな戦士」として認識されつつあるらしい。
なんという奇跡。
いや、集団幻覚だ。
俺たちが玉座の前に跪くと、国王が重々しく口を開いた。
「面を上げよ」
俺たちは顔を上げる。
国王の隣には先日の騎士団長が立っており、誇らしげに頷いている。
余計なことを……。
「余は聞いたぞ。マグマゴーレム討伐の武勇伝を」
国王の声が広間に響く。
「マグマゴーレムは住む場所を火山地帯に変え、我が国を苦しめてきた難敵であった。いかなる鎧も溶かす高熱と磁力に、我が精鋭たる『白銀の剣』ですら手も足も出なかったと聞く」
騎士団長が恥ずかしそうに下を向く。
「だが、そなたらは違った。防御を捨てるという逆転の発想! 鋼鉄すら溶かす熱波の中へ、生身で飛び込むその勇気! 肉を切らせて骨を断つ、まさに捨て身!」
国王が感極まったように声を張り上げる。
「よって、その功績を称え、国宝級の魔道具を授ける!」
国王が合図すると、侍従が恭しく盆を持ってきた。
その上には、布がかかっている。
国宝級。
とんでもないお宝に違いない。
伝説の聖剣か? 賢者の杖か?
モアたちも目を輝かせる。
「受け取るがよい!」
バッ、と布が取り払われた。
そこにあったのは。
二着のビキニアーマーだった。
神々しい光を放つ、プラチナ色のビキニアーマー。
一つは極小面積のビキニだが、もう一つはさらに布面積が少ない、紐のようなマイクロビキニだ。
「……は?」
俺の声が漏れた。
「これは、我が家に代々伝わる秘宝『聖女のビキニ』である!」
国王が得意げに説明を始める。
「数千年前、伝説の聖女が着用したとされる由緒正しき装備だ。その効果は絶大!
第一に、絶対に破壊できない! ドラゴンに噛まれようが、マグマに浸かろうが、決して壊れない! 一生モノだ!」
「おおー!」
モアが歓声を上げる。
「第二に、汚れがつかない! どんなに血や泥にまみれても、一瞬でピカピカになる!」
「……洗濯、不要。効率的」
マホが感心する。
「まさに、そなたらのような防御を捨てる戦法に相応しい至高の逸品ではないか!」
国王は満面の笑みだ。
俺は謁見の間に来たはずなのに、「会場に缶詰にして怪しい壺や布団を売りつける悪徳商法のセミナー会場」に来てしまったような気分になった。
詐欺業者相手なら無理矢理帰るだけだが、相手は王様。
絶対にお断りできない相手からの、国宝級の押し売りだ。
王様からもらった装備となれば、使わざるを得ない。
普通の冒険者パーティーの夢が遠のくのを感じ、俺は目眩がした。
というかなんだその呪いの装備は。数千年前の聖女もそんな装備で戦ってんじゃねーよ。
ただ丈夫なだけの下着だろ、それ。
「やったー! 一生服代タダだー!」
「キラキラしてて可愛い……」
だが、当の二人は大喜びでビキニを受け取っている。
需要と供給が合致してしまった。
最悪だ。
「さらに!」
国王が声を張り上げる。
まだあるのか。
「今後、そなたらを我が国の英雄として認定する。本日これより、そなたらの二つ名は……」
二つ名。
それは冒険者にとって最高の名誉だ。
国に対して大きな功績を残した冒険者は名誉騎士として叙勲される。その際、王自ら二つ名を与えてくれるのだ。
これはただの称号ではない。今後俺たちはこの二つ名で呼ばれ続けることになる、大切な称号だ。
頼む。
頼むからまともな名前であってくれ。
「疾風」とか「紅蓮」とか、そういうカッコいいやつで……。
「『決死騎士団』とする!」
「おお……?」
俺は耳を疑った。
まともだ。
すごくまともだ。
決死騎士団。
これなら誰もが認める立派な称号だ。
「今後は決死騎士団と名乗るが良い!」
「ありがたき幸せ……!」
俺は深々と頭を下げた。
よかった。
最初はダメかと思ったが、王様は変な人じゃなかった。
これで俺たちの未来も安泰だ。
「やったー! 騎士だって!」
「……権限で書庫の閲覧、できる?」
モアたちも喜んでいる。
盛大なファンファーレが鳴り響き、貴族たちから万雷の拍手が送られた。
謁見が終わり、用意された更衣室にて。
二人は早速、授かった装備への着替えを始めていた。
「おおー! マイクロビキニかっこいい! 私がこっち着る!」
モアが歓声を上げ、面積の少ない方を手に取ろうとする。
「……待って。露出が多い方が、魔力効率が良い。私が着る」
マホがそれを遮るように手を伸ばす。
「えー! マホはずるい! 小さい方が、風を感じられて気持ちいいもん!」
「……快感の問題ではない。性能の問題」
二人がマイクロビキニを取り合って喧嘩を始めた。
普通、露出が少ない方を取り合うものではないだろうか。
結局、ジャンケンで勝ったマホがマイクロビキニを勝ち取り、負けたモアが普通のビキニを着ることになった。
***
そして。
俺たちは王宮を出て、冒険者ギルドへと向かった。
国王から授かった聖女のビキニを身につけ、堂々の帰還だ。
街の人々が沿道に集まっている。
俺は誇らしげに手を振った。
俺たちは決死騎士団だ。
もう、ただのイロモノパーティーじゃない。
「おい見ろよ、すげぇ人だかりだ!」
「さすが名誉騎士様だ!」
歓声が上がる。
だが、その内容が少しおかしいことに、俺はすぐに気づいた。
「おい見ろ! 例のビキニだ!」
「すげぇ! 本当に着てる!」
「しかも光ってるぞ! 無駄に神々しい!」
視線は一点、彼女たちのビキニに集中していた。
しかも、キラキラとエフェクトを放っているせいで、余計に目立つ。
羞恥プレイの公開処刑だ。
誰からともなく、声が上がった。
「ビバ! 変態騎士団!!」
「変態! 変態!」
「変態騎士団、万歳!」
ドッ、と湧き上がる歓声。
という厳かな響きは、民衆の熱狂的なコールにかき消された。
「わーい! 人気者ー!」
モアたちが能天気に手を振る。
マホが杖を掲げて応える。
歓声がさらに大きくなる。
「変態騎士団! 変態騎士団!」
俺は、ガクリと膝をついた。
「……なんでだよ」
どうしてこうなった。
国が認めた決死騎士団。
それが、一瞬にして変態騎士団という不名誉な愛称に塗り替えられてしまった。
しかも、当人たちがそれを受け入れているせいで、訂正の余地がない。
「よっ、変態騎士団!」
ギルドの顔馴染みたちが、ニヤニヤしながら手を振ってくる。
悪意はない。親しみだ。
だが、その親しみが俺の心を深く抉る。
耐えきれず、俺は懐から胃薬の瓶を取り出した。
が、連日のストレスのせいで中身は空っぽだ。
青空を見上げる。
変態騎士団の門出を祝うような、雲ひとつない快晴だった。




