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第02話:重装の騎士団、ビキニの狂戦士

 冒険者ギルドに併設された酒場は、今日も荒くれ者たちの熱気でむせ返るようだった。

 安いビールと脂っこい肉の匂い。

 そんな中、俺はテーブルに突っ伏していた。


「……胃が痛い」


 目の前では、ビキニ姿の少女たちがジョッキを片手にどんちゃん騒ぎをしている。


「ぷはーっ! 仕事の後のビールは世界一だね!」


 大剣使いのモアが、豪快にビールを飲み干す。


「……ん。この串焼き、焼き加減悪くない。……タンパク質の凝固具合、割と好み」


 魔術師のマホがジト目を細めながら肉を突っつく。

 黒髪ロングの知的な見た目と、極小面積のマイクロビキニという格好のギャップが周囲の視線を集めていた。


「次は何頼むー? あたし、唐揚げ食べたい! あと串焼きと、ハンバーグも!」


「……いいよ。筋肉のエサに、タンパク質は必要」


 食欲旺盛だ。

 装備さえ見なければ、ごく普通の女子会だ。

 そう、装備がビキニでさえなければ。


 カランカラン、とドアベルが鳴り、酒場の空気が一瞬で張り詰めた。

 現れたのは、磨き上げられた白銀のフルプレートアーマーに身を包んだ騎士の一団だった。

 王立冒険者パーティー、『白銀の剣』である。

 そのリーダーである騎士団長が俺たちの方向に歩いてきた。


「……なんだ」


 騎士団長は俺たちのテーブルを真上から見下ろした。

 正確には、モアたちのあられもない姿を。


「冒険者ギルドには売春婦が紛れ込んでいるのか?」


 酒場が静まり返る。

 直球すぎる侮蔑。

 しかし、当のモアたちは食べるのに忙しくて聞いていない。


「モア、それあたしの唐揚げ。……取らないで」


「早い者勝ちー」


 無視だ。

 完全なるスルー。

 騎士団長のこめかみに青筋が浮かぶ。


「おい、貴様ら。聞こえているのか!」


 彼がテーブルをドンと叩く。

 ようやくモアが顔を上げた。


「ん? 誰この缶詰」


 缶詰。

 フルプレートアーマーに対する、あまりにも身も蓋もない評価。

 騎士団長の顔が真っ赤になる。


「き、貴様……我々白銀の剣を愚弄するか!」


「あ、ごめんなさい! こいつら世間知らずでして……!」


 俺は慌てて立ち上がり、頭を下げた。


「ふん、まあいい。品位のないクズに関わっている暇はない」


 騎士団長は掲示板へ向かう。


『緊急討伐依頼:近隣の森にメタルアントの大群が発生。至急討伐求む』


 メタルアント。酸を吐く厄介な魔物だ。


「よし、白銀の剣が引き受けよう」


「あ、私たちも行きまーす。お肉代稼がないとだし」


 モアが手を挙げた。


「は? 貴様らのようなふざけた装備で、メタルアントに挑む気か?」


「えー、だって鎧着てると溶かされるし」


「……あの酸……あんなの浴びたら、どんな高級な鎧もゴミになる。……コスパ悪すぎ」


 モアとマホがそれぞれの理屈を説くと、騎士団長は呆れ果てたようにため息をついた。


「死んでも知らんぞ。足手まといにだけはなるなよ、露出狂ども」


 こうして俺たちはなりゆきで、白銀の剣と共にメタルアント討伐に向かうことになった。


 ***


 森に入ると、すぐにメタルアントの大群と遭遇した。

 その数、百以上。


「陣形を組め! 迎撃する!」


 騎士団たちの完璧な布陣。

 魔法職が後方から炎魔法を放ち、前衛が盾で酸を防ぐ。

 美しい連携だった。


「見ろ、これが本物の戦いというものだ」


 騎士団長が得意げにこちらを一瞥する。

 一方、俺たちは。


「ヒャッハーーー!! 獲物の山だぁぁぁ!!」


 モアが大剣を下手に構えながら突っ込んでいった。


「なっ!? 馬鹿かアイツは!!」


 騎士団長が叫ぶ。

 当然、メタルアントたちが一斉にモアに襲いかかる。

 鋭利な顎が、モアの柔肌に食い込んだ。


「ぎゃあああああああ!!」


 モアの絶叫が森に響き渡る。

 脇腹を噛みちぎられ、鮮血が噴き出す。


「うわあああああ!! 痛い!! 痛い痛い痛い!!」


 モアは泣き喚きながら、それでも大剣を振るう。

 一振りで三匹のメタルアントを粉砕。

 だが、別のアントが背後から酸を吐きかける。

 ジュワッ、という音と共に、モアの背中の皮膚がただれ落ちる。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! 背中がぁぁぁ!! 焼けるぅぅぅ!!」


「『ハイ・ヒール』」


 俺の魔法が飛ぶ。

 傷が一瞬で塞がった。


「ひぐっ、うぅ……痛かった……! 死ねぇぇぇぇ!!」


 ブチギレしたモアが、鬼の形相でアントたちを蹂躙していく。


「……な、なんだあれは……」


 騎士たちが呆然と立ち尽くしている。

 無理もない。

 あんなバーサーカーぶりを見せつけられれば、誰だって思考停止する。


「……あたしも行く。……ゼロ距離爆撃、試す」


 マホが杖を掲げて飛び込む。

 アントに群がられ、全身を噛まれながら至近距離で爆裂魔法を放つ。


「……痛っ!……でも、痛みで脳内物質出て……集中できる」


 全身を食い荒らされながら、マホは無表情で杖を振るう。


「一網打尽。『エクスプロージョン・ファイアボール』」


 ドカーン!

 巨大な爆発が起き、爆心地にいたマホ自身も吹き飛ぶ。

 黒焦げになって地面に転がるが、俺の回復魔法ですぐに蘇る。


「……けほっ。……見た? これなら、効率的に殲滅できる」


「もっと自分の体を大切にしてくれ!」


 俺は必死に回復魔法をかける。

 狂気だ。

 彼女たちは痛みを感じていないわけではない。

 しっかり人と同じ痛みを感じている。

 だが、その痛みを「戦闘に必要なコスト」として割り切っているのだ。


 やがて、森の奥からクイーンアントが現れた。

 その口から、滝のように酸が吐き出される。


「盾を構えろ!!」


 だが、クイーンの酸は強力すぎた。

 騎士たちの盾が溶け出し、陣形が崩れる。

 万事休すかと思われたその時。


「肉だああああああああ!!」


 モアが酸のシャワーの中へ突っ込んでいった。


「馬鹿っ! 溶かされるぞ!!」


 騎士団長が叫ぶも、止まらない。


 想像していた未来の通り、モアが酸を全身に浴びた。

 白い肌がドロドロに溶け、筋肉が露出する。


「ぎゃああああああああ!! 痛いいいいいい!!」


 だが、足は止まらない。

 痛みで発狂した脳が、敵の首を落とすことだけに集中している。


「でも肉ぅぅぅぅ!!」


 ドロドロの肉塊と化したモアが跳躍し、大剣を振るう。

 クイーンアントの首が飛んだ。


 静寂。

 その中心に、赤黒い肉塊が立っている。


「……『ハイ・リジェネーション』」


 まばゆい光が肉塊を包み込み、ツルツルの美肌を取り戻したモアが現れる。


「勝ったー!」

 

 こうして、クイーンアント討伐の依頼は達成されたのだった。


 依頼からの帰り道。

 騎士団長は複雑な表情で俺たちを見つめ、やがて深々と頭を下げた。


「……お前たちの戦いぶり、見事だった。ギルドでの暴言を謝罪しよう」


 騎士団長の言葉に、俺は目を丸くした。

 あの高慢で有名な騎士団長が、頭を下げている。


「お前たちの強さは本物だ。今後、共に戦う機会があれば……その時はよろしく頼む」


 騎士団長は踵を返し、部下たちと共に去っていった。

 残されたのは、呆然とする俺と、満足げに伸びをするモアとマホ。


 こうして、俺たちのビキニゾンビ戦法は騎士団長のお墨付きを得たのだった。

 こんなもん認めないでください。

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