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第14話:絶品の宝箱

 俺たちは王都近くの古びた地下迷宮に来ていた。

 魔王軍の残党が潜んでいるという情報を聞きつけ、調査に来たのだが――。


「……いないな」


 小一時間ほど探索したが、魔物の気配はない。

 もぬけの殻だ。


「徒労だったねー」


 モアが大剣を肩に担ぎ直す。

 相変わらずのビキニアーマー姿だ。

 地下迷宮の冷たい空気が肌を刺すが、彼女は気にする様子もない。


「でも、運動データは取れた……。悪くない散歩」


 マホが淡々と呟く。

 彼女もまた、露出度の高いビキニアーマー姿だ。


「帰るか。晩飯の時間も近いし」


 俺が踵を返そうとした、その時だった。

 通路の奥に、不自然に置かれた宝箱が目に入った。


「あ! 宝箱だ!」


 モアが声を上げる。

 装飾の施された、いかにもな宝箱だ。


「待てモア。怪しい」


 俺は制止した。

 ダンジョンの、しかも行き止まりでもない通路にポツンと置かれた箱。

 罠の匂いしかしない。


「俺が鑑定する。動くなよ」


 俺は慎重に近づこうとした。

 だが、モアの本能は俺のを凌駕していた。


「お宝ー!」


 ドスッ!

 モアが地面を蹴る。

 制止を聞かずに宝箱へダイブした。


「あ、こら!」


 その瞬間。

 パカッ。

 宝箱の蓋が、ありえない角度で開いた。

 中から現れたのは、黄金でも宝石でもなく――鋭い牙と、巨大な舌だった。


「ガブッ!」


 捕食音が響く。

 モアの上半身が、宝箱にすっぽりと飲み込まれた。


「モアァァァァ!!」


 俺は絶叫した。

 ミミックだ。

 冒険者を貪る、擬態魔物。


「うぐ……うぐぐ……!」


 モアの両足がバタバタと暴れている。

 だが、抜け出せない。

 ミミックの噛合力は凄まじい。このまま回復し続ければ死にはしないが、脱出はできない。


「くそっ! 今助ける! 無理やりこじ開ける!」


 俺は杖を捨て、ミミックの蓋に手をかけた。

 だが、ビクともしない。

 なら、魔法で破壊するしか――。


『待ってアスク! 壊しちゃダメ!』


 箱の中から、モアの叫び声が聞こえた。


「はぁ!? 何言ってるんだ! 食われてるんだぞ!?」


『ダメダメ! 箱ごと魔法で吹き飛ばしたら、中のお宝も壊れちゃうじゃん!』


「食われてるのにまだお宝の心配してるのか!?」


 俺がパニックになっている間も、モアの下半身は少しずつ箱の中に吸い込まれていく。

 もはやこれまでか。

 そう思った時だった。


『……んご?』


 箱の中から、くぐもった声が聞こえた。


『なんか……ヌルヌルする……』


「モア!? 大丈夫か!?」


『アスク……これ、すごいよ……』


 モアの声に、悲壮感はない。

 むしろ、感嘆の色が混じっている。


『このヌルヌル……古い角質を溶かしてくれてる……!』


「今の状況で美容効果を気にするな!」


『それに……奥に何かある……硬い……』


 ゴゴゴゴ……。

 箱自体が振動し始めた。

 モアが中で何かをしている。


『ふんっ!』


 気合いの声と共に、ミミックの箱が内側からきしむ。

 メキメキメキ……バキィッ!!

 爆音と共に、ミミックの蓋が無理やり抉じ開けられた。

 飛び出してきたのは、全身粘液まみれのモアだ。


「ぷはー! いい汗かいた!」


 彼女の手には、バレーボールほどもある巨大な白い球体が握られていた。


「これ見て! 中に入ってた!」


 それは、巨大な白い玉だった。

 薄暗いダンジョンの中で、神秘的な光を放っている。


「……デカい真珠?」


 俺は目を丸くした。

 なぜミミックの中に真珠が?


 マホが倒れたミミックに近づき、検分する。今はただの壊れた箱だ。


「……なるほど。これはミミックじゃない」


「え?」


「ミミックは魔法生物……。でもこれは、ただの環境適応した巨大二枚貝」


 マホが杖で突く。

 確かに改めてよく見れば、白亜の宝箱に見える部分は硬質化した殻だった。


「ダンジョンの環境に合わせて、宝箱のような形状に進化した貝……。学名はタカラバコガイというらしい……」


「貝だったのかよ!」


 俺はツッコミを入れた。

 紛らわしすぎる。


「じゃあ、これ食べられる?」


 モアが目を輝かせる。

 こいつの辞書に恐怖という文字はないのか。


「……成分分析完了。毒性なし。可食部は多い。グリコーゲンとコハク酸が豊富」


「やったー! 焼き貝だー!」


 俺たちはその場で焚き火を囲むことになった。

 巨大な貝柱をナイフで切り分け、網で焼く。

 マホが常備していた醤油を垂らすと、香ばしい匂いが立ち込めた。


「いただきます!」


 モアが熱々の貝柱を頬張る。


「んー! 濃厚! 噛めば噛むほど旨味が溢れるよ!」


「……悪くない味」


 マホも一口食べて頷く。

 俺も恐る恐る食べてみた。

 ……美味い。

 悔しいが、絶品だ。高級ホタテをさらに濃厚にしたような味わい。


「しかも真珠までゲットしちゃった! これ、高く売れるんじゃない?」


 モアが真珠を磨きながら笑う。

 一攫千金だ。


「……怪我の功名というか、なんというか」


 俺はため息をついた。

 普通の冒険者ならそのまま食い殺されてもおかしくない罠を、真正面から食い破り、あまつさえ食材にしてしまう。

 この逞しさこそが、彼女たちの強さなのかもしれない。


「でも、次は気をつけてくれよ。心臓に悪い」


「大丈夫だよ! アスクが回復してくれるでしょ!」


「そういう問題じゃない!」


 満腹になった俺たちは、真珠を抱えて帰路についた。


 王都に戻ってさっそく市場へ持ち込むと、真珠は驚くほどの高値で買い取ってもらえることになった。

 鑑定した商人が、震える手で金貨を積み上げる。


「いやぁ、素晴らしい真珠だ。……実は、最近東の街道で奇妙な『霧』が出て、荷馬車や旅人が神隠しに遭うという噂がありましてね。商売あがったりで困っていたんですが、これで儲ければしばらくは息がつけますよ」


「霧……? 神隠し?」


 俺は少し引っかかったが、目の前の大金に気を取られてすぐに忘れてしまった。

 この資金があれば、今の貧弱な装備を一新できる。


「よし、二人とも! 装備屋に行くぞ! ちゃんとした装備を買うんだ!」


 俺は拳を握りしめて提案した。

 金貨があれば、上質なローブや、露出の少ない鎧だって買える。

 これでようやく、変態集団から脱却できる。そう思ったのだが……


「えー? やだよ。服なんて着たら動きにくいじゃん」


 モアが即答した。


「このお金でお肉をいっぱい食べるの! せっかく壊れないし汚れないビキニがあるのに、なんで別の装備がいるの?」


「同意。……私はこの資金で杖を強化する」


「……そうだよなぁ」


 俺の力ない呟きは、二人の嬉しそうな声に虚しくかき消された。

 

 結局モアはぽっこりお腹が膨らむまで焼き肉を食べ、マホは杖の先の魔石を禍々しいものに新調した。

 そして、残った金は俺の胃薬代に消えていくのだった。

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