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第12話:ニセモノの変態

 北の国境砦で不壊の将軍を撃退した俺たちは、意気揚々と王都に帰還した。

 久しぶりの我が家。

 久しぶりの平和な日常。

 ……のはずだった。


「なんだ、あれは」


 城門をくぐり、俺は絶句した。

 街ゆく人々の服装がおかしい。

 やたらと露出度が高いのだ。

 腹出しルックの主婦。

 背中がぱっくり開いたシャツを着た職人。

 中には、海パン一丁で歩いている爺さんまでいる。


「わあ! アスク見て見て! みんな涼しそうだよ!」


 モアが目を輝かせる。

 彼女はもちろん、いつもの聖女のビキニ姿だ。


「……嫌な予感がする」


 俺の予感は的中した。

 露店で買い物をしていると、店主の姉ちゃんが声をかけてきたのだ。


「あら、アナタたちも変態騎士団のファン? 最近流行ってるんだよ。防御を捨てて攻撃に特化する、あの潔さが粋だってね」


 その店主の姉ちゃんまで、エプロンの下が際どい水着のような格好をしている。

 どうやら、俺たちの活躍が変な形で伝わり、王都にビキニブームを巻き起こしてしまったらしい。


「素晴らしい……。合理的思考が浸透しつつある……」


 マホが満足げに頷く。


「この国も捨てたものではない……」


 いや、捨てたものだよ。羞恥心を捨ててるよ。


 そんな時だった。

 広場の方から、怒号が聞こえてきた。


「おい! 通行料を払えと言っているんだ!」


 見ると、数人の男たちが商人を囲んでいた。

 男たちは全員、下着にマントを羽織っただけの姿だ。

 手には剣や斧を持っている。


「我らは救国の英雄、変態騎士団だぞ! この美しき肉体に敬意を払わんか!」


 男の一人が叫ぶ。

 ……は?

 俺たちは顔を見合わせた。


「アスク! あんなメンバー、採用した覚えないよ!」


「俺もない」


 完全にニセモノだ。

 しかも、やっていることがセコい恐喝。

 これはマズい。ただでさえ「変態」と後ろ指をさされているのに、これ以上評判を落とされてはたまらない。

 俺が止めに入ろうとした、その時。


 ドスッ!!


 モアが地面を蹴っていた。

 大剣を背負ったまま、ニセモノたちの前に着地する。


「お前たち……誰の許可を得て、その名を使っているの?」


 モアの声は、地底から響くように低かった。

 怒っている。

 自分たちの名を勝手に使われたからか? それとも悪事を働いているからか?


「あぁ? なんだ姉ちゃん。俺たちのファンか?」


 ニセモノの団長らしき男が、ニヤニヤしながら近づいてくる。

 

「よく見りゃイイ体してんじゃねぇか。どうだ、本物の変態騎士団に入団させてやってもいいぞ?」


 男がモアの肩に手を回そうとする。

 瞬間。


「お前たちの装備……なに、それ」


 モアの視線は、男の装備に注がれていた。

 布切れの隙間から、何かがチラチラと見えている。


「マントの下に……チェーンメイルを着込んでいるの?」


 えっ。

 俺は目を凝らした。

 確かに、露出しているように見えて、急所には薄手の鎖帷子や革パッドが仕込まれている。

 一見すると肌色に塗装されているため分かりにくいが、完全な防御装備だ。


「っ……! う、うるせぇ! 裸で戦えるわけねぇだろ! これは実用性を重視した……」


 男が言い訳をしようとした瞬間。

 モアの拳が、男の鎖帷子ごと腹を殴り抜いた。


 ドゴォォォン!!


「がはっ!?」


 男がくの字に折れて吹き飛ぶ。

 金属がひしゃげる音が響いた。


「ふざけるなッ!!」


 モアが激昂した。

 その背後に、鬼の形相が浮かんで見える。


「痛みを恐れて防具を着込む……そんな半端な覚悟で、変態騎士団を名乗るなぁぁぁっ!!」


 そこかよ!!

 俺は心の中でツッコミを入れた。

 モアの怒りのポイントは、名前を騙られたことでも悪事でもなく、「露出に対する覚悟のなさ」だったのだ。


「ひ、ひぃぃぃ! なんだこいつ!?」


 残りのニセモノたちが剣を抜く。

 一斉にモアに斬りかかる。


「死ねぇぇ!!」


 刃がモアの肌に食い込む。

 鎖帷子も着ていない、正真正銘の生肌だ。

 鮮血が舞う。


「やったか!?」


 男たちが喜んだのも束の間。


「……軽い」


 モアは、剣が刺さったまま一歩も動いていなかった。

 むしろ刺さった剣の刀身を筋肉で締め付け、男たちの動きを封じている。


「痛みこそが、生の実感! それを拒絶するお前たちに、ビキニを纏う資格はないッ!」


「アスク!」


「はいはい、『ハイ・ヒール』」


 俺が杖を振ると、モアの傷が一瞬で塞がり、男たちの剣が弾き飛ばされた。


「な、なんだこいつ……バケモノか……!?」


 ニセモノたちが腰を抜かす。

 彼らが演じていた「狂気」とは次元が違う。

 本物の「狂気」を目の当たりにし、彼らの戦意は完全に粉砕された。


「覚悟が足りない! 出直してきて!」


 ニセモノたちは悲鳴を上げて逃げ出した。

 ものの、衛兵たちがやってきて彼らを捕縛した。


「おお……すげぇ……」

「あれが本物の変態騎士団か……」

「やっぱり格が違うな!」


 周囲の民衆から、割れんばかりの拍手が送られる。

 店主の姉ちゃんが感涙しながら手を振っている。


「アスク、やったね! 街の平和を守ったよ!」


 モアが満面の笑みで振り返る。

 その笑顔はどこまでも純粋で、そしてどこまでもズレていた。


 俺は遠い目をした。

 こうして、王都における俺たちのビキニ伝説は、訂正されるどころかより強固なものとして上書きされてしまったのだった。

 このニセモノ騒動により、街のビキニブームがさらに加熱したことは言うまでもない。

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