表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/29

第10話:ビキニの本領! 水中戦!

 季節は冬。

 あいも変わらず王都は一面の銀世界だ。

 一方宿の中の俺は、魔道具のこたつから出られない生活を送っていた。

 寒い。無理。動きたくない。


 そんなある日、王宮から使者がやってきた。

 先日の暗殺者撃退への褒賞として、王様からあるものが贈られたのだ。


「……南の島?」


「はい。王家御用達のリゾート地への特別招待券です。転移ゲートを使えば一瞬でございます」


 使者の言葉に、俺はこたつから飛び出した。

 南の島。

 つまり、暖かい。

 この極寒地獄から脱出できるなら、悪魔に魂を売ってもいい。


「行きます! 今すぐ行きます!」


「やったー! 海だー! ビキニの本場だー!」


「……南国バカンス、いいね」


 モアたちも大はしゃぎだ。

 こうして俺たちは、転移ゲートをくぐり、常夏の楽園へと旅立った。


 ***


 ゲートを抜けた瞬間、強烈な日差しが俺たちを出迎えた。

 空は突き抜けるように青く、目の前にはエメラルドグリーンの海が広がっている。

 そして、気温は30度オーバー。


「あ……あつぅ……」


 俺は即座にコートを脱ぎ捨て、セーターを脱ぎ、シャツのボタンを全開にした。

 暑い。

 さっきまで氷点下だったのだ。真冬の厚着に真夏の太陽を浴びては身体に悪い。

 だが、隣の二人は違った。


「暑ーい! 最高ー!」


 モアが両手を広げる。

 彼女たちの服装は、いつものビキニアーマーだ。

 面積は極小。ほぼ裸だ。

 にもかかわらず、彼女たちは額に玉のような汗を浮かべていた。


「ねえアスク、暑いよー」


 モアがビキニの端を摘んでパタパタと仰ぐ。


「こんなに暑いなら、これ脱いでもいい?」


「は?」


 俺は思考が停止した。

 脱ぐ? 何を?

 今着ているビキニを?


「私も賛成……。熱の排出口を確保しないと、脳がオーバーヒートする」


 マホが真顔で、ビキニの紐に手をかける。


「馬鹿野郎!!」


 俺は全力で叫んだ。


「ダメだ! 絶対ダメだ! ここには一般客もいるんだぞ!」


 見渡せば、リゾートビーチには多くの客がいる。

 皆、水着姿でバカンスを楽しんでいるが、さすがに全裸はいない。


「えー、でも暑いしー」


「我慢しろ! というか海に入れ! 海に入れば涼しいから!」


 俺は必死に説得し、彼女たちを波打ち際へと追いやった。


 危なかった。

 危うくリゾート地が公然猥褻の現場になるところだったぜ。


 しかし、彼女たちが海で泳ぎ始めたその時だった。

 ドォォォン!!

 沖合で巨大な水柱が上がった。

 海水浴客たちの悲鳴が響き渡る。


「きゃああああ!!」

「魔物だー!!」


 現れたのは、巨大なイカだった。

 クラーケン。

 船すら沈める海の怪物だ。

 十本の触手が荒れ狂い、逃げ惑う人々を捕らえようとしている。


「獲物だ!」


 モアが叫んだ。

 彼女は大剣を構え、躊躇なく海へと飛び込んだ。


「行くよマホ! 今日のご飯は焼きイカだー!」


「了解。イカは鮮度が命」


 二人が海を割り進む。

 速い。

 イルカも真っ青のスピードだ。


「おい待て! 海中で戦うのは無謀だ!」


 俺の声は届かない。

 クラーケンは二人の接近に気づくと、墨を吐き、深海へと逃走を図った。


「逃がすかぁぁぁ!!」


 モアたちは止まらない。

 そのままクラーケンを追って、深く、暗い海の中へと潜っていく。


 俺は頭を抱えた。

 いくらなんでも、水中では息が続かない。

 窒息死する。


「……くそっ! やるしかないのか!」


 俺は砂浜に駆け寄り、海に向かって杖を構えた。

 位置を感じ取る魔法で、彼女たちの座標を特定する。

 もうかなり深い。


「『ロング・レンジ・エリア・ヒール』!!」


 俺は最大出力で回復魔法を放った。

 狙うのは肺だ。

 酸素が欠乏し、細胞が壊死する端から魔法で無理やり再生させる。


 海中。

 モアは苦しそうに泡を吹いていた。


「ぶべらっ! 苦し……!」


 海水を飲み込み、肺が悲鳴を上げる。

 普通なら溺死だ。

 だが、次の瞬間、光が彼女を包む。


「……あれ? 治った! 息ができる気がする!」


 息はできていない。

 溺れながら回復しているだけだ。

 だが、モアにとって「死なない」なら「平気」と同義だった。


「行くぞオラァァァ!!」


 モアが大剣を振るう。

 水の抵抗? 関係ない。

 筋力で無理やり水を押し退け、真空の刃を生み出す。


「ぐぶっ……! す、水圧で内臓が……潰れる音……面白い……」


 マホもまた、深海の水圧を楽しんでいた。

 鼓膜が破れても、肺が潰れても、即座に治る。


「海水なら伝導率は最大……『ギガ・サンダー』」


 強烈な雷撃が放たれる。

 当然、自分も感電する。

 だが、治る。


 クラーケンは驚愕していた。


(ナゼ!? ナゼコイツラハ息ガ続ク!? ナゼ水圧デ潰レナイ!?)


 明らかに海中に適応できていなさそうなのに、平然と動き回っている。


(コイツラ本当ニ人間カ!?)


 常識の範囲外の敵に本能的な恐怖を感じたクラーケンは、より一層抵抗を強めた。

 しかし……


「とったぁぁぁ!!」


 モアの一撃が、クラーケンの足を切断する。

 マホの雷撃が、巨大な身体を焼き尽くす。


 数分後。

 浜辺に、巨大な焼きイカが打ち上げられた。

 その横に、ずぶ濡れの二人が上がる。


「ぷはぁー! 死ぬかと思った!」


 モアが海水を吐き出しながら笑う。

 死ぬかと思った、ではない。

 何度も死にかけていたのだ。


「いいデータが取れた……。人間は、回復魔法があれば呼吸が不要だということが証明された」


「アスクのヒール最高!」


 助けられた人々が、恐る恐る近寄ってくる。

 そして、歓声が上がった。


「すげえ!!」

「素潜りでクラーケンを倒したぞ!」

「あいつら、人間か!?」


 また変な誤解が生まれた。

 だが、俺はもう訂正する気力もなかった。

 目の前の焼きイカから、食欲をそそる匂いが漂ってきていたからだ。


「……まあ、いいか。イカは美味そうだし」


 俺たちは浜辺で焼きイカパーティーを開催した。

 なぜかこの国に流通している醤油と、バターで味付けされたクラーケンは絶品だ。

 冷えたビールを片手に、俺は諦めの眼差しで南国の夕日を眺めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ