表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第3話 悪霊を吹き飛ばす聖女会心の魔法

【夜】


 聖女ミズハ

「悪霊なんて、いなくなっちゃえっ! 浄化っ!」


 ちゅどど~~~んっーーどーーーんんんん


「えええ……」


「おおーーー」


「はぇ~~~」


「可愛い声、浄化の神聖魔法なのに、なんで破壊音が……」


 周囲にて警戒態勢を敷いていた騎士団の面々が、そこかしこで感嘆し、驚愕し、恐れおののいていた。


 聖女

「皆さん、お疲れさまでした。解散して報告書をあげましょう。そしたら今夜はゆっくりしてくださいね」


 騎士長

「い、い、イエス! マーム!!」



 ★


 大魔導士ユアイ

「ミズハねえちゃん、なんだか、あの、魔法の感じがエクスプロージョンに似ていませんか?」


 聖女ミズハ

「え、判った? 何だか分からないんだけど昔から好きなのよね。でも私、火の魔法使えないから。だから…似せてるの…ウフ」


 聖騎士ミキオ

「今度、ギャラクティカって頭に付けてみてくれない? 理由は分からないけど、破壊力の効果が更に出ると思う」


 勇者サトシ

「君たちは筋金入りで好きなんだと分かりましたよ」


 聖付与師ヨシタカ

「せ、セーフ?」


 ミズハ

「それじゃ、私、レポート書いて出してくるから別行動ね。よろしくー。明日は魔王退治の対策MTGね。みんな寝坊して遅れないでね」


 ぼくは、また一瞬、寂しそうな顔をした彼女を見てしまった。今日の彼女は空元気(からげんき)に見えてしまう。


 レポートって、騎士長が領主さまに出せば好いんじゃないかな? わざわざ協会トップクラスの聖女としてレポートを書くのが必要? いや責任感なのかなぁ。何となく腑に落ちないけど、ミズハの背中を見送ったまま目で追っていた。



 ★


 宿の部屋はちゃんと一部屋ずつ取ることが出来た。ぼくはベットに寝転び、今日のミズハやユアイ、今後の事を考えた。


 実際、危なげなくここまで来ていた。普通は危機的状況や、強敵に苦しむような展開があってしかるべきと思う。


 確かに、女神様が史上初の魔王討伐を啓示してくださった。だから、敵よりも遥かに強すぎるぐらい、ぼくたちが飛び抜けて強いのは、確かな事かも知れない。皆もおごりはないと思うし。


 何だろう? ぼくには危機感知能力はない。でも不安になる。


 明日は、女神様の啓示から魔法討伐の予測経緯を割り出し、スムーズに魔王城から帰還する方法を模索することになっている。みんなの仲間意識もゆっくりできたおかげで高まっているし、安心だ。


 不安感を感じるのは、色々と、ぼくの考えすぎかもしれないな。


 考えすぎて不安を自ら得てしまい、成功する筈だった物を、わざわざ取りこぼすなんて出来ない。女神様の啓示は必ず100%の未来がくる。魔王を討伐できれば待ち望んだ人類の平和がくるのに、当事者の僕が不安がっていたら駄目だ。


 まさか魔王が正しい存在で、女神様や人類が間違っているとか、そんな想定はアリなのだろうか? いや女神様に対する不敬罪になってしまう。


 コンコン


「お兄ちゃん、来ちゃった……」



【恋慕と悲しみのNTR?】


 ユアイ

「お兄ちゃん、ハグして欲しい」


 黄色系のパジャマに着替えたユアイがいた。似合ってて可愛い。


 ヨシタカ

「どうしたんだ、ユアイ、寂しいのか?」


 ユアイ

「うん。今夜は特にそう。ぎゅっとして欲しいの」


 ヨシタカ

「そうか、仕方がないな」


 ユアイ

「背中にちゃんと手を回してね。今日だけで好いから」


 ぼくは妹に近づき、腕の中にユアイを入れ、優しく包み込んだ。石鹸の匂いがした。そのまま抱き締めていると、彼女もぼくの背中に腕を回して力を込めた。


 ユアイ

「お兄ちゃん、頭もなでて欲しい」


 右手を使って妹の頭を撫でる。髪の毛も掬い上げ、頭皮をマッサージするように指を動かす。


 ユアイ

「お兄ちゃん……優しい」


 すごく幸せそうな顔をしている。暫くして胸の中からぼくの顔を見上げる。


 ユアイ

「お、お兄ちゃん、しゅきっ」


 ヨシタカ

「ぼくもユアイを大好きだよ。いつまでも一緒だからね」


 ユアイ

「その好きじゃないよっ! あ、あのね……今日だけのお願いがあるの。きいてくれる?」


 ヨシタカ

「なんだい、言ってごらん。叶えてあげるよ」


 ユアイ

「……」


 ヨシタカ

「?」


 ユアイ

「き…キ……キスして欲しい……」


 一気に真っ赤になったユアイ。


 ヨシタカ

「ああ、分かったよ」


 顎クイをして顔を近づけ、ほっぺにチュッとした。


 ヨシタカ

「ははーっ! キスって恥ずかしいなぁ。ぼくはさ、昔の恋人にだって一年で一回しかキスを許してもらえなかったんだよ。ふふ、結婚するまではキスもダメって言われてさ、なんとか説得して一年に一回だけど軽くチュッて許可貰ったよ。懐かしいな。胸がドキドキしちゃってさ。ぼくったら」


 ユアイ

「えーっ! 可愛い妹とハグしてる時に、ミズハねえちゃんの話するの? 信じらんないっ」


 ユアイ

「キスだって普通、キスだったらさ、唇にするパターンでしょ!? 私すごく覚悟要ったのに……、恥ずかしい妹と思われたくないのに、覚悟いったのに、もう、もう、お兄ちゃんのばかぁ~~~」


 いつものように「お兄ちゃんのばかっ」と叫んで部屋の扉を開け、走って自分の部屋へ戻ってしまった。解せん。


 何が悪かったのか、いつの間にか鈍感系ヘタレ主人公になってしまったぼくには、理解不能だった。


 いくら何でも怒らせてしまったのなら謝らなければならない。ユアイの部屋へ向かおうと廊下へ出た。


 ★


「あれ? ミズハ……」


「えっ、ヨシタカくん……」


 ミズハが丁度、サトシの部屋からパジャマで出てきたところに出くわしてしまった。彼女の目が激しく泳いでいる。涙も溜めているような気がした。ま、まさか、サトシと……こんな時間にパジャマで二人きりだったなんて。


「……。ヨシタカくん、少し外でお話ししない? お伝えしないといけないことがあるの」


「それはサトシとの関係の事かい?」


「……うん」


 そのままの格好で宿のフロントを通り、外に出た。悪霊攻防戦のせいで外灯は殆どがついていない。周辺は真っ暗であるものの、月が三つあって満月なため若干薄明るい。ぼくたちは宿の壁にもたれかかって会話を始めた。


「ヨシタカくん、私ね、サトシ君と国の指示で婚約してるでしょ? だから今晩を最後に二人っきりになるのは止そうと思うの」


「み、ミズハ……」


「私ね、今さっき、サトシくんと関係したの。あなたの気持ちを知っていながら、ごめんね。キスも沢山したわ。こんな女なのに聖女だなんてショックよね。ごめんなさい」


 彼女は一気に話す。ぼくは頭の中が真っ白になって、身体から力が抜けていくのを感じた。どうして今、そんなことを話すんだ、やめてくれよ、ミズハ……。


 だけど、ぼくは堪えた。ぼくは、ミズハとサトシが結ばれて幸せになることが望みだった筈だ。だから一人前の男として、対応しよう。


「ミズハ、おめでとう。聖女だから婚前交渉は怒られるだろう、ぼくの心の中に今の話は閉まっておくね。ぼくを諦めさせてくれたんだろ? 寧ろありがとうと感謝しないとね」


 そう言って心の広い男性を演出し、ミズハの返事を聞かず走りだした。走って、走って、街を覆う防衛壁まで来た。背中を預け、ずるずると座り込む。


「ハハハ……失恋って辛いなぁ」


 独り言ちする。


 ★


 ミズハ

「うぇ、うぇ、うぇ~~~~~~~~んっ!!!」


「うぇ~~~~~~~~~~~ん!」


「こうなるって分かってたのに、嘘ついちゃった。嘘に決まってるのに、ヨシタカくんを悲しませちゃった。うぇ~~~ん。うぇ~~~~~~~~ん!」


 …………ミズハの悲しむ泣き声は、長い間つづいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ