第2話 魔王城へ向け、出発!
国王陛下の謁見を終え、そのまま王城から王都のメインストリートを専用馬車で”出立のパレード”を行う。勇者馬車が先頭で、聖女と共に立ち上がって仲良く手を振る、その後列には騎士たちが連なっていて、とても壮大な風景である。
両側には沢山の住民が詰めかけ「がんばって!」と声援を送りながら手を振っている。中にはスラム街の子供たちがいて、粗末な格好ながらも手作りの勇者旗を作り、一生懸命に振っていた。
聖付与師のヨシタカは「うん、ぼくたちも頑張るよ、みんなの笑顔を守るために頑張るよ!」と返礼をする。
「お貴族さまなのにお返事をくれたよ!」と子供たちが喜ぶ。
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勇者パーティは全員、貴族になっていた。
ヨシタカと聖女ミズハを除き、勇者パーティのメンバーの全員が子爵を拝命していた。聖女はそのままで社会的地位を示し、王族や公爵クラスの最上位であり、一方の聖付与師ヨシタカだけは残念ながら最下級の”騎士爵”であった。
魔王討伐が終われば、それぞれ伯爵、男爵に格上げされる。国王は聖付与師だけが騎士爵では不当であり、男爵にと推薦しようとしたが、聖付与師スキルの評価が低く、周りの理解が追いつかず、最下級のままであった。
また、魔王討伐後、勇者と聖女が婚姻を結び、大魔導士が王子殿下と婚姻、聖騎士は公爵家の次女と婚姻、聖付与師は子爵または男爵の娘と婚姻するという取り決めがなされた。
勇者パーティにて、もしもメンバー同士が親密な関係がなされた場合、婚約は破棄され、自由選択の権利が与えられるということだった。
聖付与師ヨシタカは、自分以外の誰もが幸せになってくれれば好いと思っていた。元からのお人好しであり、根っこからの善人であった。
心の奥底にて幼馴染のミズハの事を想う。泥だらけで遊んだミズハが、今では聖女様。いつの間にか凛とした高潔な性格そのものの姿になり自分には眩しすぎると実感、感服している。民衆から支持を受け、美しい姿と慈愛の籠った目と微笑み、惚れ惚れしてしまう。
「勇者サトシなら幸せにしてくれるんだろうな」
ミズハとは幼少の頃とはいえチュッと三回だけキスしていた。ヨシタカは自分の好意を押し込めながら、懐かしさと恋の苦しさを感じていた。
また、大魔導士の妹ユアイを思う。
妹は美人のミズハと比較すると可愛い系であり、小さな体を一生懸命動かし、兄であるぼくの後ろをトコトコついてきていたものだ。目に入れても痛くないほどの可愛さだった。
それが今では大魔導士だという。物凄い出世だ。確かに小さい頃から魔法が得意で一緒に上達しようと野原で頑張った。魔法の勉強も毎日何時間もやり努力家だった。
ぼくは、パレードのイチ主役にも拘わらず、ほんわか懐かしさに浸っているだけだった。
【悪霊の街・エルソン】
魔王城へ向かう馬車の中では、再会の喜びと親交を深め合った。
勇者馬車は五名乗りの仕様であり、サスペンションが効き、馬車特有の辛い振動が軽減されていた。また馬には付与魔法をかけ、体力強化と自動回復で長距離、且つ、早く到着できる。騎士たちの馬車も同様だ。
サスペンションのない普通の貴族の馬車より豪華に出来ているのは、それだけ本気度の高い魔王討伐だからであった。それでも馬は万能ではない。生き物としての限界があるため、途中での水飲み休憩は必須である。
ぼく達は、十二歳で女神様の加護を受け、もう六年間ものパーティとなっている。会話は多少、口の砕けた感じになっている。
聖女ミズハ
「ねぇ、大きな湖があるよっ。奇麗だ~」
大魔導士ユアイ
「ミズハねえちゃん、光が湖に反射して奇麗だネ」
聖騎士ミキオ
「良さそうな魚が棲んでそうだな。釣りしたくなるねぇ」
勇者サトシ
「この自然の美しさ、これらを守らねばと強く思うよ」
聖付与師ヨシタカ
「ぼくは、このメンバーもしっかり守りたいな」
勇者一行は、途中の大きな街であるエルソンにて三日の宿泊をすることに決めた。この街はミスリル、オリハルコンをはじめとする希少価値の高い鉱物が産出することで発展してきた。それなりに街は大きく、宿泊施設も多い。買い物もできるので息抜きには最適な街であった。
ユアイ
「ねぇねぇーお兄ちゃん、街に着いたらさ、一緒に買い物行こっ!」
ヨシタカ
「うん、時間があったらいいね」
ミズハ
「私も行く。ダメと言ってもついて行くからね!」
ヨシタカ
「ダメだなんて言わないよ。一緒に行こう」
ミズハ
「うん!」
ヨシタカ
「二人にはミスリルのお土産を買ってあげようか。自動回復の最上位魔法を付与しておくよ」
ミキオ
「俺の買い替えた魔道剣にも付与頼むな」
サトシ
「聖剣には付与できないのが悔しいよ」
ヨシタカ
「ミキオの剣には重ね掛け、サトシにはペンダントに付与しておくよ。宿に着いたら剣を出してね」
ミズハ
「ふふ……なんだか昔に戻ったみたいだね」
ユアイ
「だったら今日は一緒にベットで寝よ。お兄ちゃんも入れて」
ミズハ
「だ、ダメよっ! 婚姻前の男女が一緒の寝床に入って……同衾するなんて、だって、わたし……ブツブツ」
ミキオ
「ははっ、ミズハちゃんはキスの経験もないんだろ?」
ミズハ
「キ…キス…バカにしないで! 私だって、キ…キ……ちょっと助けてよヨシタカくん」
ヨシタカ
「まぁミズハもユアイもキスの経験ないんだから、許してやってよミキオ」
ミキオ
「そういう事にしておいてやるさ」
サトシ
「お~い皆、炭鉱の街エルソンが見えたよ」
エルソンという街に辿り着いた。
外見は五メートルもの壁が街を覆っていて随分と大きい。要塞都市といった印象だ。大きな門が正面にあったので、そのまま近寄り、門兵に身分証を見せた。兵は直立不動の敬礼をして説明を始める。
「この街は現在、夜の外出を控えるように領主さまから伝達されております。今までは外部からの侵略など攻撃は完全に防いでおりましたが、街の内部にある炭鉱から悪霊が出てくるようになった為、攻防戦が五か月間継続しております」
聖騎士ミキオ
「五か月間も!? ……うん、続けて。」
「領主さまは王都へ報告し、騎士団の援軍が来ましたが、一週間前に半壊、現在は押されております。敵は死霊系のゴーストと思われますが、出現するタイプは様々な亜種が存在しており、絞り込むのが難しく、弱点を突くという作戦はかなり厳しい状況です」
勇者サトシ
「なるほど、浄化魔法の効果は?」
「はい。効果はございますが、殲滅するほどの決定打を放てる治癒師がおらず、難儀しております」
聖女ミズハ
「分かりました。わたしの浄化魔法が期待できます。今夜にも対処いたします。皆さまは他に情報がありましたら、私たちにお知らせください」
門兵
「イエス! マーム」
……ということで通過を許され、宿泊施設の場所を教えてもらって、夜までに更なる詳細な追加情報を提出するよう求めた。
ミズハは話を聞いただけで容易に俊滅できると判断し、兎にも角にも暗くなるまではゆっくりしようという事になった。
驚くことに、否、逞しい住民の人たちはお店は出しているし、普通に歩いている。悪霊は、夜以外は出てこないそうで、攻防戦の形勢が圧倒的に悪くならない限りは、愛着のあるこの街が必ず復活するからと、住み続ける覚悟だという。郷土愛が強いんだなと感心した。
宿で軽装に着替えて、ぼくはミズハとユアイの三人でお店巡りをした。購入するのはペンダント。アクセサリー店を何件も見て、鳥の串や焼き魚、焼き肉の出店などに寄っては買い食いした。
お祭りの時は特に美味しく感じるよね、さっき食べた串焼きも本当に美味しかった。
あるアクセサリー店にて、輝くようなペンダントを見つけた。宝石が入っており、側がオリハルコンだった。ミズハとユアイに「どうかな?」と聞くと二人とも「すごく奇麗」、「お兄ちゃん、持ってるね」と喜んでいたので、二人のプレゼントとして購入した。
店の親父さんが二人を見て「別嬪さんを連れて、兄さん、羨ましいぞ」と僕に向かって言った。
少し恥ずかしながら「幼馴染と妹ですよ」と返事をしたら「なぜかもっと羨ましい」と言われた。
早速、ぼくは回復と基本スキル増強を付与して、彼女たちにペンダントをつけてあげた。
ヨシタカ
「とても似合ってるよ」
ミズハ
「相変わらずヨシタカ君の付与魔法はすごいね」
ユアイ
「お兄ちゃん、ありがとー。大切にするね」
二人とも、昔の感覚に戻っているのか、ニコニコで、手はつなぐは、腕は組むは、抱き着くは、普通のカップルのようなイチャイチャぶりだった。
人類を代表するような重要人物とは、とうてい思えないや。
それからも「ネーネー、あっち~」とか「温泉があるよ、入りたいよね、魔王退治の帰りに。」とか、ぼくは引きずられていくのであった。
ミズハ
「ねぇ、私たちが育ったところの教会、ユアイちゃんやヨシタカ君が勇者パーティに入る女神様が加護を与えて下さった場所。全てが終わったら、教会に一緒に行こうよ」
ユアイ
「教会、思い出す……、いきなり自分がVIP待遇になって衝撃的だったよ。お兄ちゃんと手を繋いで訪れたいな」
ヨシタカ
「うん、約束するよ。あの教会行こうね」
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ミズハ
「ふふっ、楽しすぎて疲れちゃったわね」
ユアイ
「わたしもー。今までお兄ちゃんと離れてたから、お兄ちゃん成分を補充しないとね」
ミズハ
「ずるい! わたしも」
と言いながら、また二人で引っ付いてくる。
ヨシタカ
「二人とも甘えん坊さんだな~」
笑って、ユアイの頭をなでる。ミズハの腰に手を回す。
ミズハも凄く笑っていた。昔の夏祭りもこんな感じだったなぁと思い出す。またこのタイミングで、ミズハは少しだけ寂しい顔をした。
ヨシタカ
「なぁミズハ、今一瞬だけど寂しい顔したよね? 何か悩んでいることあるの? 相談に乗るよ」
ミズハ
「ううん、何でもないよ。疲れただけかな。気にしてくれて、ありがとう。わたし、あなたの事いつも好き。幸せだよ。」