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第1話 未だかつて魔王討伐は為されていない。

イラスト画像が不要な方は切ってお読みください。

【運命のローカス(軌跡)に翻弄される勇者パーティ】


 魔王城に向かうぼくたち五人組の勇者パーティは緊張していた。


 長年に渡り、敵を滅してきたが、いよいよラストスパートである。


 この世界では、未だかつて勇者のパーティが魔王を滅ぼして平和を勝ち取ったことがなかった。何千年もの間。なぜかはよく分かっていない。


 三百年に一度、勇者たち女神の加護を受けた強力な人材が生まれるが、記録がしっかりと残っておらず、肝心の経緯である魔王との決戦からの詳細な記録・書物が一切ない。紙の質が数百年の耐久に耐えられなかった単純な理由からだ。


 ただ今回には一つだけ違いがあった。今回の勇者パーティは魔王の討伐に成功し、世界に平和をもたらす、という女神からの神託があったことだ。


 一方、村や町の若い女性たちを、勇者パーティの男性陣から距離をとらせ近づかさない事が多々あり、女性陣にも接する時は距離をとる男性住人の傾向が見られた。


 残念なことに、過去において、私欲で魅了魔法(みりょうまほう)を使い、性犯罪を仕出かした勇者パーティの仕業で、酷い噂が口伝され続け、民衆は心の底から彼らを応援・尊敬することが出来なくなった。


 今の勇者は民衆たちの噂通りなのか、噂と違うのか、そして苦境を乗り越えられるのか。



 勇者「さぁ、行くぞ。女神ハルさまの神託を信じよう!」


「「はいっ」」


「「おう!」」


 この後で大変な悲劇が襲い掛かる。


歴代最強の勇者:サトシ ↓

挿絵(By みてみん)


【とある教会】


「聖女様がご誕生なされた!」


 ぼくの街で行われた教会による神託の儀、その会場での事である。十歳~十二歳の子供を集めて、女神の加護を与える順番待ちの途中、大きくよどめく雰囲気が広がった。


 皆が憧れる眉目秀麗な勇者様・御一行の一角である聖女のスキルが、この会場の誰かに与えられたらしい。


 女神の加護は、生後から十二歳になるまでに、その子がどんな種類の努力をしてきたか、という事実を元にして与えられる。剣を振って動物を狩っていれば、高確率で剣のスキルが与えられる。魔法しかり。


 それゆえ、努力をし続けていれば、必ず女神さまは応え、叶えてくださる。


 本屋をやりたいからと読書ばかりをしていれば、知恵系のスキルを必ず与えてくださる。親の大工を手伝っていれば、建築のスキル、掃除ばかりをしていたら、ちゃんとクリーンのスキルが与えられる。これらのケースでは、女神様は決して剣のスキルを与えることはない。


 勇者様のパーティは、万能の勇者、癒しでフォローする聖女、防御重視のタンク担当聖騎士、魔法から大魔導士、全体のスキルアップの付与術師の五名が候補だと呼ばれている。


 先ほど、この街で聖女様が誕生したようだ。聖女は男性の勇者の対になる女性の最上位スキルであり、誕生の瞬間、全人類の希望となる。


 どんな女の子が聖女になったのか? ぼくは興味津々で前の方を爪先で立ち背伸びしながら、見えるか見えないかの奥の方を探していた。しかし残念ながら、目撃することは出来なかった。残念。


 ★


 ぼくの加護は聖付与師だった。仕事としては、荷物運びや雑用、そして各メンバーのスキルや体力の強化魔法の提供だ。


 聖付与師は、付与術師の中でも、勇者パーティに参加できる資格を持つ最上位だ。でも、ぼくが加護を与えられた際には、聖女様のような歓迎ぶりはなく、ほぼスルー状態だった。


 司祭様がお言葉をかけて下さり、王家公的書類にぼくの名が登録されたのが嬉しかった。


 ぼくの決まった。仕事はポーターとして勇者様パーティの参加。


 一方で、なぜぼくが付与術師のスキルを与えられたのか、よく分からなかった。


 というのは、小さい頃より、剣を丸一日で、何千回、何万回と振り、野山を駆け回るため足腰を鍛え、魔法を毎日制御して、小さな炎を夜の部屋で出しっぱなしにする明かり利用の訓練や、制御の逆で開放すれば特大な炎が出来上がるなど、読書をして知識を蓄え、全般をソツなくこなしてきた。


 心の中で、剣士が良かったなぁ、いや大魔導士も捨てがたかったな、勇者はちょっと荷が重いや、などと考えていた。


★転生前の勇者パーティのメンバー

 左から、ミキオ(親友)、ユアイ(妹)、ヨシタカ(僕)、ミズハ(幼馴染)

挿絵(By みてみん)


・・・・・・・・・・


 聖女様の名前は分からなかった。正確には「聖女」という名前になってしまった。勇者パーティのスキルは、以前の名前を消し去ってしまう。つまり、聖女という名詞がそのまま《その人の名前》になる。ぼくは”ポーター”が名前となった。


 とはいえ数百年前、紛らわしいとか、気になるなら、と並列で元の名を記述しても良いことになった。侯爵領出身、伯爵領出身など、政治的な思惑もあったらしい。


 ぼくは加護を与えて下さった教会を後にし、自分の住むエリアに戻った。それから、あっという間に一週間が経った。


 実を言うと、協会から幼馴染の女の子、妹の二人とはぐれてしまい、再会できなくて心配していた。


 何となく幼馴染が聖女なんじゃ? と朧気ながら思っていたが、連れて行った家族が行方不明届を騎士団に提出していなかったから、きっと行方は確認が取れているだろう。他方で、ぼくの妹はなぜか王宮に連れていかれたらしい。


 ある回覧板が回ってきた。元の名前と併記された勇者様パーティの一覧が書いてあった。細かなところでは出身地などのプロフィールも出ていた。


 年齢は、大魔導士の人だけ、ひとつ下で、他は全員が同じ歳だという事が分かった。


 以下、名前だけを記述する。


勇者サトシ


聖女ミズハ


大魔導士ユアイ


聖騎士ミキオ


聖付与術師ヨシタカ


”上記のものは王都にて訓練を実施するとす。これは王命である。”


 ★


 やはり予感通り、幼馴染ミズハと妹ユアイが名を連ねていた。

 ミズハは幼馴染であり交際四年目の恋人でもあった。


★勇者パーティのメンバー(肩書付き)

 左から、ミキオ(聖騎士)、ミズハ(聖女)、ユアイ(大魔導士)、ヨシタカ(ポーター聖付与師)

挿絵(By みてみん)


【女神様の神託】


 ざわざわ……


 教会にいた職員をはじめとする人間は、彼女のあまりに完成された美しさに言葉を忘れていた。均整の整った体型、(ひと)離れしたスタイル、動作と共に香り立つような女性フェロモン、埃とは無縁の美しい髪をした美少女が侍女・メイドたちを引き連れて扉を開けて入ってきたのである。女神とまごうような美少女は厳かに礼拝堂を通過し、時間が止まったかのような静寂の中、微笑みを湛えながら奥へと進んでいく。


 コツコツ……神をまつる教会は静寂である。静粛な雰囲気は雑談すら憚れる。しかし人は多い。彼女の足音は響いていた。すれ違う職員や神官たちはその美少女の香りにハッとし、男女問わず脳に直接、性的な欲求を浮かび上がらせる程であった。全ての人は女神様降臨かと勘違いするかの如く騎士の礼や平伏(ひれふ)しそうになった。


 彼女の周囲は、まるで神話のような光景であった。美術品のような美少女はミズハという名であったが、今は聖女と呼ばれている。


 彼女は周りの視線を(まと)わりつけながら協会トップである教皇猊下(げいか)の部屋へと向かっていた。


 ガキッ、ズルル、バーン……


 彼女は足をひねらせてこけそうになったものの、踏ん張って姿勢を戻そうと足に力を入れ制御しようと頑張った拍子に壁に頭をぶつけてしまった。


「せ、聖女様……」


「い……いたい……泣きそうでしゅ……うう」


 ミズハはうるうるした泣きそうな目でメイドたちに心の中で助けを求めた。まるで捨て猫が新たな飼い主を求めるかの如く。


「聖女様、大丈夫ですか? なんだか凄い音がしましたけど。一旦、お部屋に戻りましょう」


「しゅ……しゅみましぇん……」


「はい、こちらの手を取ってください。他の者たちも一緒に戻りますね」


「いちゃかったです……ありがとうございましゅ……」


 部屋で寝かされるミズハ。不慣れな聖女公務の日頃の疲れもあって痛みに耐えていたら眠りこけてしまった。


 ・・・・・


「はっ!」


 聖女ミズハは現在十八歳。教会の最上位階にある聖女特別室で目が覚めた。驚いたのは、頭の中に近い未来の出来事が、女神様から伝えられたからだ。


 それは加護とは異なる、まごうことなき神託であった。


「そ、そんな……」


 コンコン


「どうぞ、お入りください」


「お休みのところ失礼いたします」


 教皇

「聖女様、女神様からの神託が降りなさったのですね」


「はい、勇者パーティの全員を集めて下さいませんか? 魔王討伐の出発のお告げが参りました」


 教皇

「はっ、直ちに」


 教皇が部下の司教に目配せをすると、伝令がさっと走って行った。


 教皇

「聖女様、お告げは何と?」


 聖女ミズハ

「我が人類の勝利です。過去、どの勇者も成し遂げることが出来なかった偉業です」


 教皇

「それは御目出度いです。でも少しお顔が優れないご様子ですが……」


 聖女ミズハ

「それは大丈夫です。ご心配をおかけしましたね」


 つい額に手を持っていったが、タンコブは侍女らがヒールをかけて治していた。苦笑いで誤魔化すミズハであったが、ポンコツであることは自分で理解しているものの、今はみんなと会えることが嬉しかった。


 ★


 聖女の間より下の階にある教皇の間。ここでは最上位の意思決定機関があり、今、勇者パーティの全員が集まり、会合が開かれている。


 加護の大イベントから王都へと引越し、各々の基礎技術を訓練及び修行で何年も過ごし、仲間同士の連携技も繰り返し鍛錬した。そして今、著しく成長し、心身ともに立派になったメンバーが再結集したのである。


 聖女ミズハ

「みなさん、喜んでください。魔王討伐は成し遂げられます。女神様からの近未来神託で明らかになりました。人類史上初です」


 勇者サトシ

「よし! これで我々もやる気が出るな」


 聖騎士ミキオ

「良かった、過去は全員が討伐失敗で亡くなったんだろ。生き延びられるっていう素晴らしい予言だな」


 大魔導士ユアイ

「こんなに嬉しいだなんて!」


 聖付与師ヨシタカ

「ぼくは涙が出てきましたよ」


 魔王討伐が史上初で成功すると聞き、全員がホッとしている。過去は全滅だったのだから、本当に朗報だ。


 結果が女神様の神託で出た以上、待つのではなく、なるべく早く魔王討伐を為さなければならない。旅の準備を急ぎで整える。


 教皇

「ポーション、エリクサー、食料、就寝具、防寒具、予備の武器、お供の騎士数十名は準備できております」


 教皇

「国王陛下との旅立ちの謁見、王都街道の出立のパレード、ご両親など親族への速達、七日後には間に合わせましょう」


 教皇

「料理、洗濯など身の回りのお世話のメイドは約十名、専用馬車もすぐにご用意できます」


 勇者サトシ

「承知いたしました。ご高配、感謝の極みでございます。教皇猊下(げいか)


 こうして、史上初の魔王討伐成功の明るい未来へ向かって、全員が出発日に向けて行動を開始した。


 勇者は未だ転移魔法を使えないため、馬車での移動を強いられた。なぜか空間魔法系は苦手だという。

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