魔術学園入学試験
月日は経ち、エマ達は遂に、試験当日の朝を迎えた。
「エマちゃん!!起きて!」
そう...迎えただけだった。
テゴーは、ベッドの上で爆睡するエマを必死に起こそうとしているが、当の本人に起きる気配は全くない。
「早く起きないと、試験に遅れちゃうわよ?」
「あと5分だけ〜」
「もう10回も繰り返してるわよ(汗)」
布団を取り上げてもびくともしないエマに、テゴーが困り果てていると、何者かが部屋に入って来た。
「私に任せて下さい...」
爆睡していたエマは、ふと目を覚ました。テゴーに散々起こされても目覚めなかったエマが、何故この期に及んで起きられたのか...
辺りを見渡したエマは、その理由に思わず声を出した。
「...ッ!何...!?(汗)」
ベッドの上で眠っていたはずのエマの体が、何故か宙に浮いていたのだ。
「目が覚めたみたいね。」
「アルバッ!?」
部屋に入って来たのは、アルバだった。
エマが遅刻すると予想して、予定よりも早くに迎えに来たのだ。
「あんたの覚悟がこの程度だったとは...聞いて呆れるわ。」
「朝は弱いんだよ〜」
「朝の弱さで言い訳してちゃ、何処に行っても半人前のままね。」
アルバは魔術を解き、エマを床へ落とすと、パジャマのまま外へ引き摺り出した。
起こし方が優しいテゴーとは違い、アルバの起こし方は引くほど激しかった。
「痛い!痛い!うぅ〜ごめんなさい〜(泣)」
「しっかりしないと、愛しの姉さんに会えないわよ!会えないままで良いの?」
エマは首を横に振った。
「なら支度して!早くしないと置いて行くわよ?」
エマは急いで制服に着替えると、いつもは持ち歩かない鞄を手にした。
「一緒に受かろうね。」
「当たり前よ。何があっても、二人でクレプスクロ学園の入学試験を受けに行くわよ。」
数十分後...そう意気込んでいたアルバだったが、途中で心が折れそうになっていた。
「はぁ...何で朝から山に登らなくちゃならないのよ?」
クレプスクロ学園は、山の頂上に位置している。
学園の生徒達は、この山を登って毎朝登校しなくてはならないが、学園の殆どの生徒は、学園内にある寮で生活している。
「何でアンタは...はぁはぁ...そんなに平気な顔して登れるのよ...?」
「それよりアルバ。」
「何?」
体力が限界に達しているアルバに、更に追い討ちを掛けるようにエマが言った。
「私達...迷ったよね?」
その言葉に、アルバは完全に足を止めた。
「...思っても言わない約束でしょ...?」
二人は、極度の方向音痴だった。
「でも、ここ完全に森だよね?入試案内の地図には、こんな森書かれてないよ?」
「...きっ気のせいせいよ...多分。」
2人は、学園に向かう途中で森に迷ってしまった。
「はぁ...こうなるなら、馬鹿なアンタに道案内なんて任せなければ良かった...」
「何でそんな事言うの?私は方向音痴だからって道案内任せたのはアルバでしょ?」
「はぁ?!アンタが寝坊しなきゃ、他の受験生達の後ついて行けたのよ!」
2人は、受験の事を忘れて喧嘩を始めた。
「君達は...?」
喧嘩の最中、突然後ろから声をかけられた。
『何!?』
喧嘩をしていた為、興奮状態だった2人は、勢いに任せて強気で答えてしまった。
振り返ると、薄茶色の髪を肩まで伸ばした男性が、驚いた様子でこちらを見つめていた。
「えっと...喧嘩は落ち着いたかな?」
『ごめんなさいッ!』
我に返った2人は、先程の言い方に対して謝罪した。
「大丈夫だから頭を上げて(汗)」
2人は、申し訳なさそうに頭を上げた。
「もしかして、クレプスクロ魔術学園の試験を受けに行くのかな?」
「そうなんです...でも、行く途中で道に迷っちゃったんです(泣)」
「学園までは、一本道の筈なんだけど...」
アルバが涙目で説明すると、男性は、二人の方向音痴の酷さに困惑しながらも、学園への行き方を教えてくれた。
「左の方向へずっと進めば、学園へ続く道に出られるよ。それと...また道に迷わないようにこれを持っていくと良い。」
男性は、首から下げていた魔法石のような物をエマ達に渡した。
「この石には、学園の場所を記憶させているから、正しい方向へ進むと光ってくれる。」
「頂いちゃって良いんですか?」
「俺は道に迷わないから大丈夫だよ。」
二人は、男性から魔法石を受け取ると、お辞儀をしてその場を後にした。
その後、無事に学園へ着いた二人は、敷地内にある受験会場へと向かった。
「何とか間に合ったぁ〜(泣)」
「あのお兄さんには感謝しないとね。」
ドンッ...!
「痛...ッ!」
アルバは、すれ違いざまに肩をぶつけられた。
「おいッ!何処見て歩いてんだッ!?」
ぶつかって来た相手は、あたかもアルバが悪いかのように喧嘩を吹っ掛けた。
「はぁ?!ぶつかって来たのはアンタの方でしょ!」
「雑魚のくせに調子乗るんじゃねぇぞ?!」
負けじと言い返すアルバにムカついた相手は、勢い良くアルバの胸ぐらを掴んだ。
「やめなさい。」
そう言って男性の腕を掴んだのは、白髪ロングの女性だった。
「ここは試験会場よ。周りの迷惑だから、喧嘩なら外でして貰えるかしら?」
「この野郎...調子乗ってんじゃねぇぞッ!」
男性が白髪の女性に殴りかかろうとした時、エマが素手で拳を止めた。
「暴力はダメだよ。掴み合いは私もするけど、殴るのは良くないと思う。」
「いや、掴み合いも立派な暴力だからね。」
「...えっ?そうなの?」
エマが、胸ぐらを掴まれいるアルバを助けなかったのは、2人の喧嘩は掴み合いがお約束だった為、許容範囲内と勘違いしていたからだった。
「これ以上騒ぎを起こせば、ここから強制退場させられるわよ。それと、相手を雑魚と決めつけるのは、貴方がここに合格できてからにした方が良いわ。」
白髪の女性がそう言うと、男性は舌打ちをして去って行った。
「あの...助けて下さってありがとうございます。」
「勘違いしないで。迷惑だから忠告したの。」
白髪の女性はそう言うと、綺麗な髪を靡かせながら颯爽とその場を後にした。
「あの人かっこ良かったね。」
「えぇ。でも、敵に回したくはないわ。」
魔力保持者が集まるクレプスクロ魔術学園の試験会場は、普通の学校とは違い、魔力量の気迫が違った。
その中でも、魔力量が異常に多い人物が、アルバを助けた白髪の女性だった。
試験開始まで、残り10分。
仲の良い2人も、試験会場では敵同士...
「恨みっこなしだよ。」
人生を懸けたエマの入学試験が始まる。