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終焉の魔女  作者: 芥文学
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不吉な記憶3

 アルバ達と別れたエマは、魔術講師と一緒に媒体の捜索を始めた。


 「媒体には、必ず術式が埋め込まれています。媒体となる血と術式が合わさる事で呪術が完成するのですが...この状況だと、発動するまで持って10分程かと。」

 「なら、急いだ方が良さそうですね。」


 校舎中を隈なく捜索したエマ達は、屋上へと訪れた。


 「魔術講師さん、こんなに探しても媒体が見つからないのは、少し異常じゃないですか?」

 「私もそう思います。もしかしたら、見えない場所にあるのかも知れません...」

 「見えない場所...?」


 魔術講師もそれ以上は分からないのか、首を横に振った。


 エマは疑問を抱きつつ、屋上の真ん中に立った。


 「キャァァー!」

 

 その時、廊下で聞いたあの叫び声が、再びエマの脳内に響き渡った。それと同時に、突然強い風が吹き荒れ、エマの体が空高く舞い上がった。


 徐々に高度を上げて行き、屋上全体が見渡せる高さまで到達した時、エマは叫び声の正体を突き止めた。


 「そっか、君の叫び声だったんだね...」


 エマは、愛用している箒を呼び寄せると、それに乗って地上へ戻った。


 「魔術講師さん!屋上の床に大きな媒体が隠されています!」

 「なるほど、大きすぎて見えなかったのですね...」


 あの時の叫び声の正体は、酷使されてひび割れた媒体の訴えだったのだ。

 全校生徒分の術式を無理やり組み込まれたせいで、一部に亀裂が入ってしまったのだ。


 「時間がありません、早速解析を始めましょう。」

 

 エマと魔術講師は左右に分かれると、媒体の上に立った。


 「媒体は、術式がパズルの様に組み合わさった状態で成り立っています。そのパズルを分解するイメージで解析して下さい!」

 「はい!」


 呪術の発動まで、残り5分を切っていた。


 エマが媒体に触れた時、脳内に大量の情報が流れ込んで来た。

 その情報の正体を知る事はできなかったが、魔術講師に言われた通り、パズルを分解するイメージで媒体を解析していった。


 「ゔぅ...ッ!」


 術式を分解する度に、脳内に焼かれるような痛みが走る...媒体者の心情や思考が、同情させようと誘って来た。


 「ごめんけど、貴方に同情してる暇はない。皆んなを助けないといけないからね。」


 最後のパズルを分解し終える時、エマ達は、犯人の正体と犯行の動機を知る事になった。


 「まさか、あの人が犯人だったとは...」

 「早くアルバの所に行かないと...!」


 解析を終わらせ、呪術の発動を遅らせる事に成功したエマは、急いでアルバの元へ向かった。


 「アルバッ!」


 エマが駆け付けた先にある部屋は、校長室と書かれており、勢いよく扉を開けると、部屋の真ん中にはアルバが静かに立っていた。周りを見渡すと、校長室の床には教員達が倒れていた。


 「アルバ...!ここは危険だから一緒に逃げよ...?」


 エマが忠告すると、黙り込むアルバの背後から校長が現れた。


 「校長先生...最初から全て、貴方の仕業だったんですね。」

 「素人の割には、ずいぶん早かったみたいだね。」


 アルバの喉元には、ナイフが突き付けられており、お互い下手に動けない状態だった。


 「早く呪術を解いて下さい。」


 エマがそう言うと、校長は笑い出した。


 「無理に決まってるだろ...(笑)呪術の発動は遅れてしまったようだけど、待てばまた発動するんだ。歴史的大事件に、私は被疑者として、君達は被害者として名を残すんだ。」

 「そんな事させないよ。」

 「させない...?違う、するんだよッ!」


 時間稼ぎの為に遅らせていた媒体は、時間の経過と共に強い光を取り戻して行き、校長は歓喜の涙を流した。


 「あと少し...あと少しでッ!私は何者かになれるのだッ!」


 しかし、呪術が発動する直前、媒体から強い光が消え、呪式が消滅した。

 

 「なっ...!何が起きて...」

 「残念だったね、校長先生。」

  

 すると、部屋の奥から声が聞こえた。

 

 「だっ誰だッ!」

 「貴方が自分語りをしている間にも、媒体の解析は進んでいたんだよ。」


 そう言って影から現れたのは、先程の魔術講師だった。


 「おっお前は...」

 「あれ?(笑)ただの魔術講師だって、本気で信じてたの?俺は、貴方に触れた瞬間から犯人は誰か気付いていたけど...」


 実は、解析を終えた直後、アルバの元へ駆け付けようとしたエマは、魔術講師に止められていた。


 「お待ち下さい!」

 「アルバが危険ですッ!」


 止めても尚、行こうとするエマの腕を、魔術講師は掴んだ。


 「離してくださいッ!アルバは校長と一緒にいるんです!」

 「焦りは禁物です。私に作戦がありますので、聞いて頂けますか?」


 エマは、落ち着いた声で話す魔術講師の言葉で、冷静になった。

 その後、言う通りにその場に留まる事にしたエマは、魔術講師の作戦を聞いた。

 

 「あの校長は、無理やり術式を組み込んでいたので、媒体の一部が欠落していました。欠落した媒体は、解析のやり方によっては、解除する事ができるのですが、それには本人の一部と時間が必要です。」 

 「本人の一部...?」

 「声は体の一部に含まれるので、エマさんは時間稼ぎと同時に、彼を喋らせ続けて下さい。」


 作戦の一部始終を聞かされた校長は、その場で落胆した。


 「いやぁ〜貴方が欲深くて助かったよ。媒体に亀裂が入ってなかったら、本気でヤバかったかも(笑)」


 無事に作戦が成功した魔術講師は、満足気に笑った。


♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢


 私はただ、何か成し遂げたかった。


 国に大きく貢献した訳でも、魔力がある訳でもない私は、何もない平坦な道を歩いて来た。


 何もないのであれば、何かを手に入れようと、私は努力して校長と言う偉い地位を手に入れた。


 しかし、校長になった所で、周りに気を遣い、生徒の親に頭を下げる日々は変わらない...。 


 頭を下げるだけの私の人生に、何の価値もないと感じた時、私は雪にすら足跡を残せない薄くて軽い人間なのだと悟った。


 悔しかった...せめて、死ぬ前に一度だけでも、人々の心に残りたい。重い責任を背負って雪に足跡をつけたい...そう思った時、丁度私の元に一冊の本が届いた。


 『闇呪術による人間の支配』と書かれたその本は、人々の心に存在したいと言う今の私にぴったりの内容だった。


 幸い、呪術は魔力保持者以外も使える力だった為、生徒全員と無理心中する計画を立てた。


 死ぬのは嫌だったが、私の人生が平坦な道ではなく、ボコボコの荒れ果てた道に変わってくれるのなら、死ぬ事はかすり傷以下だった。


 あと少し...あと少しで媒体が完成する。

 歓喜と幸福感で胸が満ちていく感覚がした。


 それなのに、魔術講師と名乗る正体不明の男と二人の小娘によって、素晴らしい私の計画を台無しにされてしまった...。


 私は一体、何がしたかったのだろう...?


♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢


 床に崩れ落ちて、放心状態になった校長の元に、エマが近づいた。


 「校長先生、貴方がした事は決して許されません。でも、あの時の貴方の手の温もりは、本当に温かくて優しかったです。」


 事件が終結した後、全校生徒は目を覚まし、元凶である校長は、魔術公安と呼ばれる、魔術と呪術に関する犯罪を取り締まる組織によって身柄を拘束された。


 「二人のお陰で、今日は助かったよ。」

   

 すっかりキャラが変わってしまった魔術講師は、エマとアルバにお礼を言った。


 「あの...それで、貴方は何者なんですか?」

 

 エマが質問すると、魔術講師はニコリと微笑んで、名刺を渡した。

 

 「魔術公安局・巡査部長のユース・ルナティクスです。本当は秘密なんだけど、君達とは今後も長い付き合いになりそうだから、特別だよ。」

 「公安って事は...今回の事も本当は知ってたんですか?」

 「いや、魔術講師は副業でしてるんだよ。まさか、派遣先でこんな面倒事に巻き込まれるとは思ってなかったけど。」


 何処までが本当で、何処からが嘘なのか...ユースと言う男性は、謎に満ちた人物だった。


 「受験控えてるし、今後はこんな事が起こらないように祈らないと...」

 「でも、そのお陰で遅刻にならなかったし、授業も潰れたからラッキーだったね。」

 「遅刻になって、授業に遅れる方が良かったわ...」


 危険な事件に巻き込まれたにも関わらず、能天気な事を言うエマに、アルバは呆れつつも少し尊敬した。


 「そう言えば、あの時の叫び声って結局何だったの?」


 アルバが聞くと、エマは薄気味悪い笑みを浮かべた。


 「ただの幽霊だったよ。」

 「...えっ?」

 

 今回の事件は、エマ達にとって貴重な経験になったと同時に、アルバに叫び声の恐怖を植え付けた。

 また、全校生徒殺人未遂事件は、校長の思惑通りの歴史的大事件となり、受験生の不吉な記憶として残る事となった。

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