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おにぎりの味

気配を感じて顔を向けると、さっき通学路で見た白い髪のクラスメイトが立っていた。俺は驚きながらも俺を見る彼女の目線に答える。

「これ、落とし物」

そう言って彼女が手から差し出したのは、俺の家の鍵だった。

どうやら走っている時に落としたらしい、息も上がっていて、必死で気付かなかったのだろう。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして。」

彼女は無機質に返事して、そのまま自分の席へと戻ってしまった。

彼女に話しかけられたことに驚いて放心していると、隣の席のヤツが話しかけてきた。

「おい、お前はじっこちゃんと知り合いなのかよ?」

そうだ、思い出した。彼女の名前は波路(はじ)すみれ。いつも無表情で、教室の端の方にいるからその苗字も相まって「はじっこちゃん」と呼ばれている。その美しい顔立ちで、あまり人と喋らず馴れ合わないことからそんな別称が付けられている。

「いや、今日初めて話した・・・」

なんて話をしていると、チャイムが鳴る。それとほぼ同時に先生が教室に入ってきて、授業開始の号令が響く。


= = = = = = =


午前の授業は終わり、昼休憩の時間だ。俺はいつものように売店へ行き、昼食を購入する。朝はパンだったので、おにぎりを二種類買った。鮭と塩昆布梅だ。これが一番美味い。俺はどこで昼食を食べようかと思案していると、また白い髪が見える。よく目立つ色だ、と思いながら注視してみると、売店の前で彼女は立ち止まっている。どうやら売店の昼食が売り切れてしまい、昼食を買い損ねたようだった。彼女は相変わらず無表情でいて、何も感じていないように見えたが、ほんの少しだけ、俺には悲しそうに見えた。俺はたまらず声をかけてしまう。彼女が腹を空かせていると勝手に想像して、憐れんだのかもしれない。いつも無表情な彼女から見てはいけない感情を見てしまった気がして、罪悪感が芽生えたのかもしれない。それでも俺は放っておけなかった。

「これ、一個いる?」


= = = = = = =


気付けば俺達二人は屋上まで来ていた。なぜこうなった・・・

俺は昼食を買い損ねたであろう彼女を見て、放っておけなくて声をかけてしまった。彼女は相変わらず無表情のまま、「なんで?」と返したのだった。俺が理由を探していると、通行人が奇妙な目でこちらを見てくるものだから、耐えられなくなりつい場所を移してしまい、今に至る。俺はどうしたものかと少し困りながらも、声をかける。

「まぁ、とりあえずさ。一個食べていいから、選びなよ」

俺は二つのおにぎりを差し出す。すると彼女はありがとう、と言いながら塩昆布梅の方を手に取る。そっちなんだ・・・と思いつつ、俺は残った鮭の方を手に取る。すると彼女がお代は払うから。と無機質な声で言い、財布を取りだした。

「いや、いいって。俺が勝手にしたことだし、今朝落とし物を届けてくれたお礼だからさ。」

「落とし物を届けただけで昼食を奢ってもらう理由になるの?私は何もしていない。お代は正当な対価よ。私は貴方の昼食を貰うわけだから、貴方には対価を受け取る権利がある。」

彼女は無表情ながらも引き下がらない。それでも俺にだって格好つける権利はある。

「だから、いいって。俺が君に声をかけて、勝手に昼食を奢るだけ。俺だって男なんだ、そのぐらい格好つけさせてくれよ」

彼女の表情は変わらない。常に一定で、ブレることが無い。

「いいえ、それは違う。貴方の勝手に私を巻き込まないで。お代は払う、私は貴方に昼食の提供を感謝する。それでいいじゃない。」

彼女は無表情ながらも硬い意思で、貫き通す。

結局彼女は最後まで折れなかったので、仕方なくお代を受け取った。


彼女はお代を払った後もその場から立ち去ることはせず、そのままおにぎりを開封し、食べ始める。相変わらず無表情のままだ。

俺は少し驚きながらも、同じようにおにぎりを開封し、食べる。


あまり話したことも無い女子と屋上で食べるおにぎりは、いつも食べている味なのに、いつもと少しだけ違う味がした。

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