おいしいね
義理の妹が、トラックにひかれた。
意識不明の重体から目を覚ましたひなちゃんのオムツを変えるところから1日が始まり、少し痙攣が残るつたない手でスプーンをもち一生懸命にごはんを食べる姿を見て「かわいいね」と言うと、痛いのに頑張って笑顔を作って僕に向ける。車椅子にひなちゃんを乗せて、日課である病院の下にある広場を散歩し元気に遊んでいる背中からランドセルの匂いがする少女を見て、悲しそうな表情を浮かべるひなちゃんを無言で後ろから抱き寄せ、ひなちゃんは僕の腕をその小さな手で握る。背中に背負うものはたった6年しか共にしないランドセルなんかより、永世共にする僕がいるといことをひなちゃんは静かに理解し、涙ぐんだ小さな声を発しながら、時がどれほど経ったのかわからないほどにその瞬間は続いた。時がたち、家に帰って養療することが許された。僕は車椅子を押しはなちゃんと談笑しながら、家に向かっていった。だんだん家に近づくにつれて、ひなちゃんの口数は少なくなっていった。日常が戻ってくるという嬉しさなのか、過去の悲しさなのか僕にはわからないけども、黄昏時の夕日は、そんな僕たちの胸を締め付ける。家に帰ると、僕はご飯を作り、夕食を食べた。ひなちゃんをお風呂に入れるために脱衣所に運んで、服を脱がし包帯を取る。小さな体には、かわいいうすぴんくいろのちくびが気にならないほどに、痛々しい傷がのこっていた。その小さな体をゆっくり、いたわりながら舐め回すように洗った。風呂からあがってひなちゃんを部屋に運び込むと、久しぶりに帰ってきた自身の部屋を見渡し、黙り込んだ。ひなちゃんにこの頃悲しい想いをさえている自分の不甲斐なさにさいなまれ、「ごめんね」と言うと今までの満面の笑みで、「ありがと」とひなちゃんはかえす。僕たちは、2人で抱き合った。
9月だと言うのに
たくさん汗をかいた ひなちゃん
だきあっていた! (だきあっていた!)
僕の手にはびっしょりとはなちゃんの汗
両手を広げて吹かれる 時間を忘れた
手にできた結晶を
僕はおひつを開けて おにぎりを握った
おいしいね ひなちゃん