第95話、桃太郎、ダンジョンでお宝を拾う
「モンスター、出ないなぁ」
「やめて、桃ちゃん。それフラグって言うんでしょう?」
カグヤに睨まれ、オレは肩をすくめた。
結局、底まで何に襲われることなく、到着してしまった。……いや、何もないのは悪くはないんだけどさ。
ダンジョンっていうから、もっとこう、モンスターとかフロアボスってのが待ち受けている印象がある。しかもここ100階層あるうちに真ん中に近いから、それなりに敵もいるんじゃないかって思うわけだ。
「外の回り道とか崖のモンスターが44階の敵だったんじゃないの?」
「このまま何もなければ、そうだろうな」
登ってくる道が険しいだけで、こっちはお休みルートかもしれない。
「ねえ、桃ママ」
太郎が底の一点を指さした。
「あそこ、宝箱じゃない?」
「おっ、マジか」
見れば上から降り注ぐ滝の周りに、木箱が見えた。……というより――
「一個や二個じゃない??」
澄んだ水のおかげで、底が見えるがそこにいくつか箱が重なっているようだった。上から落ちた後、底を転がって今に至るというところか。
「どれくらいの周期かわからないが、時々落ちてきてるってことか……?」
「どこからでしょうか?」
お鶴さんが首をかしげた。どこからって……さあ、どこだろうね。
「ダンジョンだからな。わかんね。――サル、ちょっと取ってこれるか?」
深さは腰あたりだろうけど、水の中から引き出すには少々力が必要だ。
『やれやれ。私に水の中に行かせるなんて。機械の扱いがわかっていないですね』
「もうたっぷり、滝の水を浴びてるでしょ」
カグヤが言えば、オレも付け加える。
「お前さんが、防水処理されてるのは知ってるんだ。諦めろ」
降りかかる水しぶきの中、ザブザブと水に入るサル。いくつかある箱を持ち上げると、岩場に乗せる。さすがゴーレムだ。
木製の箱は、たっぷり水を含んで色が変わっているし湿っていた。中身も腐ってないかね、これ。
次の箱を置けるようにオレは、それを移動させる。縦およそ50センチ、横1メートル、深さ50センチってところか。それなりに重いが、中のものが動いた気配はなし。
「中身はなんだろ、な?」
オープン! ……うん、砂のように小さな金が箱に詰まっていた。重いわけだ。
「砂金がビッシリ!」
「へえ、こういうお宝もあるのね」
「ダンジョンっぽさはないけどな」
金になるのは間違いない。その間にもサルが回収した木箱や鉄の箱の中身を確認する。
「わあ、魔石ですよ!」
お鶴さんが声を弾ませた。魔石――というより、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドほか宝石がいっぱい詰まっているように見えたが。
「宝石じゃないの?」
「魔石ですね。これ自体、宝石としての価値もありそうですけど。……これ普通の宝石より大きいでしょ?」
「言われてみれば……」
そこらの宝石より一回り大きかったりする。
「魔道具向けの素材ですね。売るもよし、素材にするもよしですね。属性付きの武器や防具、装飾品に使えるんですよねー」
クラフターであるお鶴さん垂涎の品ってやつか。他の箱には鉱物などが入っていた。ふーん、ここのお宝は、そっち系の人が喜ぶ類いのものって感じだな。
「あぁっ、いいなあ。これだけあると色々作れますねぇ。何を作りましょうかー!」
お鶴さん、大喜び。幸せだよね、お前さんは。
「太郎に感謝しとけよ」
見つけたのは太郎だ。
「ありがとう、太郎クン!」
「よ、よかったね」
笑顔で返す太郎だけど、お鶴さんのテンションについていけないのか少し引いていた。さて、回収したし、そろそろ行くか。
「お疲れ、サル」
『どういたしまして』
岩場を歩いて、結局、敵に襲われることなく、次の階層への魔法陣を見つけた。この階では、モンスターは外にしかいなかったってことだな。
・ ・ ・
45階層。順当に進めば、46階層コースなので、道中の転移部屋に向かって、そこからこの塔を出る。
幻想塔の本格探検は次の機会だな。……いつのことかは知らんけど。
「……随分と、おどろおどろしいな」
何の骨か知らないが――いや、人骨が至るところに転がっている。葉のない木がいくつか立っていて、天井――というか空も曇っていて、さらに血のように赤い。
「地獄っていうのは、こういうところなのかねぇ」
「そうだね……」
太郎が顔をしかめ、臭うのか鼻をつまんでいる。
「いい光景じゃないよね」
子供には少々刺激が強すぎないかな、これは。普通の子供、いや女だって泣いてるぞ、これ。太郎は度胸あるなぁ。
「いやいや、何を言っているのよ」
カグヤが何故は眉間に皺を寄せた。
「殺風景ではあるけれど、地獄はないんじゃないの? まあ、息はできるし、どうせダンジョンが見せている幻なんでしょうけど」
幻ね。……こんな地獄みたいな光景、幻であってほしいわな。お鶴さんは大丈夫かな……?
「こんなに銀世界なのに、寒くないってのは不思議ですよねぇ」
呆れ笑いのお鶴さん。……え?
「え?」
「え?」
太郎もカグヤも、そしてお鶴さんですら、わからないという顔になる。というか、何て言った?
「銀世界……だって?」
ようするに、辺り一面雪に覆われた世界って意味なんだけど、雪? 雪ねえ。
「おーい、サル。お前、ここがどう見えている?」
『どう見えているかですって? ……そうですね、どこかの遺跡のようですが。どうやら皆さんが見ているものと違うものようだ』




