第87話、桃太郎、盗賊村へ突入する
冒険者というのは、突然行方不明になる。
もっとも、その原因と推測される理由ってのが、ダンジョンに行った、モンスターや盗賊退治に行った、採集に行った――大抵は、何かしらのクエストや移動、ダンジョン絡みだ。
それらは、あくまで推測だ。クエスト受注して、そのまま帰ってこなかった、では逃亡なのか死亡なのかわからないが、その冒険者の持ち物などが回収されたりすると『ああ、こいつ死んだんだな』ということになる。近くに本人と断定できる死体があれば確定だが、モンスターに食われたりで遺体が五体満足で残らないことも多い。
クエスト中の推定死。冒険者にはよくあること、というか主な死因認定がそれだ。……時々、実は生きてましたってひょっこり帰ってくることもあるが、大抵は二度と現れない。
で、ここで問題になるのは、その推定死が、現実にどのような最期だったか、実際に確認されることは稀だということだ。
どうもやられたらしい、で「ふーん」で終わってしまうことも少なくない。冒険者ギルドでも、不明なのか死亡なのか確認するのは、よほどの緊急依頼や、貴族や王族依頼でなければされない。
幻想塔ダンジョンとは、そこそこ有名なダンジョンらしいが、同時に未帰還率も高いと昔から言われているという。……あ、これは魔法の鏡の談な。
そうなると、だ。血気盛んな向こう見ずな若い冒険者たちが幻想塔ダンジョンに行って、帰ってこないのは、普通に考えて、ダンジョンにやられたんだな、と皆が思う。
……まさかダンジョン前のお誂え向きな拠点があって、そこが盗賊村になっているとは思わないわけだ。
世間は、冒険者はダンジョンに殺されたと思うが、実際は盗賊どもに身包み剥がされて殺されたのだ。
推定死、思い込みの怖いところだ。なんとまあ実に上手いやり方だ。冒険者はダンジョンに殺されたと皆考えるから、まさか拠点の人間が盗賊だなんて疑いもしない。
ダンジョン周りに拠点というべきキャンプじみた町があるのも、攻略困難なダンジョンがあるなら、あってもおかしくないと思わせるのもポイントだ。思い込みの力ってすげー。
正直、人間ってのは自分の身に降りかからないと、案外に人を憎めない。他人事でいる間だってのは、存外薄情なんだ。
エキュリーの町の討伐に関して、オレたちはまだ被害を受けていない。
実際、この手の状況ってのは被害を受けた時は手遅れなんだが、元々盗賊は鬼と同列でぶっ殺せ勢のオレと違い、いまいち盗賊ってのがわかっていない太郎などは、些か躊躇っているようだった。
だからオレは、事前に、またも魔法の鏡を使い――本当、自重しなきゃいけないと言いながら使っているんだから世話ないのだが、それはまあいい。鏡に、エキュリーの町の盗賊どもの悪行と犠牲になった冒険者の数を教えてもらった。
魔法の鏡の話す内容は、目の前で見なくても凄惨そのもので、犠牲者になった冒険者がトータルで三桁に達すると聞いて、一同も連中を始末することへの躊躇いはなくなった。
他人事でいれば、自分たちがその犠牲者の列に入れられてしまうとなれば、まあ本気になるってもんだ。
殺すか殺されるか、そういうところなんだよ、これは。……OK? これで覚悟はできたな? 目の前で仲間が玩具のように壊され、殺された冒険者たちの無念を晴らしてやろう。
・ ・ ・
盗賊の見張りをイッヌが二人とも始末した。
一人は逃げる姿が見えたんで、弓で射殺そうと思ったんだけど、イッヌのほうが早かった。
スキーズブラズニルを降りて、夜陰の乗じてエキュリーの町へ。いかにもそこらの物を寄せ集めたボロい街並み。夜は一部を除いて暗いのは、電気設備がない世界じゃどこでも似たようなもんだろう。
よくよく考えれば、見張り台がダンジョンの方とその正反対にある町の入り口にあるのを見て、疑うべきだった。
ダンジョン側は、スタンピードなど問題があった時用で説明がつくが、入り口側の見張り台は完全にダンジョン町の設備として意味をなさない。
……盗賊などの武装組織を見張るため? ダンジョン前にある冒険者だらけの町を素面で襲う盗賊なんているわけないだろう。
ダンジョン産の武具で固め、そこらの兵士や騎士より強い連中がゴロゴロいる町を、真正面から攻める盗賊なんていたら、そいつは自殺志願者だぜ。
それでもなおダンジョンと関係ない方向に見張り台を立てている理由は、この町を訪れる奴を早くからチェックするためだ。
町にいる仲間たちに、『獲物』がきたからボロを出すなよ、と警告したり、ヤベーのきたっぽいからやり過ごせとか、さ。
身を低くしつつ遮蔽に隠れながら、距離を詰める。これから奇襲仕掛けるつもりなんでね。町には密かに忍び込みたい。
「……どうだ、サル?」
『スキャンの結果、あの見張り台の上にいるのは一人だけです』
よしよし、オレの目で見た数と一緒だな。あの見張り台の中に、座り込んで見えない奴がいる、とかでなければよし。
オレは長弓を構える。カグヤが口を開いた。
「見えてる、桃ちゃん?」
「お前さんの暗視の魔法のおかげでな」
矢を放つ。大力で引かれた強弓、その矢は見張り台で、退屈そうに間抜け面を晒している盗賊の喉を貫き、台の中に倒した。
『お見事です』
サルが褒めてきた。
『あれなら、生きていても声は出せずに直に死ぬでしょう』
「やられた方としては最悪の死に方の一つだけどな」
見張りがいなくなったので、オレたちはエキュリーの町の入り口へと近づく。――おっと! 入り口に一人門番が立っていた!
「――ん!?」
気づかれた! 構うことない、まだあっちはこちらを明確に『敵』と認識していない!
「おおーい、あんた! そこの門番!」
オレは手を振り、駆けながら町の入り口に近づく。
「大変だ! 話を聞いてくれ!」
「あ? 何だ……?」
訝しむ門番。手に槍を持っているが、こちらに穂先を向けていないので、少なくとも内容を確認しようという態度だ。
「ヤベーモンスターが出てきて、あんたらのお仲間が二人、喰われちまったぞ!」
「何だって!? おい、どういうことだ?」
かかった。外にお仲間がオレらの監視に出ていたもんな。門番なら、誰が出ているか知っているだろう。こちらへ近づく門番。……他に仲間はいないのを素早く確認。
「だから、モンスターが外にいた仲間を殺したんだって!」
如何にも緊急事態を装い、門番に駆け寄り――抜剣!
「うがっ!?」
「な? ヤベーだろ?」
オレは門番を一刀両断した。
エキュリーの町の入り口に到達。敵の姿なし、制圧!




