表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生桃太郎 オレに侯爵令嬢なんて無理だから婚約破棄上等! それより鬼退治だ!  作者: 柊遊馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/121

第86話、桃太郎、天を睨む


 その日は雨だった。何でだよ! エキュリーの町の盗賊冒険者を退治する予定だったのに!


「桃ちゃん、これはまずいわよ」


 カグヤが言ったが、理由はわかる。


「そこそこ強い雨だ。妖光の魔法も効果が弱体化する、だろ?」


 淡い月の光を浴びせる魔法だ。光が当たる範囲は射程であり効果範囲ではある。が、強い雨が降ると、滴がカーテンとなって一応、光は届くが効果が半減以下になってしまう。


「一応、効いてはいるんだけどね。ただ戦闘不能に追いやるまでの時間が延びるから、効くまでに肉薄されて潰される、なんてことも」

「そこは前線のオレやイッヌやサルが盾役やれば、ある程度防げるけど……」

「弓とか投射武器だと、まずいですよね」


 お鶴さんが指摘した。それな。

 雨が降って、妖光の効果範囲が狭まっている外から矢をバンバン放たれたら、前衛組はともかく、カグヤやお鶴さん、太郎が危ない。

 しかも市街戦になるから、家に隠れられて窓から狙撃されることも充分あり得る。


「天気については仕方ねえけど、運が悪いなぁ」

「雨だとイッヌさん、鼻も利きにくいって」


 太郎がイッヌを撫でながら言った。こんだけザーって音していると、聴力にも影響出るだろうな。数あっての奇襲なら、恵みの雨なんだが、うちの作戦と相性悪すぎる。


「索敵自体は、イッヌが駄目でもサルがいるしな」

『お任せください』


 メカニカル・ゴーレムが自身の胸を叩く素振りを見せた。


『雨天、闇夜関係なく、スキャンできます。盗賊どもを探知します』

「頼もしいね。んじゃ、見張りは頼むぞ」


 機械の性能にも影響が出るかも、と思ったが、サルがそこまで自信たっぷりなら安心だ。カグヤがオレを見た。


「で、どうするの、桃ちゃん?」

「雨中での戦いは想定していないからな。そういう時は――」

「そういう時は?」

「雨天中止。やめやめ。今日は戦わない」


 戦闘というものは仕掛ける方が有利だ。いつ、どこで戦うかを選べるからだ。


「条件悪い中に無理してやらなきゃならないほど、時間が切迫しているわけじゃねえし。自分たちに有利な条件で戦うのが鉄則だ。それができない奴から戦場で死ぬんだ」


 スキーズブラズニルで飛んでいる間は、盗賊連中も仕掛けられないだろうしな。


「雨ん中でも、有利に戦える方法が浮かべば別だが、それまでは待機。いや休みでいいや。昼寝してもいいぞ」


 持久戦ってやつだ。まあ、そこまでずっと雨が降り続けるということもあるまい。二、三日くらい様子見してもいいくらいだ。


 焦らない焦らない。気長にやろうぜ。



  ・  ・  ・



「雨だな」

「雨ですなぁ」


 エキュリーの町のボス、リットウは顔をしかめていた。


「それで、船に変化はねえのか?」

「そのようです」


 斥候の報告でも、ニューテイルとかいう女子供の冒険者パーティーは、空飛ぶ船に乗ったまま動く様子がない。


「くそぅ、町の宿に泊まってくれていれば、とっくに終わってたのによぉ」

「普通にテントで野営していたなら、この雨で町に避難していたかもしれないですが」


 幹部の言葉に、リットウはさらに渋い顔になった。


「ここいらでは、あんまり雨は降らねえ。降る時は、ドバッと短くだ。……ツイてねえなぁ」


 飲料水の確保という点では恵みの雨ではある。普段の仕事を考えれば、獲物が町の施設を利用しやくなるという点でもよし、なのだが……。


「久々のでっかい獲物と期待したら、お預けって神様はいねえのかよ」

「どの神様がおれらに加護をくれるって言うんですかい? おれたちは悪党ですぜ」

「天の神さまは、公平さ。金持ちも貧乏人にも、正義の味方にも悪党にもな。個人の都合なんてお構いなしに、公平大雨を降らしてやがるのさ。金持ちが困ろうが、貧乏人が困ろうが関係なくな」


 リットウは、窓から外を眺める。雨で地面に薄く水が張っている。外に出たら、泥だらけ、靴も濡れて手入れが面倒なことになるだろう。


「ずいぶんと都合のいい神様なんですな」

「あ?」

「ボスは、神様は公平と言った。でも神様はいないのかもとも言った。……都合良すぎでは?」


 幹部の指摘に、リットウは不敵な笑みを浮かべた。


「わかってねえなあ。神さまなんてものはよぉ、オレ様たち人間のご都合主義な存在なんだよ。都合のいい時だけお祈りし、都合の悪い時は悪態をつく。本当に神さまがいたら、人間なんて不敬罪ってとっくに絶滅してるよぉ」

「……つまり、信じていないわけだ、神様の存在を」

「言ったろ。都合のいい時は信じ、悪い時は信じねえって。……そういうお前は、信じてるのか?」

「一応、お祈りはしてます」


 首から下げた神のシンボルを模ったお守りを見せる幹部。リットウは鼻をならした。


「まあ、信じる信じないはお前の自由だ。オレ様は何も言わねえよ」


 しかし――


「よく降るぜ、この雨はよぉ」



  ・  ・  ・



 結局、その日は夜まで雨が降り続いた。


 スキーズブラズニルに乗って待機していたオレらだけど、ようやくやんだので、行動を開始することにした。 ……うん、昼寝しちゃったから目がさめちゃってね。


 おかげで、エキュリーの町攻略作戦を練る時間もできたし、ケリをつけてしまおう。


 まずは、オレらの船を監視している連中から始末する。

 サルが確認したところでは、こっちを見張っているのは2人。スキーズブラズニルの甲板からそれとなく、下を見下ろしながら、傍らのイッヌを撫でる。


「いいか、イッヌ。オレたちは何も知らないフリをしているから、こっそり船から降りたら、見張っている覗き野郎を仕留めろ」


 イッヌが任せろとばかりに返事した。よしよし、相手は盗賊だってのはわかっている。始末してしまって構わないからな。


 スキーズブラズニルが着陸する。敵が潜んでいるのとは反対側から、イッヌが密かに飛び降りると、一度距離をとって稜線の陰に入る。そのまま迂回しつつ、覗き野郎たちのもとへと走る。


 オレは念のため、弓を用意し、騒ぎが起きたら撃てるように備えておく。……ま、仕損じて、町まで逃げられても、その時はプランBで行くからいいんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ