第85話、桃太郎、盗賊退治を考える
さて、問題だ。自称エキュリーの町とかいう盗賊キャンプにいるクズどもを、どう処理するのか?
火鼠討伐の時みたく、デカい魔法とまとめてやっつけちゃったらどうか? あの時は水をぶっかけたけど、焼け野原だった時のように建物ごと全部焼き払うとか。
そうオレは提案したら、カグヤが睨んできた。
「冒険者狩りの盗賊を毛嫌いするのはわかるけれど、太郎ちゃんに大量殺人させられないわ」
子供にそういうことをさせるのはよくない――まあ、そうなんだけどよ、その理屈でいくと大人だったらいいのか? 大量殺人には変わらないぜ? と正論ぶっこいても、クソの役にも立たないで水に流しておく。
前々世でも鬼はもちろん、人も斬ったオレだ。もちろん相手は兵士だったり盗賊海賊だったりで、一般人を斬ってはいないけどな。
……そうだよな。子供にそういうことをやらせちゃいけない。前世で勉強したけど、やったほうも、PTSD――心的外傷後ストレス障害とか発症して苦しむもんだ。
人以外、モンスターであっても最初はストレスが凄いし、まして人が相手だと、そのショック度合いで潰れちまうこともある。
「その案は廃案だ。しかし、個別に戦うとなると、それはそれで処理が面倒ではある」
町に潜む敵から、隠れてクロスボウなりバンバン撃たれたら、こっちがやられちまうぜ。市街戦ってのは、単純な力比べじゃどうにもならんからな。
理想、というか都合よい展開は、こちらがノーダメ、敵全滅って手が最善だ。そして作戦を考えるというのは、その理想にいかに近づける案ができるかどうかなんだ。
「やっぱり、カグヤさんの妖光魔法で、無力化させるのが一番ではないでしょうか?」
お鶴さんが提案した。竹取物語のクライマックス。月面人が、帝の軍隊を妖しい光で戦闘不能に追いやったアレ。殺さず無力化ならば、あれが一番ではある。
「それでとっ捕まえた後、どうするかは考えないといけないとして、どうやって全員無力化するか、だよな……」
町を名乗っているが、ぶっちゃけ集落みたいなもんだ。だがさすがに、全員が一カ所にいるわけではない。建物の中とかにいる者もいるだろうし、妖光一発で全滅ってわけにもいかないだろう。……それができたら楽なんだけど。
『一度に全滅させるまでもないのでは?』
サルが淡々と言った。
『言ってくだされば、ワタシとイッヌが残党を狩り出して始末しますが』
メカニカルゴーレムが、人類抹殺マシーンのようなことを言った。巨大フェンリルとメカニカルゴーレムが、バラックじみた簡素な建物を踏み潰し、砕きながら盗賊を倒していく。……映画みたい。
さてさて、どうしたものか。
・ ・ ・
「なぁに、空飛ぶ船だぁ?」
エキュリーの町の支配者――元Aランク冒険者のリットウは、偵察員の報告に眉をひそめた。
頭髪のない頭、獣じみた獰猛な顔つきの男だ。かつては冒険者として名を馳せたが、今では、盗賊たちのリーダーをやっている。
「そのニューテイルって女どもが、その船で空に?」
「ええ、間違いなく空を飛んでます。ありゃ、手が出ませんぜ」
「伝説級のお宝持ちか」
欲しいな、とリットウは呟いた。ギルドスタッフ――無論、盗賊の一員は頷いた。
「女3人にガキ1人、あとは機械ゴーレムとフェンリル――あれは大型のウルフ種でしょうが、町にきたのはそれで全員です」
「特Aランク」
「はい、モモっていう胸の大きい女リーダーが、特Aランクでした」
「オレ様は貧乳派だ」
「……はあ?」
「はあ、じゃねえよ!」
リットウの拳が飛んで、ギルドスタッフが吹っ飛んだ。
「デカ乳ありがたがるのは、お袋が恋しい赤ん坊だ。ママのおっぱい吸ってろ!」
盗賊幹部たちは無言である。
「船で飛んでいるのは面倒だが、それで逃げたわけじゃねえんだな?」
「へ、へい! 浮いている状態です」
偵察員が頷けば、リットウは考え込む。
「つまり、ここを怪しんで逃げたとか、そういうわけじゃねえんだな。単なるモンスター対策で空にいるだけかもしれんってだけか」
「町の宿を使ってくれれば、そこで取り押さえられたんですが」
幹部の一人が言った。この町の宿は、もちろん盗賊である。部屋を提供したが最後、宿泊客の寝こみを襲撃し、身包み剥ぐのである。
リットウは鼻をならす。
「フン、だから普段から宿屋は綺麗にしておけって言ってるんだ。都会のレディーは、不潔な場所を嫌がるもんよ」
「……」
「まあ、逃げ出していないってことは、明日になれば、ダンジョンに向かうために、町に現れるだろう」
「問題は、どのタイミングで襲撃するか、ですな」
別の幹部が首を傾げた。
「相手が上級冒険者なら、正面から挑むことほど馬鹿なことはありません。油断したタイミングで仕掛けないと、最悪返り討ちですぜ」
「まあ、誰か人質に取れれば、あとは簡単なんだがな」
リットウが言えば、幹部は口を歪めた。
「やはりガキですか?」
「ああいう連中ってのは人質に弱いんだ。一度、言うことをきかせれば、後は全部こっちの言いなりよぅ」
ガハハ、とリットウは笑った。幹部たちも声を上げて笑う。
「久々の大きな獲物ですなー」
「胸もいっぱい、巨乳いっぱいだ」
「ママのおっぱいが恋しいかー、わっははっ」
ダンジョンの名に引き寄せられ、一旗揚げようとやってきた乳臭いガキ冒険者。そんな素人もいれば、仲間がいればどんな困難も乗り越えられるとのたまう中堅パーティーもいる。その手の奴は、仲間の女が人質になれば、言いなりになって雑魚装備でダンジョンに挑み、勝手に全滅する。
上級冒険者でも、食事中や宿で休んでいるところを奇襲して仕留める。エキュリーの町は、冒険者たちを罠にはめて破滅をもたらす場所。
リットウたち盗賊は、稀に見る大物の予感に胸を膨らませつつ、明日を待った。自分たちの正体がすでに見抜かれていて、一網打尽にする策を練られているとも知らずに。




