第84話、桃太郎、ダンジョン町の正体を知る
中の情報はルウフからはわからなかったので、結局冒険者ギルドで話を聞いた。こっちが特Aランクだってだけで、ギルドスタッフの腰が低くなるんだから、これはこれで現金だよな。
事前の魔法の鏡の情報通り、ダンジョンに入ったら41階層まで転移して、そこから地道に44階層へ向かうのがいいようだ。
目的の場所である『絶壁の巣』については、次の階層へ行くための主要ルートを外れているのだそうだ。だからあまり情報がなかったが、そこに向かうまでの情報は仕入れたのでよしとする。
「――暗くなってきたね」
太郎が空を見上げた。雲が多いが、それ以前にもうじき夜か。無理に今日中にダンジョン行かなきゃいけない理由はないもんな。
「ダンジョンは明日にすっか?」
オレが確認すると、お鶴さんもカグヤも頷いた。
「どこで寝ます? 宿をとります?」
「うーん、どうなのかなぁ」
周りを見れば、何やらこちらをチラチラ見ている冒険者が、それなりにいる。大半はオレの胸とか、カグヤ見ているから、まあいつもの通りなんだけど、たまに太郎とチラ見している奴が不安を煽る。
ガキを誘拐して、悪徳奴隷商人に売ったりする輩も、何気にいる世界だ。冒険者が大半というダンジョン町だけど、中には半分悪党とか、兼業している奴もいるだろうしな。……嫌な兼業だ。
「船に戻って、そこで休もうぜ」
空の上なら、冒険者だって手は出せないだろうしな。冒険者ばかりの宿で、子供連れってあんま印象よくないだろうし。
反対はなかったので、一旦、ダンジョン町を出る。見えなくなる位置まで移動して、スキーズブラズニルに乗る……。
「……イッヌ、サル、気づいてっか?」
『何者かが我々の後ろにいます』
サルが言うのと、イッヌが返事するのはほぼ同時だった。カグヤが後ろを一瞥する。
「つけられているの?」
「みたいだ。こっちが上級冒険者パーティーだってのは、ギルドにいた冒険者ならわかってると思うんだが……」
応対したギルドスタッフと、オレたちの話は周りの連中にも聞こえていたはずだからな。
「何故ついてきているのか、それが問題ね」
カグヤは気に入らないと顔を膨らませた。
「こっちが何者か知らないまま、ただ女パーティーだから闇討ちしようって奴かしら?」
「フェンリルやゴーレムがいるパーティーだぞ。賢明な奴ならそんな博打はしないだろ」
「賢明でなかったら?」
お鶴さんが眉をひそめた。要するに馬鹿だったら、ってことか。
「かもな。ダンジョン町にいる連中全てが、オレたちのことを知っているわけじゃねえし」
オレはサルを見た。
「あんま距離変わってねえと思うけど、どうだ? 近づいているか?」
『付かず離れずを維持しています。この様子は斥候では?」
「オレたちの正体を探ろうとしている奴、いや奴らがいるかもってことか」
嫌だね、何だか胡散臭くていけない。
「まさかあのダンジョン町の連中全員が盗賊だったりして、な! あはは――」
「さすがにそれはないわー」
「町全員が盗賊は――あるかも」
お鶴さんが真顔になった。
「村一つが盗賊だって話もありますし。あそこの町並み、いかにもキャンプの集まりっぽいじゃないですか」
「それは……あるかも」
太郎がポツリと言った。
「太郎?」
「上手く言えないけど、何か嫌な予感というか、違和感があった。上手く説明できないけど」
「そういや、冒険者の中に、お前をチラチラ見ていた奴がいたぞ。オレやカグヤはまあ、わかるけど――」
「それやめてよねー」
カグヤが露骨に顔をしかめた。自分が性的に見られているのに嫌悪感を出してくる。わからんでもない。
しかし、違和感ねぇ……。言われてみれば、何か冒険者ばかりの町って割に、絡まれなかったような。
声をかけてきたのはルウフって案内人だけで、後はギルドスタッフとしか話していない。その間、他に見かけた冒険者は値踏みするな目や警戒感こそあったが、好奇心に負けて話しかけてくる、なんて奴はいなかった。
冒険者と言えば、行儀の悪い奴も少なくなく、女子供と見たら一言冷やかしたり、セクハラかましたりすることも割とある。
ガーラシアの町みたいにオレたちが有名なところではさすがにないが、初見の町や村じゃ、何かしら絡まれるもんだ。情報通くさいルウフも、オレたちのことは知らないって言っていたしなぁ……。
「お行儀が良すぎるんだよな」
こりゃマジで何かあるぞ、あのダンジョン町。オレたちは夜も近いとあって、スキーズブラズニルに乗り、空から様子を窺うことにした。
そして全員に確認の上、反対がなかったので魔法の鏡さんに種明かしをしてもらった。
『幻想塔ダンジョンの周りにあるのは、冒険者兼盗賊団のキャンプです』
……。
『冒険者としてダンジョンで狩りをやっていますが、事情を知らずにやってきた冒険者狩りをし、装備や金品を奪う盗賊です』
男は殺し、女は玩具にしてから殺すか奴隷として売るという。ただの冒険者ならよかったのだが、幻想塔ダンジョンに挑もうとやってきた冒険者たちを獲物にしている悪党の集まりだった。
元は純粋に冒険者だったのだろうが、上級冒険者になれなかったとか、ダンジョン深層に心を折られて、盗賊に身をやつしてしまったんだろうな……。
違和感の一つに気づいた。そういや、あの町で女冒険者、一人も見かけなかったわ。
「そうとわかれば、この冒険者気取りの盗賊どもを何とかしないといけねえな……」
「あいつらを無視して、ダンジョンに行くというのは?」
カグヤが提案してきた。あのスラムみたいな町にどれだけ盗賊がいるかわからない。それと事を構えるより、避けていったほうがいいんじゃないか説。
「放置しておくと、何も知らない冒険者がこいつらの犠牲になっちまう」
すでにダンジョン攻略に夢を抱いてやってきた連中が、殺されたり奴隷にされたりしている。さすがに許しちゃおけねえよな。
「それに、深いところは潜らないにしても奴らは冒険者だった。オレらが目的にしている44階層のこともバッチリ情報を持っていたから、こっちも安心して探索はできねえ。見張っている可能性も高いし、罠だったり、出てきたところを待ち伏せしているなんてこともあるだろ」
安全確保を優先するなら、盗賊どもを一掃しないと始まらない。……人間を――いや、あいつらは鬼と同じだ。何も知らない人間を殺して、その財産を奪っている鬼どもだ。……鬼は殺す!
「桃ちゃん……?」
カグヤと目があった。何でそんな怪訝な顔してるんだ? オレの顔に何かついているか?




