第81話、桃太郎、火鼠素材を手に入れる
草原を燃やし、辺り一面焼け野原の地獄絵図が広がっているクリールージュ平原。
原因である火鼠退治のため、スキーズブラズニルに乗ったまま空から、魔法攻撃を仕掛けたオレたち、ニューテイル。
……だったんだけど、ひぇぇ。
加減をしらない太郎が、洪水もかくやの大量の水をぶちまけたので、火事もろとも辺り一面を流した。
下からしゅうしゅう聞こえるよ……。白い煙がうっすらと上がり、焦げた平原と火鼠たちの死体が横たわっている。一度水に乗り、そのまま水が広がって大地に染み渡ったから、ぷかー、って浮くことはなかったけど。
「えげつねぇな、太郎」
「あー、うん。やり過ぎた、かな……?」
太郎はこの惨状に、自分でも反応に困っているようだった。そう思い描いてやったんだろうけど、想定より効果が大きかったかな。
「いいんじゃね」
人がいないってのをわかってやったわけだし。あれだけ火の海だったんだから、生半可な水じゃ意味がないってかっ飛ばしたんだから、充分だろ。
「よくやったぞ、太郎」
おかげで、オレらで後始末しなくて済んだわけだし。火をある程度消火しないと、降りることもままならなかったんだからな。
「桃ちゃんさん、桃ちゃんさん!」
お鶴さんが急かした。
「早く火鼠を回収しないと、素材が駄目になってしまいます!」
「そうか! サルっ! 降下だ!」
『了解です』
スキーズブラズニルを地上に。もう下の火鼠たちは、水ぶっかけられて死体なんだった。急いで回収しないと!
というわけで、いざ火鼠の死骸を目の当たりにするのだが。
「上から見たら、小さかったけど、どこが鼠だよ……でけぇな」
成人ライオンとかくらいあるんだけど、この大鼠!
色は白いが、これは炎から出ている時の色という話で、火の中だと赤っぽい。で、水にやられる時ってのは、火から出ている時って話だ。……一撃で火ごと消火されちまう規模の洪水くらえば、そのままお陀仏だよな。
しかし、大量過ぎて困る。カグヤやお鶴さんの収納魔法とか道具で余裕とはいっても、こんなにいらないだろう。
試しに触ろうと思ったが、熱気を感じて、手を引っ込めた。死んだ割にまだ熱そうだこれ。素手で触ったら火傷するんじゃね?
イッヌがオレにすり寄った。
「お、何だ。食べたいのか? 熱そうだけど……まあ、お前なら大丈夫か。いいぞイッヌ。いくつか食っても」
小さく吠えたイッヌが、遠いものから片付けに行った。回収しているから邪魔にならないように、近くのを避けているんだろう。気のきく奴だ。
火傷しないよう、カグヤが収納魔法を使い、メカニカル・ゴーレムのサルが掴んだものを、お鶴さんの収納鞄に入れていく。太郎も、火鼠の死骸を浮遊魔法で浮かせてお手伝い。
「やっべ、オレだけ何もしてなくね?」
「そう言うんなら、周りの警戒よろしく、桃ちゃん」
カグヤが作業しながら言った。
「もしかしたら、地面に潜って生きている火鼠がいるかも」
「ああ、任せな」
……と言っても、だいぶ派手に太郎の魔法で水浸しだからな。地面に潜っていたとしても、染みこんだ水でおしまいじゃないかって思う。
それにしても、やっぱデカいな。何だってこれを鼠と呼んだのか。顔か? 鼠顔だからか?
図体がデカいのに沢山倒してしまったからな。素材の量も余裕を通り越して、有り余るだろう。害獣駆除対象でなければ、やり過ぎって問題になっていただろうな。
「これで、カグヤの望みのやつが作れるだけの素材は揃ったな」
「充分過ぎるわ。どう、お鶴ちゃん?」
「ええ、本当。これだけあれば、いい部分だけ使っても、何着も衣が作れるんじゃないでしょうか。……まあ、わたしが作るわけじゃないですが」
そりゃそうだけどさ。
さて、素材は回収できた。後は、衣を作るだけだが……ここからが問題なんだよな。
・ ・ ・
ガーラシアの町、冒険者ギルドの休憩所。オレとカグヤが飲んでいると、待ち人がやってきた。
「やあ、モモ、カグヤさん」
ゴールド・ボーイ――ガーラシアの町を拠点にするAランク冒険者のオウロが、相棒のクマ――ク・マを連れて現れた。
「よう、ゴールド・ボーイ。……なんで、こっちは『さん』付けで、オレは呼び捨てなんだ?」
「他意はない。モモはモモで、カグヤさんはカグヤさんだ」
「そこは他意があってもよかった気もするが、お前に『さん』付けされても何か裏がありそうで嫌だから、このままでいいや」
「裏なんてない」
「だろうな。お前は真面目ヤローだからな」
「……それで、おれたちに用があるんだって?」
おう、ギルドスタッフに、来たらオレが待ってるって伝言頼んでおいたからな。だからクエストやって帰ってきたゴールド・ボーイたちが、こうしてここに来たって寸法だ。
「お前も、つまむか?」
エールと豆と、木のねっこみたいなガジガジって、ゴボウみたいなやつしかねえけど。
「ちょっとした依頼ってのを、お前に頼みたいんだ」
「個人依頼か」
「一応、お前さんたちを指名したもので、ギルドにも通してある。依頼主から詳しく話を聞きたいだろ?」
「聞けるものならな。情報は多いほうがいい」
ゴールド・ボーイが豆をつまんで、口に放り込んだ。
「でも、特Aランク冒険者のモモが振ってくる依頼って何だ? 自分たちでやろうと思えばやれるだろう?」
「嫌なことがあると予めわかっていたら、できるだけ回避するもんだろう?」
「面倒な依頼ってことか……」
「女にとってはな。だから男のお前さんに頼みたいって話だ。なに、難しい話じゃない。とある素材を渡すから、ドワーフの集落へ行って衣を作ってもらえっていう簡単なお仕事だ」
「ドワーフ。……ああ」
黙って聞いていたク・マがデカい体を揺らした。
「そりゃ、あんたらには大変な場所だな」
「察してくれてあんがとよ。……オレたち、特にカグヤさんが美人過ぎて、ドワーフどものセクハラの餌食になるからな。それでなけりゃ、オレらで行くんだけど」
「そうか、そういうわけなら、断るわけにもいかないな」
生真面目なゴールド・ボーイは頷いた。
「引き受けよう。それで、何を製作してもらえばいいんだ?」
お前さんならそう言ってくれると思ったよ。というわけで、火鼠の皮で裘を作ってもらってくれ、と依頼内容を説明した。




