第79話、桃太郎と王子の件の始末
スキーズブラズニルに乗って、レッジェンダ王国の王都近くまで飛ぶ。
レグルシは、ずっと肩を落としていた。カエルの姿だけど服だったりマントだったりをお鶴さんがプレゼントしたわけだけど、それが余計にがっかり感が伝わってくるというか。
相変わらず元の姿に戻れず、アレな方法でしか解決できないとあれば、前向きになれって声をかけるのも勇気がいるもので、オレでさえ王子様には同情しちまった。
まあ、根本的な原因を探っていくと、ナリンダに目移りして心が移ったせいだけどな。あのままミリッシュと婚約続けていれば、こうはならなかったんじゃね?
オレたちニューテイルとカエルの王子様は、王城に戻り、捕らえた魔女アルチーナを引き渡した。
プロメッサ王からの依頼を達成だ。
「さすがは特Aランクの冒険者! あれだけの強敵をあっさり捕まえるとは!」
国王陛下はお喜びだった。オルガノ騎士団長もまた頷いた。
「男ではあの魅了の魔女には歯がたたなかった。モモ殿にお願いして正解だった」
まあ、任せてくださいよ。冒険者なんで。
アルチーナは、賞金をかけられるレベルの手配犯だったという。その魔女を捕まえたことで、またニューテイルの戦歴に功績が加えられた。
「それで、モモよ。褒美は何がいい?」
プロセッサ王はご機嫌でそう言った。
「晴れやかな武勲を立てた諸君らニューテイルには、ぜひ礼を尽くさせてほしい!」
……あー、考えてなかったなー。いやマジで、何か欲しいものなんてあるか?
土地はいらねえし、貴族になりたいわけじゃない。腕っ節一つで、気ままに冒険者やっている今、そういうのはむしろ冒険の邪魔になる。
もちろん、将来のことを考えるなら、蓄えとか土地や家はあったほうがいいんだろうけど……。
いや家くらいは建ててもバチは当たらないよ。むしろ欲しいかもしれない。
でも今は、あっても多分家にいないだろうし、遠出するなら誰かに管理を依頼しなきゃいけないだろうし、それはそれで無駄っていうか……。
本音を言ってしまえば、異世界果物になる『桃』を探すのを手伝ってくれたら……ってなるんだけど、魔法の鏡のせいで通常では手に入らないってもうわかってるからな。知らなければ、見かけたら教えてって言えたんだけど、それが無駄だってことを知ってるんだよな。
これも魔法の鏡の弊害。知ってしまったことで無駄はなくなったけど、言えなくなっちゃったってやつ。
そんなアレコレ考えているオレを見て、王は察したようで――
「宝物庫を解放しよう。何かあれば授ける。宝物庫にないものでも、欲しいものができたら、言ってくれればよい」
孫にプレゼントをあげるような調子で、プロセッサ王は言うのだ。……王子と婚約すれば、まあオレもこの人の一族の仲間入りだったんだろうな。レグルシの両親からは、ミリッシュの実の両親よりよくしてもらえたんじゃないかって思うね。
・ ・ ・
聞いた話になるけど、プロセッサ王は、息子のレグルシに対しては結構きつく当たったそうな。
「魔女も悪いが、お前も悪いぞ、レグルシ。自らの容姿に驕り高ぶったバチが当たったのだ。それでフロッグの姿とは何とも皮肉がきいているが、お前にチャンスをやろう」
あの魔女を抱け――王は、レグルシに告げた。
力を失い、しわしわ老婆のアルチーナと同衾せよと。
「お互いに容姿を鼻にかけ、好き放題異性を貪ったのだろう」
魔女は魔女で、若い姿で、男を誘い、そして自らの欲望を満たし、飽きたら弄んだ。ただ交わるだけなら本人の癖で済んでいたが、その後の行為が最悪のクズだったわけだ。自分で作った変化薬で、見ず知らずの男をカエルにしてしまったのだ。
元に戻る方法が同衾という設定を作った魔女が責任を持って、カエルと同衾すれば、世の女性に迷惑もかかるまい。自業自得だ。
レグルシはレグルシで、自分勝手な理由で一人の貴族令嬢を不幸にし、他の女にうつつを抜かした。何より方法が悪かった。悪いのは明らかに自分なのに、貴族令嬢に落ち度があった風を装い、貶めた。……まあ、前世を思い出す前のオレ、ミリッシュ嬢がその貶められた令嬢なんですけどね!
正しくない方法で方々に迷惑をかけた王子様だ。男を貪りまくったババァと同衾など、お断り案件なんだろうが、そうも言っていられない事態というのは、やっぱり神様は見ているのだろう。これも一つの罰だ。
どっちにとっても虐待にも見えるが、刑罰の執行と思うしかないだろうな。オレはもう部外者だから、何も言わないけど。
しかし、前世で読んだカエルの王様だと、約束を守らなかったお姫様に父王が、約束を果たせと娘とカエルを同衾させたという。現世の見方をすれば、それはそれで虐待じゃないのか、って意見も出そうではあるが、そもそもそんな約束をした姫にも落ち度があるわけで。
なお話のバリエーションで、同衾を嫌がったお姫様が、カエルを壁にバーンと放り投げたら、元の姿に戻ったというのもある。……それで解決するなら、オレもレグルシを壁にバーンしてやったんだけどな。
ちなみにそのバージョンでも、元の姿に戻った王様(または王子)は美形だから、結局姫はその美形野郎と結ばれてハッピーエンドなんだそうだ。……結局、顔と財力かよ。
閑話休題。
王様が、強制力をもって、王子と魔女を同衾させようって展開は、童話のそれと似ているな。
ただ、王様側が、お姫様ではなく王子で、相手がカエルではなく魔女という部分で、逆なんだけど。
刑罰、自業自得。お互い悪いのだから、反省と責任をとって励むといい。オレは知らん。
・ ・ ・
王城での事件も、ニューテイルが関わる部分は終了したので、冒険に戻ろう。バイバイ、レグルシ。幸運を祈っておくよ。
当面は、カグヤの探しものを見つけるってのが旅の目的となる。
「仏の御石の鉢、龍の首の珠は入手した」
飛行するスキーズブラズニルの甲板。流れゆく雲を眺め、オレはカグヤに言った。
「あとは三つだっけ」
「そう、全部よ」
カグヤは隣に来た。
「蓬萊の玉の枝、火鼠の裘、燕の産んだ子安貝……」
「どれから行くんだ?」
「正直、どれからでもいいのよね」
カグヤは黄昏れる。
「残りは全部呪い付きだもの」
つまり、全部回収して呪い祓いをしなくちゃいけないってわけだ。
「一番近いヤツから行くか?」
「どれが一番近いかしら?」
「そうさな、わかんねえから。……魔法の鏡に聞くか」
「あんまり使うなって言ってなかったっけ、桃ちゃん?」
多用するな、使い方に気をつけろって、説教かましたもんな、オレ。
「最短の道順を聞くくらいはいいんじゃね?」
カグヤは知らないけど、カーナビを使うようなもんだ。地図を開くようなもので、この問いは、人生を左右するようなものじゃない。
……はずなんだけど、何がどう絡んでいるかわからないのもまた人生ではある。




