第72話、桃太郎、王から指名依頼を受ける
「魔女アルチーナを捕まえてほしい」
プロメッサ王からニューテイルの依頼は、まあ予想通り、というかいい予感はしてしなかった。
そもそも特Aランク冒険者のいるパーティーに、王直々の依頼とくれば、ろくなものじゃないというのは想像がつく。
「一応、治療術士たちに、レグルシの呪いを解かせてみたが、やはり駄目であった」
でしょうね。それで、ナリンダに魔法薬を渡したアルチーナに白羽の矢を立てたわけね。そこまではわかった。で、ここでオレらの出番となるのがわからない。
「魔女アルチーナは、周辺国でも要危険人物リストに入っている魔女である。何度も逮捕、あるいは討伐を試みたが失敗しているという」
プロメッサ王がちら、とオルガノ団長に視線を向けた。騎士団長は口を開いた。
「魔女アルチーナは、絶世の美女。捕縛に向かった騎士らも、最愛の人を忘れて虜になってしまうほどの魔性の女。故にこれまでは、魔女にいいようにやられてしまった」
野郎どもが揃いも揃って骨抜きにされて、役に立たないってことか。なーるほど、話が見えてきた。
「そこで、優秀な冒険者であり、女性であるモモ嬢とニューテイルの力を借りたい」
プロメッサ王は言った。
「魔女の誘惑も、同性には効かないと言われている」
「理解しました」
今回はオレは女性として生まれたけど、前世が男だった場合って、それに影響されるんだろうか? 女同士なら効かないというなら、今世が女で生まれたオレでもセーフでいいか。
正直、レグルシのことはオレにはもう関係ないが、冒険者ニューテイルに対する依頼というのなら、特に言うことはない。……どうよ、カグヤ、お鶴さん?
アイコンタクトで確認すれば、二人も反対はしなかった。
王国からの指名依頼という形で、その依頼、受けましょう。というか、国の指名依頼じゃ、よっぽどの理由がないと断れないけどな。
「魔女アルチーナの情報はありますか?」
今どこにいるか、とか、依頼者側で情報があればもらいたい。まあ、なくても何とかなるとは思うけど。
一通り情報を確認し、いざ出発――の前に。
「陛下。先に宝物庫を見させていただいてもよろしいでしょうか? うちの器収集家がそれを楽しみにしていまして。……依頼の前に」
「依頼の前に、か」
プロメッサ王は少し考え、頷いた。
「よかろう。後でまとめて、と思っておったが、そうまで楽しみにしていたのなら、こちらの依頼のせいで先延ばしにしては悪いからな」
「寛大なお言葉、痛み入ります」
ということで、カグヤー。とっとと仏の御石の鉢をとってこい!
・ ・ ・
カグヤだけでもよかったのだが、案内のオルガノ団長や警備の騎士と一緒にオレまで同行することになった。
「ここだ」
分厚い金属の扉。鍵を開ける仕掛けの解除だけでも、大人が数人必要とか、面倒この上ない。
しかし、それだけ手間が掛かるのが、セキュリティーの一環なんだろうな。一人で開けられないっていうのは、泥棒対策の一つってことだ。
鍵を開けた後も、やはり大の大人たちが力を合わせて扉を開けていた。オレの大力やメカニカル・ゴーレムのサルでも、単独だと難しいかな、これは。
というところで、いざ中へ。
お宝たくさんー……というより、普通に倉庫みたいだった。きちんと整理されているから、余計にそんな感じなんだろうな。
金貨やら宝石の類は箱にしまわれているから、中身を知らなければ、宝物庫ではなく倉庫と言われたら信じてしまいそう。
それはないか。箱自体も結構、豪華そうだから、中身も期待できるだろう。
お鶴さんや太郎は、物珍しさにキョロキョロしているが、カグヤは、目当ての器を探して棚をウロウロ。オレはそれに続いて声を掛ける。
「見てわかるか?」
「たぶんね」
カグヤは即答だったので、まあ見ればわかるのだろう。果たしてどんなものだろう仏の御石の鉢ってのは。
「あったわ」
「……マジ?」
石の器だ。妙に光沢があって、不思議な色合いはしているが……。何か異質そうではあるが、これを仏の御石の鉢と言い切る自身はオレにはないから、まあそうなんだろうな。
「団長! これ、これでお願いします!」
オルガノに、欲しいものを見つけたことを告げ、確認を取る。プロメッサ王が物を確認するために宝物庫に来るというので、それまで待たされることになる。……そりゃあ、王様を外で待たせるわけにもいかないもんな。
わざわざ宝物庫まで足を運んだプロメッサ王は、カグヤの選んだ器をしばし眺め、ニコリとした。
「いい器だね。さすが収集家だけはある」
「よろしいですか、陛下?」
「もちろんだ。記録によれば……そう昔に、勇敢な冒険者が献上した品とあるな。器もその価値を知っている者に使ってもらうのが本望であろう。大事にしてくれたまえ」
「感謝します、陛下」
カグヤが優雅に一礼すると、プロメッサ王は不思議そうな顔をした。
「君は魔術師のようだが、気品がにじみ出ているようだ。もしかして貴族いや、王族の血筋か」
月の世界のお姫様です、とは言えないだろうなー、と思いつつ、オレはカグヤがプロメッサ王に、とある国の王家の親類ですと答えるのを見守った。
何はともあれ、カグヤの用件であるお宝探しで、レッジェンダ王国での用が済んだ。彼女の呪いが解けるのを祈りつつ、王国からの依頼にシフトしていこう。
「モモ嬢、他にはいいのかね?」
プロメッサ王が聞いてきた。そういえば宝物庫の件は、カグヤの希望だったから、オレへの報酬は何がいいか王様に聞かれていたんだった。……忘れていたな。
「あー、そうですね。……そちらは、魔女アルチーナの件が済んでからということで」
「報酬に上乗せしよう」
プロメッサ王は頷いた。
今度こそ出発だ! オレたちは王城を出ようとして――
「……なんで、お前がいるわけ?」
カエルの王子――レグルシが待っていた。
「頼むモモ! 私も連れて行ってくれ!」
「却下だ、馬鹿!」
オレは即答してやった。




