第70話、桃太郎、王様にカエル王子を引き合わせる
カエル王子は、プロメッサ王と会った。
「これが……レグルシだと……!?」
「お気持ちはわかります、陛下」
オレも同情しておく。場には、プロメッサ王とカエル、オレの他、オルガノ騎士団長も同席している。
「父上。このような姿ですが、私は紛れもなくあなたの息子のレグルシです!」
カエルが訴える姿はシュールだな。不謹慎だけど思った。
「私にフロッグの息子はいない」
プロメッサ王はきっぱり言う。……確かに。
王はオレに顔を向けた。
「魔法薬のせいで、このような姿になったと?」
「本人の証言からも、おそらくは」
うーむ、と唸るプロメッサ王。少し考え、カエルに向き直った。
「お主が、我が息子というのなら、何故、城から去ったのだ? 私に会いにくるなどしなかったのは?」
……いや、それって難しくない? カエルが王のところに行こうとすれば、普通に城に侵入したモンスターとして排除されないか?
「このような姿になって錯乱したのもありますが……。警備の者に問答無用で襲われ、身の危険を感じ、逃げたのです、父上」
あー、やっぱり。そんな気がしていた。プロメッサ王は言葉を失い、オルガノもそれはそう、という感じで頷いた。
「で、城を出て、逃げ回った結果、モモ嬢に拾われた、と」
「何たる幸運か」
オルガノは言った。状況を考えれば、よくガーラシア近くまで来られたよ。むしろ、よく生き残ってこられた。
普通にモンスター退治とかで殺されていたかもしれない。一国の王子だと知られることなく、今頃、食用とか素材になっていたかも。……うげ、グロっ。
そうなっていたら、レッジェンダ王国は、王子行方不明のまま、永遠に失踪扱いだっただろう。
「本当にレグルシだろうか……?」
プロメッサ王は悩む。
「実は悪魔や魔物の罠で、本物の王子をさらい、姿を変えられたと言って偽物――このフロッグを送り込んだという線は?」
「それはないかな、と思います」
オレが、このカエルを拾ったのは、王都へ行くと冒険者ギルドに報告した時。直接絡みはなかったし、オレが気まぐれで買わなければ、カエルはギルドのほうで商人に売るなどで処理されていた。
オレたちが、あの日、あの時間に行くとは決まっていなかったわけで、カエルのネタにギルドで待ち伏せも不可能だろう。王子カエルを捕まえた冒険者が、悪魔だか魔物の仲間だったとしても、確実性がない。もっと手間のかからない方法を考えたほうがマシだろう。
その点からしても、あの方法で、王と接触するなんてルートは、成功率の低すぎる博打だ。
それなら、王の寝室にこっそり自称王子カエルを潜入させたほうがまだ可能性がある。
まだ王に疑われていると、レグルシカエルはガッカリしている。諦めるの早くない? それともその姿が、諦めるの境地へと彼を誘っているのかもしれない。
オルガノが口を開く。
「フロッグが王子殿下であることを、証言以外で何か証明する手はないものでしょうか?」
うん、やっぱりそうなるよね。それオレも予想していた。
真実を言う魔法の鏡で証明させれば楽ではあるが、あの鏡はおいそれと偉い人の前で使うと、色々面倒なことになりそうなので、それは却下である。
実はあの鏡、ただ真実を言うだけだけど、やりようによっては、とてつもないことができそうではあるんだよね。国盗りしたり、世界を支配する類いの。真実を繋ぎ合わせていくだけで、世界を裏から牛耳れるとか、そういうの。
だから、使うタイミングは本来慎重でなければならない。今回に限って言えば、魔法の鏡なしでもカエルが王子であると証明はできる。
「魔法薬の効果を解除するのが一番でしょう。カエルから人間に戻せられれば、その時、レグルシ王子だって一目瞭然です」
「それはそうだ。……だが、そうなると戻す方法だな」
プロメッサ王が、オルガノに視線をやる。
「治癒魔法で、元に戻せないだろうか?」
「他の生物に変えられたものを戻すという魔法は効いたことがありませんからな。……一応、治癒術団にも確認を取りますが」
「あー、取りあえず、手っ取り早い方法が一つあります」
オレは、魔法の鏡が教えてくれた方法を披露する。
「異性と同衾すれば、魔法薬の効果は切れるそうです」
「なに、同衾とな!?」
王と騎士団長の視線が、カエルを睨むような目になった。
「これを、異性が……? 一晩?」
これとはまた……いや、その通りなんだけど。
「普通に考えて、相手が嫌がるのでは?」
オルガノ騎士団長、真面目な顔で正論をぶちかます。そうだよな、カエルとセッ――なんて、嫌すぎる。だが言ったからには、ちゃんと相手も考えている。
「そこは、王子殿下と結ばれようとしていたナリンダ伯爵令嬢が適任ではないでしょうか」
「!?」
ギョッとするオルガノ。分かるよ、オレ、結構外道なことを言ってるもん。
「そもそもですね。王子殿下がこの姿になったのは、ナリンダが魔法薬を使ったせいでもあります。故意ではなく、知らずに使ったとしても、やらかしたからにはその責任を取らないといけません。彼女は、王子殿下を元に戻す責任があります」
これは正論だ。あの泥棒猫令嬢が、王子殿下に近づかなければこうはならなかったのだ。自業自得の責任ってのを取るのが筋をいうものだろう。
……傍目から見れば、オレが寝取り女への復讐をしているようにも取られるかもしれない。カエルと交わって責任を取れと言っているわけだからな。だがやらかしの罰とするなら、オレの提案は的外れでもない。
「実にもっともな意見だ」
スン、とプロメッサ王はすました顔で同意した。
「モモ嬢の指摘は正しい。ナリンダがやったことなのだから、彼女が責任を取るのが筋だ。……そうだろう? オルガノ」
「は、はぁ……それはそうですが」
オルガノ団長は歯切れが悪かった。
「至急、状況を確認して参ります。死んでいないとよいのですが」
一礼して、オルガノは退室した。オレより先にカエル王子が王に問うた。
「死んでいない、とは……? まさか処刑――」
「まだ処刑はしておらん」
プロメッサ王は、普段の温厚さが欠片もない冷たい調子で言った。
「王子の捜索が続いている間は、生かしておいたのだ。私としては言いつけを無視して、あれからさらに逢瀬を繰り返していたと聞き、腸が煮えくりかえっているのだがね」
「……」
しゅん、とレグルシカエルが俯いた。……そうだよな、あんたもあの泥棒猫に会わずにいれば、そんな姿になることがなかっただろうからな。天罰過ぎる。
「ちなみにナリンダは、家ごと潰してすでに貴族階級ではない。今は王城の地下牢だが……さて、どうなっているやら」
怖いことを平然と言う王様である。先の言葉通り、この人、相当お怒りだったのな、この件では。




