第68話、桃太郎、王都に到着する
レグルシ王子を、カエルに変えた魔法薬を作った魔術師の正体は、アルチーナという魔女だった。
魔法の鏡曰く。
『超絶美女であり、恋を楽しむ恋愛大好き女性です。しかし飽きると、動物や植物に変えて、飼ったり、弄んだりします』
うわー。性悪ぅ。遊んだ後はポイ捨てする人間以上にクズい奴だ。
「何だってナリンダは、そんな魔女からそんな魔法薬を?」
『恋に効く薬の相談をアルチーナにしたのがきっかけです。アルチーナは旅の道中で、ナリンダと知り合い、相談を持ちかけられたのでサンプルである変化薬を提供しました』
性悪ぅー。恋愛相談したら、その恋をぶち壊す魔法薬を渡すとか。恋愛大好き女じゃなかったのか。
あれかな、自分の恋はいいけど、他の女の恋など破滅してしまえと思っているクソ性格かもしれない。超絶美女だっていうのに、中身がクズなんだなぁ。
「で、鏡さんよ。王子様が、元の姿に戻るにはどうすればいい?」
『異性と同衾すれば、魔法薬の効果は切れます』
さー、とカエルのレグルシが青ざめたのが雰囲気でわかった。
同衾で元の姿とは、ますます童話のカエルの王様だな。しかし……これ滅茶苦茶難易度高いぞ。
だって同衾だぞ。男と女が同じベッドで一夜を共にすることだ。ようするにセッ――だろう。普通に考えれば、添い寝で済むわけないし、キス程度で治らなければ、カエルと人間の……これは酷い薄い本案件。本当はえっちぃグリム童話。
愛さえあれば、種族なんて乗り越えられるね――なるか!
「これはナリンダが責任をとるべきだろうな、うん」
よかったー。婚約破棄されて。オレにはカエル王子と――ンなことする義理も関係もないからな。愛し合うナリンダなら、愛しの王子様を元の姿に戻すことを考えれば、カエルとだってできるだろう。うん、がんばれー。
しっかし、アルチーナって女も相当だな。ナリンダが駄目なら、魔法薬を作ったアルチーナに責任とってもらおう。超絶美女らしいし、よかったな、レグルシ。
「完全に他人事みたいに言うんだな、モモ」
「他人事だろ、王子様?」
もうあんたとは関係ないからなァー。
「方法がわかったんだから、後は自分で何とかするんだな。ま、国王陛下の下に連れて行ってやるし、今のあんたがカエルになっちまったこともオレが口添えしてやる」
それだけでも、オレを人前で手酷くフッて恥をかかせた王子に対して、健気なほどの献身ってやつだろう。あー、オレってば人が良過ぎるわー。
・ ・ ・
レッジェンダ王国王都に到着した。船で直接乗りつけると騒ぎになりそうなんで、手前で降りて徒歩で入った。
冒険者パーティー、ニューテイルだと名乗ったら、迎えの騎士がやってきた。
「モモ殿!」
「ピーター君」
先日、使者としてオレたちを知っている王国騎士のピーターが現れた。
「お迎えご苦労様。まさかあなたが現れるとは思わなかった」
「あなた方ニューテイルを名乗る偽者を間違えて、王城に案内するわけにもいきませんからね」
ピーターは悪意もなく、そう言った。なるほどね、間違い対策に、顔を知っているピーターが迎えに来たと。
「もしかして、偽者が現れたとか?」
「いいえ。ただ、冒険者の中には、上位パーティーを名乗って、仕事を取り付けようとする不届き者がいるのも事実です」
大抵そういうのは、ギルドを通さず直接依頼をもらいにくる、押し売りみたいな奴ばかりだという。そりゃ、ギルドを通したら、上級パーティーのなりすましなんてできないもんな。
「ニューテイルに関していえば、偽者は現れ難いとは思います」
ピーターは、オレたちに視線を走らせた。
「フェンリルにゴーレム――この時点で、普通は真似できない」
「どうかな。ウルフ系の魔獣と、下級ゴーレムをでっち上げれば、あとは女三人、子供一人で、偽者をやられるかも」
「……やっぱり、普通に偽者パーティー作るには難度が高いと思います」
そうかもな、うん。そうかも。カグヤとお鶴さんがニヤニヤしていると、ピーターは、カエルに気づいた。
「このフロッグは、何ですか……?」
「カエルだよ。ただの」
「カエル……。新種のフロッグですか?」
こっちの世界じゃフロッグ呼びらしいもんな。日本語と言って説明するのも面倒なんで流しておく。
「あまり失礼なことはしないように。こんなナリでも王子様だからな」
「はい、了解しました」
どこまでも生真面目なピーター君。
「それでは王城へご案内します」
「よろしく頼みます」
ということで、オレにとっては久しぶりの王都。でも家――ドゥラスノ侯爵家に帰る気分にはならなかった。立ち寄る気もまったくない。
整備された小ぎれいな街並み。そして王城にオレたちは着いた。
・ ・ ・
「よく来られた、冒険者たち」
通された城内の客間で、オレたちを迎えたのは、オルガノ騎士団長だった。
武闘派の期待を裏切らない大柄な体躯。無骨な老将は、一瞬、オレを見て止まったがすぐに話しかけてきた。
「ランク昇級については、明日式典を行う予定である。諸侯らも集まって、諸君らニューテイルの活躍が喧伝される――」
近づいてきたオルガノは、オレの前で立ち止まった。
「申し遅れた。わしはジージ・オルガノ侯爵。王都騎士団長でもある」
「ニューテイルリーダー、モモと申します、侯爵閣下」
オレが一礼すると、オルガノは目尻を下げた。
「久しぶりであるな。壮健そうで何よりだ」
「……ご無沙汰しております、オルガノ閣下。またお会いできて、光栄です」
名前と髪型が違う程度で、オレがミリッシュだったのは誤魔化せないか。まあ、ここに来た時点で、わかるだろうなと思っていた。何ならプロメッサ王だって、オレの声を聞いただけでわかるだろうよ。
「今日は緩りと休まれよ――と言いたいところだが、国王陛下が私的な晩餐にモモ殿を招待したいと仰せだ。……積もる話もあるので、と」
「承知しました、閣下」
まー、姿を消したミリッシュとは、色々お話したかっただろうな、国王様も。
いきなり逮捕されないだけ、王子をぶん殴った件は水に流してくれていると思うが……。あー、やべ。思い出したら緊張してきた。




