第67話、桃太郎、王子がカエルになった経緯を聞く
カエルの王子様……。前世で、そんな昔話だか童話があったよな。いや、王様だっけ。グリム童話だったかな……?
ゲームとか漫画でも、このネタを使った展開を見た気がする。結末はあれでしょ、お姫様のキスで、元の姿に戻るとか何とか。
カエル差別じゃないけど、オレは願い下げだね。カエルと普通にキスは、病原体だか何だかで、マジ危ないからやめておけってやつ。……あー、お姫様じゃなくてよかった。婚約破棄されてよかったぜー、ふぅ。
「で、どうしてカエルになっちまったんだ?」
天罰か? レグルシ・レッジェンダ王子。
「……」
聞いてみたものの、レグルシは酷く躊躇っている。
あれか、自分からフッといて、オレは元婚約者だったわけだし、あれほど調子こいておいて、今じゃカエルの姿だから、元フィアンセの前で立つ瀬がないってか。
それともカエルになった件自体、言うのも恥ずかしい状況だったとか。……泥棒猫ことナリンダ侯爵令嬢とエッチぃことしていたら、魔法でカエルになっちまったとか? それとも薬か何かか? アブノーマルなプレイで、カエルになって戻れなくなったってオチか?
「……何をニヤニヤしているのだ?」
「おっと失礼。お前がさっさと話さないから、こっちで勝手に想像しちまった」
まだ笑うな……。もしかしたら、聞くも涙、語るも涙の悲劇かもしれない。……ププっ。
「……」
「いいから、さっさと話せよ。面白い話だったら笑うから」
「そこは笑わないから、じゃないのか?」
「オレはコメディを期待しているんだ」
皆様の前で公然婚約破棄をやらかした相手が、話を聞いてくれるって言うんだから、こちらの慈悲を褒めてほしいくらいだ。
カエルが苦手な女だったら、婚約者だろうが話すら聞いてくれないんだからな。破棄までされても聞いてくれる奇特な女だぞ、オレは。
「何でそうなったかわからない。だが姿を変えられた前後についてはわかる」
レグルシは話出した。
予想はしていたが、例の泥棒猫令嬢と会っていたという。
オレとの婚約を破棄した後、レグルシが言うには親父である国王様にド叱られたらしい。残当。同情の余地なし。
それでも、隠れてナリンダと会っていたレグルシ。……親父殿にチクってやろうか?
ある日、気持ちよくなるお薬をナリンダが持ってきたという。媚薬か何かと思っていたら、何でも高名な魔術師が作った魔法薬で、特に危険はないものだと聞かされた。
……特に危険はありませんだ? 絶対それだろ、お前がカエルになったのって。
「その薬が、おそらくいけなかったのだろう。高熱になったように体が熱くなって、気がついたら――」
体が縮んでいた、と。某黒い組織か何かかな。前世のコミックのお話。冗談は置いておいて、体が縮んで、カエルになっていたと。ハッハー、ざまぁ!
「で、ナリンダもカエルになったのか?」
「いや、彼女はカエルになった私を見て、悲鳴をあげて逃げ出した」
おいおい、自分で仕向けておいて、それはないんじゃねえの泥棒猫娘め。……しかしガチでその反応だったなら、ナリンダも、その怪しい魔法薬の本当の効果を知らなかったっぽいな。
人をカエルにする薬か……。ヤベェよな。何者だ、その高名な魔術師ってやつは。
「ちなみに、恋人がカエルになっちまうとか危ない噂話とかあったりするか?」
魔術師が無差別に薬を渡していたり流通させているんじゃないかと思ったが、レグルシは。
「聞いたことがないな」
そもそも、世間の噂話が王子の耳に届くことなんてあんまりないか。耳に届くほどの話になっていれば、得体の知れない薬に警戒感を持って使わなかっただろうし。
「ナリンダが犯人なのか?」
レグルシが聞いてきた。んなもん、オレが知るかよ。オレとの婚約破棄して、よろしくやっていたのはお前だろうが。
「だとしたら、お前、あの泥棒猫令嬢に恨まれることしたか?」
オレより酷い目に遭っているとは考えられないんだけどな。それとも、オレを王子から寝取ったクズとか周囲から言われて、キレちゃったとか? 世間でも婚約話は知られていたから、それを知らずに王子に近付いたなんて考えられない。婚約者奪う気満々で近付いていると見られて、当然だろう。
……いや、ひょっとしたら王子のほうがナリンダに手を出して、断られず付き合わされた場合、周囲からも冷たい目で見られて、ぶちキレもあるかもしれない。自分も被害者だって――いや、それなら王とか、オレにチクって助けてって言えば済むわけだし、やっぱあの泥棒猫も悪いか。
俺は席を立つ。突然だったから、レグルシは驚いた。
「ミリッシュ……?」
「オレの名前はモモだ。侯爵家と縁を切ったのは知ってるだろ」
ちょっと席を外し、あるものを持ってきた席上に戻った。じゃーん、魔法の鏡。話の場にいなかっただろうけど、お前ならわかるよな。
「鏡。レグルシがここでオレに話した内容で、嘘はあるか?」
『ありません。言いづらそうにしている事柄はあれど、あなたに嘘はついていません』
魔法の鏡の回答はそれだった。大変よろしい。嘘なんてついていたら、スープ鍋に閉じ込めて、王様の前に連行しているところだった。
「ミリ……モモ、その鏡は?」
「魔法の鏡。真実を語る鏡ってやつだ」
嘘は言わない。忖度しない。白雪姫世界じゃ、二番じゃいけない王妃が、一番の姫を排除しようとしたんだよな。……こわいこわい。
「鏡、王子をカエルにしたのは、ナリンダが持ってきた魔法薬で間違いないか?」
『はい。人を動物に変える呪いが込められた薬です』
その答えに、レグルシは驚いた。
「つまり、ナリンダは……私をカエル……フロッグなどという醜い化け物に変えるつもりで……」
カエルを化け物って何気にひどくね。いやまあ、この世界にはフロッグ系のモンスターがいるから問題ないのか。
いや、そうじゃなくてだな――
「鏡、ナリンダは、その薬の効果を知って王子に使ったのか? つまり故意に他の動物にするつもりで」
『いいえ。ナリンダは、単なるリラックス効果の薬と聞いていたので、レグルシ王子がカエルになるなど思ってもいませんでした』
ふん、よかったな、レグルシ。ナリンダがお前を憎んでいるわけじゃなくて。まあ、元婚約者としては、寝取り女が無罪でも嬉しくも何ともないが。
「そうか……。彼女は私に害する意図はなかったわけか。……よかった」
ビキビキっ! 最後のボソリも聞こえているぞ、浮気野郎。
あまり、こいつらのために自分の脳味噌を使うのもアホらしいので、魔法の鏡さんに真相を究明してもらおう。
第一、人を動物に変える魔法薬を作った魔術師とは何者か?
第二、レグルシが人間に戻る方法。
……オレも鬼じゃないからね。
こんな王子でも、さすがにカエルのままというのは可哀想ってもんだ。同情してやるよ。




