第66話、桃太郎、カエルを買う
喋るカエルの処理について、その冒険者は、冒険者ギルドに相談しにきた。
ギルドで買い取ってもらえるのか、あるいはこの手の珍しいものを取り扱う商人を紹介してもらうか。
そこへオレは割って入った。
「で、こいつ相場はいくらになるんだ?」
「モモさん! そうですなぁ……。人語を喋るフロッグですから、どれほどになるか見当もつきませんなぁ」
ギルドスタッフは首を傾げる。
「商人が適当な値段で買い取って、オークションに出すでしょうから、幾らつくか判断しようがありません」
まあ、そうだろうな。金に糸目をつけない好事家か、珍しい者好きが集まるオークションってのが妥当だろう。あるいはどこぞのモンスター研究者か。……後者は金なさそう。
オレは、カエルを捕まえたと思われる冒険者に確認する。
「これはお前が捕まえたのか?」
「へ、へい」
Cランク冒険者だからか、Aランクのオレに萎縮しているようだった。
「まだこいつの所有者はお前ってことでいいな? ――よし、それなら金貨50枚出す。こいつを売ってくれ」
「!?」
周りの冒険者たちが驚いた。ギルドスタッフと受付嬢も驚いた。オレが金貨を出すと、一瞬呆けていた冒険者が我に返った。
「う、売ります! モモさんに!」
「ありがとう」
おおー、とギャラリーたちがざわめく。ギルドスタッフが口を開いた。
「いいんですか、モモさん? これの値段、正直金貨50枚の価値があるかはわかりませんけど……」
「価値なんてものは人それぞれだからな」
これで別のお宝が引けるっていうなら、そう悪いものでもない。今はそれくらい出しても困らないほど資金に余裕があるからな。
オークションなんて待っていたら、いつ決着つくかわからんし、オレらはそろそろ王都へ行くからな。確実入手できるタイミングは今くらいしかないだろう。ならば買え、である。後で買えるとは思わないことだ。
オレは支払いを終えると、カゴの取っ手を持ってカエルを運ぶ。ギャラリーの冒険者が声を掛けた。
「モモさん、そいつをどうするんです?」
「食うんですか?」
笑いが起こったが、オレは「土産だ」とだけ答えておく。そして仲間たちと合流。
「手に入れた」
「カエルねぇ……」
カグヤは引きつった笑みを浮かべ、お鶴さんは純粋な好奇心の目をカエルに向ける。太郎は不思議そうな顔をしているし、イッヌとサルは……まあわからんか。
「じゃ、王都に行くか」
「ギルドスタッフにはまだ言ってないわよね?」
そのために冒険者ギルドに来たのに、肝心の言伝を忘れるとはこれいかに。
「待て、今、王都へ行くと言ったか?」
カゴの中でカエルが言った。言ったがどうした?
「そうだよ。お前さんは、王城へのお土産だ」
本当に喋ってる――とお鶴さんが目を丸くしている。カエルがカゴに手をついた。
「王城とは、レッジェンダ王国の?」
「他にあるか?」
「そうか! なら、話を聞いてほしい! 実は私は本当はカエルではなく人間なんだ!」
「……」
うーん、そう来ましたか。いや、オレを見て、この世界での本名を当てた時点で、何かあるんじゃないかって思ってたよ。
「あーあー、聞いてやるけど、とりあえず、ちょっと待て」
オレは、ギルドカウンターの方を見ると声を張り上げた。
「じゃあ、オレたち数日、王都にいるから! しばらくこっちにはいないんで、よろしく!」
受付嬢やギルドスタッフに聞こえる声で言ったから、返事しなくてもいいや。周りの冒険者も聞いていただろうし、何かあれば留守だって言ってくれるだろう。
ということで、オレたちは冒険者ギルドを出た。
・ ・ ・
飛行帆船スキーズブラズニルに乗って、王都へ移動中。……さて、お話をしようか、カエル君。
「――じゃあ、お前の話を聞こうじゃないか」
「うむ。故あって名前を明かせないが、人間だった」
カエルが人語を喋るって、漫画やアニメだよな。カグヤなんか完全に気味悪がっている。オレもそっち方面を知らなかったら、そういう反応だったかもな。
「何で名前を明かせない?」
敢えて突っ込む。そこら辺の事情も明かせない奴の話なんて、どこまで信じられると思うのか。
「……」
カエルは押し黙る。目の動きがマジカエル。
「……私の素性が知られると、君たちが邪な考えに走るかもしれないからだ」
ぼそぼそ、と顔を逸らしてカエルは言うのだ。
「要約すると、やんごとなきご身分だから、それを利用に人質にされたり、身代金をふっかけられるかもしれないって話だな」
あー、わかったわかった。そんなことを考えること自体、自分に身分という価値があるのをわかっている奴の考えだわ。平民は、そんな考えにはならない。
「じゃあ、次な。お前、オレを見て、ミリッシュって言ったろ? お前はミリッシュの知り合いか?」
「知り合い、というか……」
ごにょごにょ、と何やら言い難そうなカエル。
「あなたが、私の知っているミリッシュ嬢に似ていたから、つい。目元、顔立ちがそっくりだった。髪型は違うし、物言いも粗暴だから違うのだろうと思うが」
「粗暴で悪かったな」
「そういうあなたもミリッシュ嬢の知り合いか?」
「妹って言ったら信じるか?」
「……うーん、確かに瓜二つかもしれんが、彼女によく似た妹は、いなかったような――」
腕を組んで悩むカエル。よーく、ご存じじゃないか、カエルさんよ。いや――
「レグルシ。レグルシ・レッジェンダ」
「ッ!?」
オレが呼んだ名前に、カエルはビクりとし、目を大きく見開いた。やーっぱりそうか。
「久しぶりじゃねーの、王子様。オレだよ、あんたが婚約破棄したミリッシュ・ドゥラスノだよ。……驚いたか?」
「ミリッシュ!? そんなっ!?」
カエルの顔でもビックリしているように見える。人間の姿だったら、とんだ間抜け面を晒していたんだろうな。
「さあ、聞かせてくれよ、王子様。何だってカエルの姿なんかになってるわけ?」




