第63話、桃太郎、王城へ行く?
ドヴェルグの宝物殿を突破し、お宝を回収したオレたち。
「でー、どうする、宝物殿の件。ギルドに報告するか?」
オレが確認すれば、カグヤは露骨に視線を逸らした。
「なーんか、面倒な予感がするから、そのままでいいんじゃない?」
入り口の穴が空いて、侵入できるようになったから、次に来た人が通路の仕掛けを突破して、宝物殿に入れても、一応、金銀財宝は存在する。
「私としては、手掛かりも見つかったわけで、もうあの宝物殿のことはどうでもいいのよねぇ……。次の人が残りを全部持っていってもいいと思ってるわ」
まあ、オレらもお宝いくつかと、そこそこの金銀もいただいたしー? そこそこなくなっていても、後から来た奴には、何があったかなんてわからないしー?
「投げやりだな、カグヤ」
「私としては、次のことのほうが大事よ」
カグヤが探しているお宝四つ――鉢、枝、皮衣、貝のほうが重要ってことなんだろう。
「最初はやっぱ、レッジェンダ王国の王城か?」
魔法の鏡から聞き出したお宝の在処。一番近そうなのが、王城の宝物庫にあるという『仏の御石の鉢』。
「そうなんだけどね……」
神妙な調子を崩さないカグヤである。
「問題は、どうアプローチをするかなのよ。こちらは王族でも貴族でもない、ただの冒険者。理由もなく王城に入ることはできない」
元貴族ではあるが、そっちとは縁を切ったし、貴族身分を利用する気はさらさらない。かっこ悪いしな。
本音を言うと、王子をぶん殴ったから近づきたくないんだけどな。これは自業自得ではあるけど……。そもそも王子が浮気した上に、オレを切り捨てたのが根本にあるからな。
そのことに後悔はないが、王城に行きづらくはなっているわけだ。
「かといって、忍び込むってのはアウトだもんな」
それで宝物庫に入って目当てのものと……というのは普通に泥棒だ。子供連れて指名手配とか、太郎にも悪いからやらねーけど。
一頻り考えていたカグヤだったが、ちら、とオレを見た。
「……魔法の鏡に聞く?」
「却下だ。もっとじっくり考えて、それでも駄目な時まで頼るな」
魔法の鏡は何でも答えてくれるが、使い所については考えないといけない。
「何でもホイホイ鏡に頼っては、考える力が衰えるぞ。鏡なしじゃ生きていけなくなる」
「えー、でも楽じゃない?」
「戦闘とか、とっさの時まで鏡が使えるわけじゃねえだろ? 何でも鏡に頼っていると、そういうとっさの判断力も落ちる。便利なもんに頼って考えなくなるって、それって生きてるって言えるのか?」
鑑定が必要なものとか、そういうものに魔法の鏡は使うべきだ。知識がなくて、どう考えても時間の無駄になるものになら魔法の鏡はガンガン頼っていいが、そうでないなら、きちんと自分たちで考えような?
「そもそも、明日中に解決しないと死ぬ、とか時間制限があるなら、魔法の鏡を使って時短しろって気にもなるけど、そうじゃねえだろ?」
「わかったわよ。考えるわよ」
むー、とか唸りながらカグヤは思考する。そこで一つ、オレは思った。
「ドヴェルグの宝物殿の話を、王城に持っていくってのは?」
お宝を見つけましたって、報告すれば、国から褒賞が出たりする。莫大な財宝の話となれば、王国も話を聞いてくれるのではないか。
「うーん、それは私も考えたけれど、王国に話を持ち込んだら、たぶん回収しようって話になるでしょ? それで国が動いたら現地のドワーフたちが、先祖の宝だー、とか抵抗したり、争いになりそうな気がするのよ」
「う……想像できちまった」
お宝巡って種族戦争、ありそう。
「財宝って、人を狂わせるんだなぁ……」
「なーに、黄昏てるのよ。……でも、そうね。ドヴェルグの宝物殿で見つけたお宝を、どこぞの適当な遺跡で見つけたと言って献上するのは、ありかもしれない」
そういえば、仏の御石の鉢自体、どこぞのダンジョンで冒険者が持ち帰ったものを、王国が買ったって話だったな。
「お宝トレードってヤツか」
悪くない気もするが、向こうがトレードに乗ってくるかはわからない。少なくとも相手をその気にさせるくらいの宝を差し出す必要があるだろう。
巨人を一撃で倒したオーディンの槍グングニルでも出すか? トールのミョルニルだと専用の小手もセットになるしな。
……うーん。もうちょっと考えようか。時間ならたっぷりあるさ。
・ ・ ・
「おめでとうございます、モモさん。ランクアップですよ!」
「はい?」
ガーラシアの冒険者ギルド。ドワーフ集落へ出て少し離れていたから、その間にニューテイル指名の依頼が来ていないか受付で確認したら、受付嬢がニコニコと対応した。
いや、しかしな――
「オレの記憶違いでなければ、オレってAランクだぜ? 冒険者ギルド単独で上げられるランクのトップだろ」
それ以上上げられないんじゃないのか?
「ギルドだけでは、Aランク以上は上げられませんけど、そういうことですよ。王国からの推薦があった、と」
「!」
「モモさんたちニューテイルの活躍、国王陛下の耳にも届いているそうです。シドユウ・テジンの鬼退治の英雄ですからね。それでランクアップを兼ねて、モモさんたちニューテイルを王城に招待したいとのことです」
えぇ、王様が招待ぃ。……反射的に拒否反応が出たが、カウンターから離れていたはずのカグヤが一気にオレにぶつかる勢いでやってきて、後ろから受付嬢を覗き込んだ。
「王城からの招待? お呼ばれしているの!?」
「は、はい。ランクの昇格と、ニューテイルの武勲をぜひ聞きたいということで……」
ほら、カグヤ。受付嬢が困惑しているだろう。つーか肩に掴まるな。
「桃ちゃん! 王城に向こうから誘われたわ!」
「あー、そうだな」
あれこれ考えていたら、王城のほうが来たよ。これぞ渡りに船ってな。
カグヤの探しているお宝のため、と思っていた頃はまだ抑えられていたが、いざお呼ばれされたと聞くと、不安というか緊張が込み上げてきた。
これは思っていた以上に、心やってるなぁ。王城でオーガ相手に大立ち回りした件はともかく、王子をぶん殴った件がトラウマってるわ。
ニューテイルの活躍をー、って言ってるの、その王子の父親、プロメッサ王だろう? オレあの人と面識があるから、余計に顔を合わせづらいんだ。息子の婚約者ってことで、オレこと当時のメリッシュ嬢は、割と会っていたから。




