第56話、桃太郎、船とドックを見つける
宝物殿のお宝部屋の奥に、通路があった。
入り口は一つではなかった、となると、これがどこに繋がっているのか、俄然興味も湧くわけだ。
「また別のお宝部屋かな?」
「言ってみましょ」
カグヤが促した。冒険者であるなら、探索は基本中の基本。理由がなければ、ここで止めにする手もないわな。
というわけで、俺たちはさらに先へと進む。黄金だった壁も、普通の石壁に変わる。何やら文字らしきものが刻まれているが、オレにはさっぱりだ。
『それにしても』
サルが天井に頭をこすりそうになっている。
『狭いですね。この通路』
「ドヴェルグのサイズからすれば、これでも温情だろ」
普通にドワーフ程度の大きさだったなら、お前じゃ通れなかったぜ、サルよ。
「大部屋に出るわよ」
カグヤが言った。さてさてついた先は――
「ひぇー。広いなぁこりゃ」
さっきのお宝部屋が体育館並みなら、こっちはでっかい機械工場並みか。細い通路が左右に伸びていて、手すりから場を見下ろすことができる。
ふらふらっ、と手すりに歩み寄ったお鶴さんが目を見開いた。
「船があります!」
「どれどれ……。帆船だな、あれ? 何か最近、こんな形の船を見なかったか?」
「奇遇ね。私もつい最近見た覚えがあるのよ」
腕を組むカグヤだが、太郎がつついた。
「宝物殿で見つけた帆船の模型じゃない?」
「あ、なるほど!」
そういえば、玩具みたいな小さな帆船模型があったな。ドヴェルグの器用さアピールじゃねって、一応回収したんだっけ。
「へえ、あの模型って、ひょっとしてこの船を作るための試作品だったりしてな」
『何の試作品なんです?』
サルが聞いてきた。何のって、どういうことよ?
『強度計算とか風洞実験とか、製造のための構造確認などに使うには、あまりに小さ過ぎませんか?』
「デザインの試作じゃね?」
完成予想図ってやつ。
『なるほど』
言ってはみたものの、しらねえよ?
「ところで桃ちゃん、お鶴ちゃん。気づいてる?」
カグヤが帆船の奥を凝視している。
「あの船の先、外に繋がっているみたいなんだけど」
よくよく見ると、ここは船用のドックのようだった。帆船が水に浮かんでいて、その舳先が向いている先が、真っ暗な空洞へ通じている。……暗くてよく見えないな。
「地底湖でもあるのか……? まさか本当に海に繋がっているとかねえよな?」
このドヴェルグの宝物殿自体、地下ダンジョン――いや、モンスターはいなかったから、普通に遺跡か。とにかく、ドワーフの集落も結構地下深くだから、さすがに海ではないだろうけど。
「地底湖かー。宝物殿のある壁の向こうに何があるかわかっていないわけだけど……」
……うわ、カグヤさんがニンマリしている。冒険心はくすぐられるよな。これこそ冒険の醍醐味。そこに山があるから登る登山家よろしく、冒険者であるからには冒険心は多かれ少なかれ持っているもんだ。
「宝物殿の外、という扱いになるんですかね」
お鶴さんが首を傾げる。うーん、どうだかな。
「オレら、宝物殿の全体像知らないからな……。とりあえず、このドック内を探索するか。何か手がかりがあるかも」
「あっても、ここの字、読めないでしょ?」
カグヤが突っ込むが、オレは、イッヌとサルへ視線を投げる。
「どうかなぁ。お前ら、実は読めたりしない?」
『ワタシには、ドヴェルグ言語の翻訳データがないので正確さは保証できませんが、ドワーフ言語からの類似点から推測しての、曖昧翻訳なら可能です』
サルが早口で言った。カグヤが腕を組んだ。
「正確な翻訳が欲しいけどね」
「曖昧でも、ないよりいいと思うけどな」
ドヴェルグとドワーフの関係って諸説あるようだけど、確かに類似点は多そうだよな。オーケー、探索だ。
・ ・ ・
というわけで、ドック周辺と船の調査を始める。
最初はダンジョンと聞いてきたけど、モンスターも現れず、静かなものだ。こういう場所にモンスターが住み着いて、巣を作っていたりとか想像していたけど、そんなこともなかった。
「遺跡だな」
「お宝があるなら、どっちだっていいわよ」
カグヤはクールだ。
ドックに隣接している倉庫のような大部屋が二つあった。
一つは建材置き場のようで、ここで船の部品が置かれていたのだろう。
で、もう一つは――
「物置か?」
何だか統一性がないというか、何やら箱状の物体だったり、家財道具だったり、鏡だったりが置かれていた。
「間違っても、金銀財宝じゃねえな」
「そうかしら?」
カグヤは眉をひそめている。
「ここ、魔力とか、不可思議な力のようなものを感じるわ。この中にあるもの、もしかしたら魔道具とか、魔法アイテムの類が混ざっているかも」
「そういや、お前の探しているお宝って、一見わけわからんものもあったよな」
じゃあ、むしろこういうところのほうが、意外に見込みあったりするか?
正直、お宝探ししている雰囲気なくて、あんまテンションあがらねえ。あれだな、倉庫整理やってる気分になるからか。
「……鏡か」
金の縁取りの少々豪華なそれ。そこらの絵画とかのサイズだから両手で持ってみる。――鏡よ鏡ってか。
「こういうのも鑑定したら、掘り出し物だったりするのかな?」
「ちゃんとした鑑定能力とか欲しいですよね」
お鶴さんが苦笑している。簡単なものは目利きできるお鶴さんだが、こういう遺跡とかが絡むと、やっぱ欲しくなるよな鑑定魔法とかそういうの。ドヴェルグの宝物殿にあった武器やらアイテムも、わからんないものばかりだったからな。
「ん? 太郎、どうした?」
太郎とイッヌが、何やら警戒しているのに気づく。二人は、木箱の上に置かれた分厚い本のようなものを睨んでいるようだが……。
何だろう、嫌な気配を感じてきた。




