第49話、桃太郎、またも噂になる
レッジェンダ王国の王城。国王プロメッサは、ガーラシアの町の冒険者ギルドからの報告を受けて、思わず破顔した。
「そうか、シドユウ・テジンのオーガどもが鎮圧されたか!」
三カ月前、突如として王都、そして王城を襲撃したオーガ軍団。一夜にして王国中枢を破壊、国が大鬼どもに支配される可能性のあったそれは、一人の侯爵令嬢の奮戦により阻まれた。
オーガは敗走したが、その出所の一つが、シドユウ・テジンとされ、王国として必ず報復、滅ぼさねばならない標的の一つだった。
「それを成し遂げたのは、かの冒険者パーティー『ニューテイル』か」
遣いの者の報告に、プロメッサ王の機嫌はすこぶるよかった。
三カ月前――オーガ軍団が撃退された直後、モモなる女傑に率いられた新規冒険者パーティー『ニューテイル』が結成された。未開のダンジョンを求め、数々の冒険と共に宝を持ち帰ってくる精鋭冒険者たち。
その活躍は、プロメッサ王の元にも届いていた。
「オルガノ団長。これはいよいよ、モモなる女傑。三カ月前に失踪したミリッシュ嬢の可能性が高まったのではないか」
「左様にございます」
オルガノ騎士団長は、恭しく頭を垂れた。三カ月ともなると、外見や人物像もある程度伝わってくるもので、かつては別人と思われたそれも、次第に本人なのではないか、と思えるようになった。
「そろそろ、王城に、モモとニューテイルを呼んでもよい頃だと思う」
プロメッサ王は口ひげを撫でつけた。
「冒険者ランクを特Aに上げると言えば、ちょうどよいと思うが、どうだろうか?」
「はっ、大鬼の巣窟を叩いたとなれば、充分な功績であると言えます」
冒険者ギルド単独で上げられるランクは、基本Aまで。それ以上は、国からの推薦や、より上位に見合う戦功をあげなければならない。
そしてニューテイルのシドユウ・テジン攻略は、王が推薦してもよいと思えるに足る手柄だった。
「では、そのように手配を」
それでこの件は終わり、と王は手を叩いた。遣いの者が退出し、プロメッサ王の表情は険しくなった。
「それで、団長。馬鹿息子の行方だが――」
「申し訳ございません。レグルシ殿下は、依然として発見できず」
レッジェンダ王国の王子レグルシは、三カ月前までミリッシュ・ドゥラスノ侯爵令嬢と婚約していた。
だが、薄汚い泥棒猫たるナリンダ子爵令嬢にそそのかされ、ミリッシュ嬢との婚約を独断で破棄してしまった。
自分の浮気を正当化するために、ミリッシュ嬢を悪く吹聴し、パーティー出席者たちの前で派手な――そして愚かな婚約破棄をやらかした愚か者。
結果、ミリッシュ嬢本人から、見下げ果てた奴と罵声を浴びせられ、拳骨でぶん殴られたという。侯爵令嬢が王子に手をあげるなど、前代未聞とはいえ、顛末を知ったプロメッサ王は、ミリッシュ嬢に喝采を送った。
彼女が殴らなければ、プロメッサ王が王子をぶっ飛ばしていた。王族の権威を辱め、自分が愚か者であることを喧伝してしまった馬鹿息子である。
しばらく謹慎させていたのだが、あろうことがもう会うなと命じたナリンダと、その後も逢瀬を繰り返していたとか。
さすがに堪忍袋の緒が切れる寸前、王子が失踪した。しかも消えた時、近くにいたのはナリンダだったという。どういう理屈か知らないが、レグルシは消え、その場にいたナリンダは逮捕された。
再三の警告を無視したナリンダは投獄。子爵家は取り潰した。どこまで恥をかかせるのかと、プロメッサ王は激怒したのだった。
身分を剥奪され、平民――いや奴隷落ちの可能性さえあるナリンダは、知らないとのたまい、わけのわからないことばかりを口にするので、尋問官が手荒な尋問を行っているそうだが、今だ口を割らないのだという。
『ごめんなさい! ごめんなさい! 許して! 許してくださいっ!』
一度様子を見に行ったが、泣き喚き謝れど、王子がどうなったかについては、意味不明な答えしかしないため、時間の無駄だったかとプロメッサ王は呆れたものだ。
それ以外のこと、たとえば成り上がるために王子に近づいたことや、ミリッシュ嬢を罪に陥れる、つまり冤罪をでっち上げたかについては語っている。聞けば聞くほど同情する気にもなれず、もっとナリンダを苦しめろと命令したくなったが。
「しかし……馬鹿息子はどこへ行ってしまったのか」
「白状したところによると、媚薬効果のある魔法薬を使ったら消えた、などと言っておりますが……」
オルガノ団長の言葉に、プロメッサ王は眉間に指を当てて軽く揉んだ。
「その魔法薬をナリンダに渡した者が何か知っているかもしれんな。そちらからも探ってくれ」
「承知しました」
「……まったく」
プロメッサ王は深々とため息をつくのだった。
・ ・ ・
ガーラシアの町に戻り、冒険者ギルドへシドユウ・テジンの件を報告した。あれから何日経ったっけ?
まあいいや。ゴールド・ボーイことオウロとク・マとの助っ人組とも解散。その日は大量の報奨金を元手に、酒場を貸し切り、大いに飲んで騒いだ。それが生きてるってことだ!
オレらはギルドで、オーガ討伐の証明をしているが、酒場にいた奴の中にはそれを知らない者も多かった。普通なら、嘘か本当かわからず怪しむところなんだろうが、ゴールド・ボーイが率先してオレたちの活躍を語ったからか、まあ変に絡まれることもなく、皆で飲めや歌えで大盛り上がりだった。むろん、オレたちの奢りってのもあるけどな、ワハハ。
で、この町でも大鬼殺しのニューテイルと評判になり、ギルドに顔を出せばちょっとした有名人状態だった。
その間にも、次に潜るダンジョンの選定と情報収集を行った。シドユウ・テジンには、カグヤの探していたお宝が見つかったから、ちょっとばかり目当てのものが出てくるのでは、って希望があるんだよな。
それとは別に、オレたちニューテイルの中で、一つの決断が下された。
他でもない、太郎の冒険者活動の参加だ。もちろん、冒険者の年齢制限にぶっちぎり引っかかっているので、登録はできないんだけど、オレたちに同行するって線で、今後は行くことになった。
太郎本人が希望している。
だが経験は足りない。しかし、ヘタな素人冒険者より賢く、能力が高いから、細かなところを教えつつ、経験させてもいい段階と、判断したわけだ。あれで度胸もあるしな。




