第46話、桃太郎、不安になる
龍の首の珠を手に入れた。それはこれまでのダンジョン探索の中でも、最大レベルのラッキーだったと言える。
何せカグヤの探し物が一つ、見つかったわけだからな。
というわけで、帰り道……の前に、骨だけになった竜を見ていくことにした。ちょっと前世で知った昔話に絡んで気になったことがあったからだ。
んで、改めて竜の骨を確認。
「よくよく見ると、何か変な形しているわねこれ」
カグヤもそれに気づいた。オレはサルを見る。
「お前の所感は?」
『機械に『心に感じること』を問うのですか?』
「そういうのいいから。感想は?」
『生物としては非常にユニークな個体です。複数の首があったようです』
あー、やっぱりそう見える。表の沼の奴ら、竜じゃなくてヒュドラ系だった可能性が高まったな。
『しかしヒュドラとは違うようです。頭は推定で八本』
「ヒュドラは九本だっけか』
うろ覚えだけど。
『さらに尻尾が複数。おそらく八本』
「ねえ、それって……」
カグヤが絶句した。おや、ご存じかな?
「ヤマタノオロチ。ご本人か知らねえが、特徴は一致するな」
異世界転生するのは人間だけじゃないってか。
ヤマタノオロチ――八岐大蛇は、日本神話で知られる生物、モンスターで、現代でも名前くらいなら一度は聞いたことくらいあるだろう有名どころだ。ゲームの影響で西洋のヒュドラの仲間みたいに思ってる人も多そうだけど、尻尾の数が多いのが八岐大蛇の特徴だ。大変な酒好きで、毒入り酒を飲まされたことが討伐の足掛かりになったという。
「でもおかしいわよね。ヤマタノオロチにしては、頭と尻尾の本数が全然合わないわ」
「そっ。骨の形を見ると、ちゃんと分かれているっぽいけど、その先が一本の頭を残してなくなっている」
一見すると、気づきにくいほどバカデカイ図体をしているから、あまり気にならなかったけど、なくなった部分があったら、その巨大さにビビるぜ。……気に入らねえな。
「どこの誰か知らねえが、こいつを倒した奴がいる」
瘴気の槍がぶっ刺されて残っていた。槍は瘴気を漏らし、腐った死体もろとも周囲を汚染した。あんなクソ危ない代物残して去るとか、ろくな奴じゃねえな。
「で、そいつは槍を残し、代わりにオロチの頭と尻尾を分断して持ち帰った」
「わけがわからないわね」
『冒険者でしょうか?』
サルが推測を口にした。
「確かに冒険者なら討伐部位を持ち帰ったかもな。だがその割には中途半端じゃないか」
頭一本だけ残しているし、持ち帰るなら、あんな呪いに塗れた武器を使うだろうか?
「桃ちゃん、それ逆じゃないかしら?」
「というと?」
「あの槍は最初から瘴気に塗れていたわけじゃなくて、討伐した後に、ヤマタノオロチの怨念が取り憑いた結果、ああなったのかも」
カグヤが言うには、八岐大蛇を討伐した後、素材やら討伐部位やらを回収している最中に、オロチの体から瘴気が溢れ出して、結果、あのまま放置されていた、という説。それで瘴気を吐き続ける槍とか、相当強い恨みが宿ったんだな。……あくまで説であり、証拠はないが。
『それにしても、頭はともかく、尻尾を持ち帰ったんですね。何故でしょうか?』
「ちょうど切り離した部位がそこだったんじゃないの」
カグヤは首を傾げる。
「あとは……尻尾によく切れる剣があったからかも」
「草薙剣だっけか」
神話では、八岐大蛇を討った後、その体をバラバラに切り裂いた時に、尻尾から剣が出てきたって話だ。こっちでも解体中に剣を見つけて、他にもあるかもと、尻尾もお持ち帰りしたのかもしれねえな。
「戻ったら、ちょっとこいつの討伐記録ないか調べてみるか」
何かモヤっとするしな。これ以上はなさそうなので、帰ろう。
カグヤが振り返る。
「このシドユウ・テジンって未開ダンジョンの一つよね? 帰っても情報なんてないんじゃない?」
「真っ当な冒険者なら、八岐大蛇討伐の報告をしないわけがない。部位の処理もあるだろうし、あれだけの大物を討ったとなりゃ、ランクアップに繋がるからな。シドユウ・テジンじゃなく、ヒュドラ亜種とかって線で情報が残っているかも」
「残ってなかったら?」
「……それを恐れてる」
カグヤの説である、解体中に瘴気が自然発生した、ではなく、始めから瘴気をもった槍で八岐大蛇を倒し、何か意図があって奴の首を一本だけ残して後の頭と尾を回収した。これが巷に出回らなかったとしたら、何のため? よからぬ陰謀論ってやつを感じてしまうね。
イッヌも瘴気でおかしくなったっていうし、繋がりがあったりすると怖いしな。他にもこういうやべぇ事案が発生しているかもしれない。
『祠のようなものがありましたし』
サルが口を挟んだ。
『何か、あの化け物に関する記録がどこかにあるかもしれません』
「そういうことだ」
何かわかれば、少しはすっきりするだろう。
・ ・ ・
オーガのアジトに戻ったら、太郎が寝込んでいた。
「何か、ヤバいらしい。毒みたいだが、ポーションも効かないらしい」
「マジか!」
門番がわりのク・マが教えてくれた。オレたちも慌てて、太郎の休んでいるテントまで走った。
「太郎!」
「桃ちゃんさん!」
お鶴さんが泣きそうな顔で、太郎に寄り添っていた。……つーか、何だこれ。太郎が滅茶苦茶顔色悪い上に、悪い気のようなものが見えた。
お鶴さんも動揺しっぱなしだ。そりゃそうだ。明らかに具合悪そうだが、何でそうなったか理由がわからないんだから。
カグヤが声を荒らげる。
「薬は? ポーションじゃなくて!」
「原因がわからないんです!」
お鶴さんが言い返した。
「そんな状況で薬とか、太郎クンを殺す気ですか!?」
……ああもう、これだこれ。子供のこととなると皆こうなる。不安なんだ。子供って体ができてなくて、病魔に耐性がなくって、か弱くて。どうしたらいいかわからなくなるから不安で怖くて、しょうがないんだ。
「聖杯だ」
「え……?」
「聖杯に水を入れて、太郎に飲ませるんだよ!」
奇跡にすがりたくなっちまうんだ。キヌウスダンジョンで回収し、その後、太郎の急成長の一因と考えられる聖杯なら、奇跡だって起きらぁ!




