第45話、桃太郎、珠を見つける
瘴気を発する呪われた槍。一応、解析も考えて回収できないか、カグヤの妖光の魔法を当てて浄化を試みた。
結果、溢れ出る瘴気を祓うことはできたが、またすぐに新しい瘴気が噴き出してきた。噴霧器でも仕込んであるのかね。とにかくこれは危ない代物だから、処分することに決めた。
瘴気で汚染されるのは、周囲の環境にもよくないからな。
で、肝心の処分だが、イッヌが出した意見に従い、あいつが槍を一飲み。すると体から怪しい気配が出できたので、暴れる前に、カグヤに改めて妖光を浴びせてもらった。……おかげでいつも通りのイッヌに戻った。
よしよし、よく頑張ったぞー、イッヌ。
「それにしても、何だか嫌な予感がする……」
「何が? 桃ちゃん」
「わかんねえことだらけだ。明らかに人か亜人が手を加えた通路。大型竜の死骸。瘴気の槍。……しかもここシドユウ・テジンダンジョンの中。比較的近くにはオーガが拠点にしていたが、ここにはノータッチっぽい。謎だろ?」
「そうね」
カグヤは認めた。
「とはいっても、今の私たちでは調べようがないでしょ? 証拠物件は、処分してしまったわけだし」
「瘴気を発散させる代物を持ち運べねえからな」
仕方ないところではある。なお、カグヤは収納魔法で収納するのを拒んだ。瘴気を出し続けているものをないないしておくと、開いた時に溜まりに溜まった瘴気が拡散して大変なことになるだろうから。
じゃあ開けなければいい、というのでは、ただの死蔵なので、持って行く意味がない。
「ま、ここを少し調べてみましょ。もしかしたら、何か手掛かりがあるかも」
ということで、この大部屋を調べる。奥へ大きな穴が通じているので、少し進んでみると、カーブを描いていて、そのまま進んだら、一角が水辺になっているところで行き止まりになっていた。
どうやら毒沼と繋がっているようで、あの大きな竜もここを経由すれば外に出られそうだった。そうなると、あの四角い通路は、この竜の住処に後で何者かが作ったものということか?
謎が深まるばかりで、やっぱりわからん。
だが悪いことばかりではなく、半円のカーブの通路の途中に、神殿――というには小さ過ぎる構造物があった。そして、宝箱も。
「と、その前に何だこれは?」
樽が置いてある。ずいぶんと古めかしいが。それをカグヤが首を傾げた。
「何だか捧げ物みたいね」
「捧げ物……? へっ、ここは竜神様のお社だったってか?」
そういや、昔話の中には洋の東西を問わず、化け物に生贄に若い娘を差し出して、怒りを収めるだのってのが割とあった気がする。
なるほど、横穴に人工の通路があったり、ここに祭壇があるのは、生贄や供物を捧げるために人なり何なりが作ったものって解釈もあるか。ちょっと謎が解けたような気がする。もちろん、証拠もなにもないんだけど。
こういう生贄が捧げられるような魔物というと、大蛇とか竜とか……日本だとやっぱ、八岐大蛇伝説とかが有名じゃ――
「八岐大蛇……」
「どうしたの、桃ちゃん?」
「いや、別に」
さっき見た大きな竜の骨、頭は一つだけだった気がするから違うよな……。でも何だろう。さっきの毒沼に出た竜頭、やたら数が多かったんだよな。暗くて密集していたから、沼の中がどうなっているかわからなかったけど、ひょっとして、下では繋がっていたものが結構いたりして。
西洋だと、ヒュドラとかっていう多頭竜系のモンスターがいたような。
などと考えていたら、カグヤがサルに指示して宝箱を開けさせた。
光が溢れた。おっ、眩しっ――何だ?
「こ、これは!?」
カグヤがビックリしている。
「そんなっ、まさか! こんな……」
「おいおい、どうした?」
オレも近くに寄って覗き込む。光り輝く珠が入っていた。しかも虹のように複数の色が絡み合い、なお輝いている。……あれ、これってひょっとして。
「なあ、カグヤ」
「『龍の首の珠』よ」
五色に輝く珠。カグヤが探していた五つの宝のうちの一つ。かつて、竹取物語内で、婚約希望者の一人に探すように指示した、かぐや姫ご指定のお宝の一つだ。
「あった……。本当に、異世界にもあったんだわ……!」
わなわなと震えながら珠を回収するカグヤ。
「よかったじゃねえか。ご希望の品だぞ」
『おめでとうございます』
サルも祝福した。
いや、しかし、竜のお供え物だろうと思われる社もどきの宝箱から、竜にまつわる品が入っているとか、わけわかんねぇ。ここの竜のご機嫌取りだろうに、他の竜をおそらく倒したものから拝借したものを捧げるとか、どうかしてるぜ。
「来た甲斐があった……」
お、カグヤ、お前ひょっとして泣いちゃう?
「桃ちゃぁーん!」
うわあん、とカグヤが抱きついてきた。思わず受け止める。あー、よしよし。
「あったよぅ、龍の首の珠ぁ!」
どこにあるかわからない、それを承知で探しているんだもんな。
昔話のそれと同じく、見つからずに彷徨い続けるなんてこともあるわけで、カグヤとしても不安だったのだろう。存在していても見つからないなんてこともあるし、そもそも異世界遺物がこの世界に流れ着いているっていったって、それが何かは誰にもわからねえもんな。本人も自覚していたし。……うん、見つかって、よかったね。ほんとよかったね。
願わくば、カグヤの呪いを解く鍵だといいんだけどな。彼女は、五つの宝を探しているが、それにちなんだ呪いをかけた奴は誰かわかっていない。龍の首の珠を探すように言われた奴が犯人なら、これで解決だけど、違ったら、残りのお宝を探さないといけないのだ。
「で、カグヤ。お宝を見つけたはいいけど、それで前世の呪いをどう解くんだ?」
「私が『龍の首の珠』を探すように言った人間の魂に、これを献上するのよ。ちょっと複雑な魔法になるんだけど、これで献上することで無念を晴らしてあげるのよ」
「……それで、呪いが解けるのか?」
「ええ。無念に思っていればね」
思っていれば……?
「無念に思っていなければ?」
「私に呪いをかけた主ではないから、他のお宝を探さないといけない」
はあ、とカグヤはため息をついた。
魔法のことはよくわからないけど、カグヤがやり方をわかっていて、それで判別がつくなら、オレがどうこう口を挟むものでもないだろう。
「オレに出来ることはないけど、その……解けるといいな」
「ありがと、桃ちゃん!」
カグヤは笑った。守りたい、この笑顔。どうか当たりでありますように。柄にもなく、オレは祈った。




