第40話、桃太郎、雷神のお宝を見つける?
『イッヌさんが言うには、そのハンマーは、「ミョルニル」によく似ているそうです』
サルが、イッヌの声を通訳して、オレたちに言った。
持ち手が熱くて持てなかった片手用ハンマー。宝物に入っていたから、何か凄い武器やアイテムの可能性があったわけだが、その正体の糸口は、意外にもイッヌだった。
「ミョルニルってあれか? トールハンマーとかいう、雷神トールの持ち物だっていう」
北欧神話だっけか。前世、マンガかゲームで見た憶えがある。イッヌが吠えた。
『さすがは母上、とイッヌは申しております』
サルが言われるまでもなく通訳した。……毎度思うけど、何でイッヌはオレを、母上呼びなんだろうか。
カグヤがオレを見た。
「で、ミョルニルとかトールハンマーって初めて聞くけれど、それ有名なの?」
「前世じゃ、割と有名だと思う」
特に日本人で、ファンタジーをかじった奴ならどこかで名前くらいは聞いているくらいは。元が何なのか知らないかもだけど。
ミョルニルは、北欧神話の神、トールの愛用としている武器で、大きさは変幻自在に変えられて、どんなに乱暴に使っても壊れない。
また投げると、必ず目標にしたものに当たった上に、戻ってくるとかいうチート能力を持つ。まあ、ドワーフが作って神様に献上した品物だから、チートなのもわからんでもない。
と、イッヌが何か言ってる。サル、通訳。
『イッヌが申すには「粉砕するもの」の意味があり、それをぶつけられれば一撃死だそうです。唯一、一発を受けて死ななかったのは、弟のヨルムンガンドのみだそうで』
「なぬっ……!」
変な声が出た。イッヌ、お前、フェンリルっていうからこの世界の大狼だと思っていたけど、地球世界のフェンリルだったのか?
「どうしたの?」
太郎が怪訝な顔をするから言ってやる。
「イッヌも、前世……でいいのかはわからんが、まあ前世持ちかもって話だ」
この世界固有のフェンリルじゃなかったのかー。ということは、元はわからないが太郎も含めて、全員何がしら、この世界ではない異世界出身ということになるのか……。
弟がヨルムンガンドって……アレだろ。世界蛇とか言われる滅茶苦茶デカいやつ。あれ、うろ覚えだけど、雷神トールの最期ってヨルムンガンドと相討ちじゃなかったっけ。
ヨルムンガンドが一発は耐えたとイッヌは言ったけど、トールと対決となれば、このミョルニルを何発か食らったってことだろう。凄ぇと思うけど、イッヌにとっては弟殺した武器なんだよな、って、熱っ!
「桃ちゃん……?」
カグヤが、ハンマーに手を出したオレを白い目で見る。忘れていたわけじゃねえって!
「しかし、こんなの、持てねえだろ……」
重さが、ではなく、柄が熱くて。つーか、柄の部分が赤いなぁ……。普通に綺麗、という感想は触った後では、触るな危険って色合いに見えてきた。
イッヌが何か言っている。通訳するサル。
『このハンマーを持つには、ヤールングレイプルという鉄の小手が必要なのだそうです』
「鉄? それでこの熱さを防げるもんなのか?」
どうです専門家のお鶴さん? クラフター様に聞いてみれば。
「何かしら魔法の効果があるんでしょうね。立派な名前がついているようですから、ただの鉄の小手ではないと思いますよ」
お鶴さんのご意見でした。さて。
「せっかくのお宝なのになぁ」
「宝箱ごと回収して、その、やーるん……何だっけ?」
カグヤが言いかけて、名前に詰まった。長い横文字が時々だめっぽい月面美人。
「ヤールングレイプルな」
収納魔法かアイテムボックスに入れて、使えるようになるまで保存しておくってのはありだな。
・ ・ ・
「お宝は回収した。このアジトにも、オーガは残っていない。シドユウ・テジンの大鬼どもは退治されたと見ていいだろう」
オーガテリトリーの砦、その中庭にいる俺たちニューテイルとおまけ。
「ここで問題だ。オレたちはダンジョンにいる。第一の目的である鬼退治は済んだわけだが、第二の目的であるダンジョン探索はまだだ。……そうだよな、カグヤ?」
「ええ、ここからがむしろ本番よ」
異世界漂流物系のお宝目的のカグヤである。しかし――オレはゴールド・ボーイを見やる。
「お前と熊は、オーガ退治が目的で一緒に来たわけだからな。ここから先はどうする? 別に帰っても文句はないし、オレたちに付き合ってもいいけど」
「確かにオーガ退治は済んだ」
ゴールド・ボーイは腕を組んだ。
「ただ、君らを残して先に帰って、そのまま帰ってこないとかあったら寝覚めが悪いからな。とりあえず、探索に付き合うよ」
ちら、と太郎を見る。
「子供連れでダンジョン探索は、あまり褒められたものじゃないしな。実際、上位オーガにさらわれているわけだし」
しゅん、とする太郎とお鶴さん。オレは肘でゴールド・ボーイを小突く。
「馬鹿。男の子を前にさらわれたとかデリカシーのないこと言うんじゃねえよ。武士の心ってもんがわかんねえのか?」
「ブシ? いやわからんが」
「戦士の心、騎士道でもいいや。とにかく、本人が一番気にしているところに、傷口に塩を塗るような真似すんなよ」
「う、すまん」
詫びるゴールド・ボーイ。いやまあ……。
「お前の言うことは、いちいち正論だけどな」
俺は太郎に向き直る。
「お前はどうだ? ぶっちゃけ疲れているだろうし、カグヤはああ言ってるが、一度ガーラシアの町に戻るって手もある」
「……ガーラシアまで片道三日だよ?」
太郎は真面目に言った。
「どうせまた戻ってくることになるんなら、今探索しちゃったほうが効率はいいと思うよ」
そもそも――
「今日のところは、ここで一泊するか、ダンジョンの外で野宿するかの二択でしょ? 安全が確保されたここと野宿じゃ、どっちも大して変わらないよ」
「確かにな。……だそうだが、他に何か意見がある奴は?」
『ありません』
サルが即答し、ゴールド・ボーイの連れである熊も首を横に振った。
オーガのアジトは他のモンスターが入ってこないし、ダンジョン内に時々あるセーフルームみたいなものだろう。ここで一泊はありだな。
色々あったし、太郎も疲れてるだろうし。大休憩つーことで。




