第39話、桃太郎、打ち出の小槌を振ってみた
打ち出の小槌と聞いたら、大体の人が、一寸法師を思い浮かべるんじゃねえかな。
身長わずか3センチしかない主人公、それが一寸法師。3センチしかないから一寸。
……でもまあ、子供がいない老夫婦の願いを神様が聞いて、授けた子供だって話だからな。老婆という年頃を考えれば、それくらい小さくないとお婆さんの命が危なかったかもしれないし、仕方ないね。
それは置いておいて、何やかんやで成長した後、女をさらいに来た鬼と戦い、それをやっつけたわずか3センチの男。鬼が落とした打ち出の小槌を使うと、3センチの男は、182センチという高身長になったとさ……。でけぇなおい。
前世では、打ち出の小槌=一寸法師だけど、オレの桃太郎というお話でも、鬼ヶ島から持ち帰ったお宝の中に打ち出の小槌がしれっと混ざっていたとされる。
「一言、打ち出の小槌と言っても、効果にもバリエーションがあるみたいなんだよな。振れば金銀財宝が出てくるとか、願ったものが出てくるとか、あるいは願い事が叶う、とかな」
「何それ凄くない? 欲しいものが出てきたり、願い事が叶うって、最強のお宝じゃない!」
カグヤが目を輝かせた。オレは鼻で笑う。
「まあ、そうそう都合よく行くパターンばかりじゃねえさ。ハズレとまでは言わないけど、せっかく出した物も、鐘の音を聞くと全部消えてしまうってのもあるらしい」
「いやそれ、思いっきりハズレじゃない」
出した欲しい物やお宝が失せる。ぬか喜び間違いなし。
「まあ、モノによっては、案外役に立たない場合もあるって話さ」
さて、こいつはどんな効果があるかな? 欲しいものとか願い事を言いながら振ると、即効果を発揮する打ち出の小槌。
「欲しい物……」
いざ、欲しい物と言われてパッと思いつかないジレンマ。必要な時にとっさに浮かばないのは何故なん……?
「桃でも出したら、桃ちゃん」
「お、カグヤ、ナイス!」
オレが求めてもこの世界では、今のところ影も形もない果物。オレは前世での大好物だったから、死ぬほど食いたくなる時がある。
「出てこい桃」
フンフン、と振れば、出てきた。桃! 赤ピンクに熟れ、手に収まるお手頃サイズ。
「やったぜ!」
早速、拭いて、一口。シャクリ……瑞々しい――
「……うん?」
「どうしたの桃ちゃん?」
カグヤが怪訝な顔になり、お鶴さんと太郎も首を傾げる。
「……味がしねえ」
桃ってこんなんだっけ? 形は桃だけど……。
「何か桃と違う……」
どういうことだ? 唸るオレに、お鶴さんは言った。
「食べ物はきちんと出ないとか?」
「いや、そんなはずは……」
一寸法師の手に入れた打ち出の小槌は、願いも叶い、金銀も出て、ご飯も出たという。おそらく打ち出の小槌シリーズの中で最高品であり、超チートなアイテムになる。
「食い物は、再現できない小槌なのかな……」
「ねえ、桃さ……桃ママ」
太郎が聞いてきた。
「願い事が叶うって話だけど、具体的には、どんな願い事が叶えられたの?」
「うーん、そうだなぁ。オレが知っている話だと、身長が伸びる、とか?」
「何それ、頭でも叩いてたんこぶ分の身長が伸びましたってやつ?」
カグヤが言えば、後ろで聞いていたゴールド・ボーイと熊が笑いをこらえている。お鶴さんも苦笑している。
「いや、違うんだって。妖精くらいちっこいのが、エルフみたいな高身長になるんだよ」
こっちの世界でもわかりやすいように言ってみたけど、やっぱり皆信じられないようで笑顔を浮かべている。
いやまあ、3センチから182センチに伸びた男の話って言っても、信じられないわな……。
「とすると……」
太郎が真面目な顔で一つ前の部屋、そこから見える武器を見た。
「あの武器を、オーガサイズに大きくできちゃったりできるってこと?」
「あー……」
なるほど。大きくすると願って振れば、昔話の事例的に大きさを変えられるってことか。
「太郎、お前、頭いいな」
早速、試してみよう。目についた槍を置いて、打ち出の小槌をフリフリ。
「大きくなーれ、大きくなーれ――」
一瞬脳裏に、メイド喫茶がよぎったのは何故だろう? 前世の記憶……。
「大きく……なったぁ!」
槍が巨大化し、太さも長さもオーガ用武器のようになった。周りから驚きの声が上がった。
お鶴さんが口を開く。
「大きくできるということは、小さくもできたり?」
「小さくなーれ、小さくなーれ」
巨大槍は、元の大きさに戻った。おおお……、自分でやっておいて何だが、凄ぇなこれ。
「小さくできるなら、オーガ用の武器庫にあったものも、人間サイズに修正できますね」
やや処分に困る戦利品だったオーガ武器を、ダウンサイズできる。それで引き取り価格もアップだ! これは、使えるかもしれない。
カグヤが考え深い顔になる。
「もしかしたら、ここのオーガたちが使っていた武器も、元はその小槌で大きくした人間用の武器だったかもしれないわね……」
・ ・ ・
残りのお宝も回収しよう。
「何これ……おお、見てみろ。透明マントだ!」
向こう側が背景に溶け込んで、オレの突っ込んでいる手が見えなくなってる! そういや、鬼ヶ島のお宝で隠れ笠とか隠れ蓑ってあったな……。何故か、鬼や天狗が持っていることが多いが……あ、あの鬼女が姿を消して、太郎をさらったのも、ひょっとして透明になる隠れ系アイテムだったんじゃ……。
それはそれとして、中々使い出がありそうなマントだ。ありがたく拝借するとして、次は――
カグヤが覗き込む。
「また小槌ね」
「打ち出の小槌より、より武器らしいというか無骨なハンマーですけど」
お鶴さんが首を傾げた。むしろ、クラフターであるお鶴さん向けの片手用ハンマーではないだろうか?
どれ、中々重そうだけど――
「うん。見た目に違わず、重……って、あつつつっ!!」
火傷するかと思って、思わず手放した。何これ、持ち手が滅茶熱くてもてないんですけどォ!




