第34話、桃太郎、危機一髪!?
シドユウ・テジンの深部と思われる大部屋、オーガどもの住処。
待ち受けていた奴らが、それなりに策を講じていたようだが、サルのストーンハンマー二刀流が、その目論見を崩した。オーガどもがミンチだぜ……。
『前衛は潰しました』
「文字通り、だな」
後は後ろにいる上位オーガと、弓矢持ちか。
「突っ込むには、数が多いか……?」
『お任せを』
サルが腕を振り上げると、ブンと垂直に振る。するとストーンハンマーの岩塊がカタパルトに打ち出されるが如く、飛んでいった。
矢を番えようとするオーガの元に飛んだ巨岩は、吸い込まれるように直撃し、これまたぺしゃんこにした。
「当たった!」
『コントロールには自信があります』
ブン、ともう片方も打ち出し、こちらも二体のオーガを下敷きにした。……前世じゃそのコントロールとやらで、柿を親蟹に当てちまったからな。
「突っ込む! お鶴さん!」
「了解、援護します!」
お鶴さんの武器は、弓だ。純粋な腕で言えば、人よりちょっと上手い程度の腕だが、彼女の作る武器は一級品。そして性能バフが掛かった弓矢は、扱い易く、お鶴さんの思い描いた通りの場所へと矢を導く。
ヒュンと風を切る矢は、弓持ちオーガの目を射貫く。……痛そう――!
その間にオレは、距離を詰め。目をやられてのたうち回るオーガに、トドメの斬撃! 残るオーガには、イッヌが肉薄し、強烈な噛みつきで首と胴を分断させていた。
「女オーガ――!」
オレは、玉座のような椅子を見やる。空っぽ……どこ言った!?
素早く周囲を見渡す。あの人に近いオーガは上位種族。どちらかというと、前々世に戦った鬼に近い。
こっちの世界では、オーガは大鬼とも言われるが、そこらの雑魚鬼がモンスターと同類なのに対して、上位オーガ――鬼は不可思議な力を持っているものが多い。前々世じゃ妖術だったり呪いだったりだが、こっちの世界じゃ普通に魔法を使う。
「鶴ママ!」
「きゃっ!?」
声がしたので視線を飛ばす。太郎が、お鶴さんを突き飛ばしていた。何やって――!?
太郎の後ろで、空間が歪んだように見えた。透明化の魔法? 一部上位鬼が使える姿消しの術か!
俺は駆けるが、姿を現した女オーガが伸ばした手が太郎を掴んでいた。
「太郎ちゃん!」
「おっと動くと、この子供も巻き込むよ?」
カグヤが魔法を唱えようとするのを察した、女オーガが太郎を人質に取りやがった。ンのやろう……!
「ちょーと状況悪いから、逃げさせてもらうわよぅ。転移!」
その瞬間、太郎と女オーガが消えた。
クソッタレ! 連れてきたことで予想されたから、仲間たちの周りに置いて、単独行動させなかったのに、ピンポイントで連れ去られちまった! いくらオレの加速でも、間に合わなかった。
「桃ちゃんさん!」
泣きそうな顔のお鶴さん。太郎は、透明で移動してきた鬼からお鶴さんを守った。そのことで責任を感じたのだろう。自分が庇われなければ、太郎が連れ去れることはなかったってな。
「落ち着け! 誰のせいでもねえ!」
そうだ、落ち着け。あの女オーガは転移、つまりここではないどこかに移動した。問題はどこに移動したかだ。あの短時間での短詠唱で、長距離移動はできねえ!
「まだ、近くにいる! サル! スキャンしろ!」
『わかりました』
「イッヌ!」
雑魚オーガを掃討するゴールド・ボーイとク・マから離れて、イッヌが戻ってくる。
「匂いを追えればいいが、転移じゃわからないもんな。……音だ。お前はオレたちより耳がいい。太郎の声とか、何か聞こえないか?」
イッヌが難しい表情になった気がした。ブンブンと首を振った後、まるで精神統一するようにお座りして、耳に意識を集中させているようだ。
カグヤが何か言いたそうな顔をして近づいたが、イッヌがその聴力を動員しているのを見て取り、黙っている。……カグヤの表情、太郎を守られなかったことを悔いてるな。わかるぜ、オレもそうだからな。
だがこういう転移する敵がいる中、どこかで待機させておくわけにもいかなかった。つまり、連れてこようが、置いてこようが、結局浚われていた可能性はあったってことだ。……ああ、クソ。
「モモ!」
「うっせぇ、ゴールド・ボーイ! ――すまん、何だ」
怒鳴ってしまったことで、オレこそ動揺しているを自覚した。気分を何とか抑えつつ、ゴールド・ボーイに向き直る。声を出したらいけないと判断したか、彼はこっちに、と手招きした。
いったい何だ? オレが、黄金装備野郎に近づけば。
「見ろ、モモ。この壁、地図みたいだ」
「地図? ……シドユウ・テジンのか?」
「たぶん」
ゴールド・ボーイは、オレたちがきた入り口らしい場所を差し、そこからこの大部屋までのルートを辿った。……確かにオレたちが歩いてきたルートみてぇだな。
「あいつらもダンジョンに住むということで、地図を作っていたのだろうが……」
「網の目みたいに、色んな道があるっぽいな」
オレたちが通ったのは、このダンジョンのほんの一部だったってことかい。くそっ。……このどこかに、太郎がいるのか?
・ ・ ・
拝啓、桃さん。どうやら僕は鬼に誘拐されたようです。
「うーん、咄嗟に連れてきてしまったけどぉ。キミぃ、可愛いねえ」
美人鬼は、何故か僕に密着しています。
「食べちゃいたいねえ、ボクぅ」
あのぅ、何か、この鬼さん。発情してません? 食べるって、オーガが人間を喰うってのは知っているけど、何か別の意味も含まれてそうなんだけど!
「ボクぅ、お姉さんに、お名前、教えてぇ?」
「……」
「教えなさい!」
顎を掴まれた。痛い痛い、鬼さん、痛いよ。
「た、太郎……」
「タロウ? ふーん、タロウちゃんかぁ。ワタシィ、イバラって言うんだ。お友達になりましょ!」
ニコォ、とイバラと名乗った鬼女は笑った。満面の笑みが怖い……。




