第33話、桃太郎、オーガのアジトに乗り込む
ダンジョンに殴り込みだ!
と、オレたちはシドユウ・テジンとやらに着いたはいいが、そこではオーガどもが大量にお出迎え。
『やっちまえっー!』
『『『『グオオオオッー!』』』』
どうやら、待ち伏せの連中が全滅しちまったもんだから、オレたちを迎え撃つつもりで待っていたらしいな。
先方の連中だけで余裕と思っていたら、返り討ち。だから慌てて兵隊集めたってところだろう。
ドタドタと棍棒や斧を振り上げて、向かってくる筋肉ダルマの壁。さながら騎兵突撃。まともな槍兵が陣形組んでも蹴散らされそうな迫力。
「カグヤ! 頼むぜ」
「ええ。月の光よ。深淵より出でて、かの者より、力を奪え! 妖光!」
オレたちが下がり、前に出たカグヤが、眩い光を放射した。波の如く押し寄せてきたオーガたちの勢いが弱くなる。
「戦意を奪うまではいってないから、後はよろしく!」
カグヤは下がる。オレとイッヌは飛び出す。上等だ。月面人フラッシュは、あまり強いと、オレたちまで戦意喪失しちまうからな。しょうがないね。
オーガどもも、勢いは落ちたものの、なおも向かってくる。ちょっとふらついたり、力が入らない程度には弱ってるだろうが、向かってくる奴から返り討ちだ!
オレは飛び上がり、銀丸で先頭のオーガを斬る。遅いぜ、お前ら! 全体的にスローな動きのオーガたち。リーチ差を活かすこともできずに、オレに懐に潜り込まれて、急所を斬撃、斬撃!
ゴールド・ボーイとク・マもそれぞれオーガを倒していく。オーガどもがほぼ攻撃前にやられているんだから、それだけカグヤの魔法が効いているんだな。
イッヌがオーガの集団に飛び込み、奴らの首から上を一噛みで仕留めながら、風の如く駆け抜ける。鈍化したオーガどもに、その動き、追従できず。
気づけば、ダンジョン入り口前の集団は全滅した。お鶴さんやサルも構えていたんだけど、どうやらそこまでオーガは辿り着けなかったようだ。
ま、開けた場所での戦いなら、こんなもんよ。
ゴールド・ボーイが口を開いた。
「あの大集団には度肝を抜かれたが、案外何とかなってしまったな」
「カグヤの魔法のおかげだな」
オーガが、1ランク下のオーク程度まで弱体化したからな。図体がデカくて硬いだけのモンスターになったわけだから、上級冒険者の敵ではない。
「そういや、あの上位オーガはいなかったな」
麓の廃村で、通りかかる人間を釣ろうとしている女オーガ。雑魚をけしかけられたが、その姿が拝めなかったとなると、やっぱシドユウ・テジンにいるってことなんだろうな。
「シドユウ・テジンのオーガってどれくらいいるんだ?」
「さあ、噂だと数十から百くらいはいると推測されている」
ゴールド・ボーイが、ギルド情報を教えてくれた。あくまで推測で、実際はもっと多いかもしれない、と釘を刺されたが。
「うまく行ってれば、今ので半分くらいはやれたってことかな。ようし、イッヌ、先導しろ。待ち伏せに注意な」
どれくらい敵対するオーガが残っているが知らないが、何の捻りもないなんてことはないだろう。
・ ・ ・
何の捻りもなかった。
洞窟は、至る所で火が焚かれていて、明かりには不自由しない。中の広さは、さすが体格のよいオーガすら余裕で通れるだけのことはあり、サルでも余裕だった。ただ、太郎はサルから降りた。頭ぶつけそうで、危ないからだ。
通路を進めば、広い空間に出て、そこに数体のオーガがいた。オレたちに気づくと、それぞれ向かってくる。
こいつら、表でドンパチやっていたのに気づいていなかったのか? いまさら数体なんぞ相手にすらならない。
いや、部屋で弓を構えて待っていたオーガは面倒だった。何せ逞しい筋肉で引き絞った弓だ。放たれる矢は、金属の盾さえ穿つ。……実際、入ってすぐにあった障害物の盾が、オーガの矢で粉砕されたからな。
直撃すればヤバい矢を躱し、まずイッヌが敵陣を掻き回す。さすがうちの突撃隊長だ。弓どころでなくなったところを俺やク・マが飛び込み、戦果拡大。一気に敵を崩壊させる。
「各個撃破だなぁ、こりゃ」
「大集団が待ち伏せできるほど広くないですからね」
お鶴さんが、武具回収をしながら言った。
「大部屋に出ない限り、そのスペースはないでしょう」
「確かにな」
要所要所に家財道具なのかガラクタがあって、大きな木箱があった。宝箱というには生活感あり過ぎて、神秘さは欠片もないが。
「たぶん、酒」
酒器が入っていた。ダンジョンに住むって、こういうことなんだな。……これで得体の知れない骨とか落ちてなけりゃなぁ。人骨じゃねえよな……? オーガは普通に人間を喰うからなくはない。
通路を通ってさらに奥へ行くと……大部屋に出た。
「あらあら、ようやくお出ましぃー?」
女の声。聞き覚えのあるそれは、廃村で立ちんぼしてた上位オーガ。
「いやぁ、肉塊になって来るかと思ったけれど、五体満足で来ちゃったのねぇ。見事見事」
パチパチと手を叩く美女オーガ。大部屋の奥、まるで玉座のような椅子に座っている。随分と余裕じゃねえか。
周りには雑魚オーガが十数体。
「へぇ、通行人を引っかけている雑魚かと思ったら、ここのボスだったかい」
早速、オレから挑発してみる。女オーガは妖艶に微笑んだ。
「人間の癖に威勢のいいこと。お前たち、やっておしまい!」
雑魚オーガどもが斧を手に向かってきた。カグヤ――は、危ねぇ! 後ろに控えてきたオーガが弓を番えて、矢を放ってきた。慌てて後退。カグヤを下手に前に出していたら、やられていたかも。
「やるじゃん!」
ここまでのオレたちの戦い方ってのを、きちんと観察して対策していたようだ。うーん、気にいらねえな。手下を駒扱いしている感じが鼻につく。
雑魚オーガの前衛が迫っていた。今からカグヤの『妖光』魔法は、こっちにも影響しそうなので使えない。
「サル! ハンマーだ!」
『了解』
メカニカルゴーレムが両腕を瞬時に換装して前に出る。岩塊をそれぞれの腕に付けて、迫るオーガに振り下ろした。
脳天直撃、ミンチになるオーガ。サルのストーンハンマー二刀流。超重量ハンマーを片手でブンブン振り上げて、叩きつける。機械の恐ろしいまでのパワーと速度が、瞬く間にオーク肉を製造していく。
後ろから見ていると、サルがモグラ叩きゲームを筐体ぶち壊す勢いでやっているようにしか見えなかった。
まさに圧倒的。一撃でオーガがミンチだから、空恐ろしい。サルは他に比べて足は遅いが、こういう、その場を動かない迎撃だと、その強固な防御力と相まって、強いんだよなァ!




