第31話、桃太郎、子供(太郎)を心配する
襲撃してきたオーガどもは片付けた。まずは第一の襲撃を撃退。さて、残るオーガはどれくらいの規模か。
あの女オーガから、オレたちがここへ来ると聞いて、ひとまず倒せるだろうって数を寄越したと思うが、次はどれくらいを送り出してくるか。
ダンジョンに残っている数が少なければ楽なのだが、まだまだ多くいたとしたら……。まあ、いると考えたほうがいいんだろうな。まだ序の口だろうよ。
「皆、無事か?」
「大丈夫よー」
「こっちも大丈夫です」
カグヤは魔法で、お鶴さんは弓矢で応戦していたが、無事のようだ。
太郎は3メートルモードのサルの背中に乗っていて、いわゆるおんぶされているような格好で、守られていた。そのサルも腕のハンマーでオーガをプレスしていたけど。
「いやー、モモ。噂どおり、凄いな」
ゴールド・ボーイが軽く肩で息をしながら、やってきた。
「オーガの撃破数、俺たちの中でも断トツじゃないか?」
「ま、オレは鬼退治のプロだからな」
「参ったな……。あなたは息も切れてない。全然余裕そうだ」
「そりゃ得物が違うからな。お前は、あんな重い斧を全身を使ってぶん回しているからな。そりゃスタミナ消費量もデカいだろうさ」
オレみたいに、首を落とすんじゃなくて、胴体ごと真っ二つにするだけの力を込めているんだ。威力が桁違いだろうし、それで比べたらお前が一番だろうよ、ゴールド・ボーイ。
「だけどな、敵の倒し方ってのは、一つじゃねえからな」
効率よく、一撃で。力を温存しつつ、長期戦を戦うコツだ。
「オレたちは、これからダンジョンに潜って、さらにオーガどもを倒していかなきゃいけねえ。まだまだ、ここからぜ、ゴールド・ボーイ?」
その点、オレから見て、満点の戦い方をしたのは、イッヌだ。こいつの噛みつきは、異次元に持ってかれるレベルで、ごっそり敵の体を飲み込む。頭からバクリといったら、もうそこでおしまい、一撃死だ。動きもオレと同じく、飛び込みの速さが半端なく、基本一撃離脱なんだよな。ぶっちゃけ、オーガの退治速度を競ったら、オレとタメを張れると思う。
次点は、ク・マ。こいつの場合は、爪と拳を中心に、後は体当たり。イッヌに及ばないが噛みつきもやっていたが、それについては比べるのも論外。
図体がデカいが、リーチは武器を持つオーガのほうが有利のため、オレと同様、どうしても先制を許す形になるが、ひとたびリーチに入れば、豪腕から繰り出される爪が、オーガの首もとをザックリやって、即死でなくとも出血と同時に呼吸困難に追いやり反撃どころでないようにする。そうやって反撃できないところを、頭部への強烈なフックでトドメ。熊のパワーが頭に直撃すれば、そりゃ死ぬよ。
最後が、ゴールド・ボーイことオウロ。これは武器が大斧という特性上、両手を使って振り回しているから、あまり器用に戦えないのも影響している。
力はあるみてぇだし、切れ味鋭い片手斧でも使えば、手数と速さを手に入れられるんだろうが……。でもまあ、スピードが全てじゃねえし、大斧でしかできない戦い方もあるから、今のスタイルを否定はできねえけど。
「太郎」
「何だい、桃さ……桃ママ」
言い直したなこいつ。サルの首の後ろから背中に乗ったままの子供を見上げる。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
「そうじゃなくて、気分は?」
「大丈夫だよ」
「……本当か?」
これまでも、魔物相手に戦っているところは、何度も見てきただろう。襲撃してきた盗賊も返り討ちにしたこともあるが、あっぱりあんまり子供に見せるもんじゃない。
その盗賊の時も、太郎も絶句していた。怖かっただろうし、今回のオーガ集団のそれも、あの時のような状況だ。野生の獣を倒したのとはまた違う。周りは血とオーガの死体だらけだ。
「すまんな。本当なら安全な場所にいてもらうべきだけど、鬼にお前も見られたからな」
「うん、人質にされるほうがもっとトラウマだよね……」
本当にこいつ三カ月かよ、ってくらい賢いよな。聖杯の力か、実は転生者かはわからねえけど、それなりにショックを受けているのは、感じで分かるからつれぇ。気丈っていうか、オレらに心配かけないように振る舞っているようで、胸が痛む。
「怖ければ言えよ? カグヤが魔法で眠らせてくれるから」
「うん、大丈夫」
太郎は、あれで自分に何かできないか、陰で模索しているようなんだよな。サルが教えてくれたんだけどさ。社会勉強というには、ハードなんだよな。ま、連れてくるつもりはなかったけど、巻き込んでしまったオレに言えたことじゃねえが。
「強い子だ」
ゴールド・ボーイが言った。ク・マがオレを見た。
「あんな小さい子に、あまり見せるものではないぞ、モモ殿」
「うるせっ! いや、ご忠告どうも。言われなくてもわかってるさ。それくらいはさ」
「……うむ。余計なことを言った」
家庭のことに口出ししたってか?
「いいや、あんたは正しいよ、優しい熊さん」
さて、そろそろ――いや、一休みしよう。お鶴さんが、オーガの死体から、ギルドに提出する討伐証明部位を切り落としている。その間は休憩タイムで。
カグヤは嫌がってやらないけど、お鶴さんはこういう細かいところは積極的にやってくれる。オレも手伝う――
「鶴ママ、手伝うよ」
「ありがとう、太郎ちゃん」
サルが屈み、太郎が飛び降りた。解体道具を取り出して、オーガの死体に向かう。……言ったそばからこれだ。倒した獣の解体や魔物の部位回収も、そのできることにしようとしているんだよな、太郎は。何かもう自活できるように色々学習してて、偉いと思う反面、そのチャレンジ精神が怖くなる。
ただ、太郎が『大丈夫』と答えたのが、虚勢じゃないって思えてきた。少しずつだけど、確実に慣れてきている。素直に喜んでいいのかは疑問だけど、解体をやっていれば血やその臭いにも対応して、グロ耐性がついてきているかもしれない。……こういうところで、子供って、親の環境に適応して、似てくるんだろうな。
せっかくやる気を出しているところを、止めるのはよくないので、オレも討伐証明部位の回収を手伝いつつ、太郎を見守ろう。
前世でも前々世でも、オレは実際に子供はいなかったから、あんまり教育のことを上手くやれる自信はないけど、太郎は守ってやらないといけないって気持ちに偽りはない。
何だかんだ情が移ってるんだ。赤ん坊の頃から、わずか三カ月とはいえ、ずっとそばで見ていたからな。
異常な成長速度だけど、やっぱ育っていくのを見ると、嬉しいもんだ。母性と、前世の男だった頃の父性もあるかもしれない。
必要な部位や、売り物になりそうな武具などを回収し、少し休んだら、シドユウ・テジンダンジョンに向かう。
なお、回収外のオーガの処理は、イッヌが後始末した。




