第27話、桃太郎、金太郎?に出会う
大柄な熊獣人と、黄金装備の青年戦士。それがガーラシアの冒険者ギルドの入口フロアでオレたちの前に立ち塞がった。
「いま何つった?」
友好的ならまだしも、敵なら外で相手するだ? ただギルドに来ただけで、何でそんなことを言われなきゃいけねえんだ?
「いきなりご挨拶じゃねえか。ガーラシアの冒険者ってのは、よそから来た冒険者にいきなり武器を向けんのか? いいぜぇ、売られた喧嘩は買ってやんよ!」
オレも銀丸を抜いた。
「武器を向けたのは、てめえが先だぞ。わかってんな?」
冒険者ギルドでは、決闘は基本ご法度だ。最悪、除名騒動にもなるが、武器を向けられた以上、命を守る場合は例外だよな?
「ちょっと、桃ちゃん!」
カグヤの声が割って入った。
「ギルドで争ったらまずいでしょうが――。ほら、そこの黄金の人、私たちは旅の冒険者ニューテイル。ダンジョン探索のための情報収集と、ちょっとした挨拶に来たのよ」
前に出て、冒険者証を見せるカグヤ。黄金装備の青年は、怪訝そうな顔で、カグヤの冒険者証を見やり、首を傾げた。
隣りの熊獣人は口を開いた。
「オウロ、ニューテイルと言えば、巷で噂のダンジョン・アタッカーだぞ」
この熊は、ちっとはオレらのことを聞いたことがあるようだな。オウロと呼ばれた黄金野郎は少し考え……。
「あぁっ! あの狂犬モモが率いる変わり者パーティーかっ!?」
「あぁ? 誰が狂犬だこらぁ」
「桃ちゃんさん、そういうとこですよー」
お鶴さんが小さく言った。オウロとかいう黄金野郎は大斧を引っ込めた。
「これは大変失礼をした。どこぞの武装集団がガーラシアに攻めてきたものと勘違いしまして。申し訳ない!」
すっとオウロは頭を下げた。お、おう。勢いはあるよな。さっきから声もハキハキしていたし、何というか嫌味がない。
けっ、まあ、誤解だっていうなら、オレも矛を収めてやらぁ。
というか、この黄金野郎、何か既視感あるんだよな。
大きな熊。大柄な体躯。斧。装備の色、というか金。
「お前、前世は金太郎だったりする?」
・ ・ ・
「――前世、と言われても、俺にはピンとこないな。キンタロウ……それがあなたの知り合いかもしれないが、俺には心当たりがない」
オウロは丁寧な調子で言った。
ガーラシア冒険者ギルドの休憩所の一角に場を移してのお話し合い。
オレは、オウロから、昔話の金太郎要素を見出し、もしかしてと思ったが、本人には前世の自覚はなし。単に前世はそれだけど気づいていないか、もしくは偶然というパターン。
まあ、普通に考えれば後者なんだけど、どうもオレの周りでは前世因縁のある奴が少なくないんで、ひょっとしたら、と思ったんだ。
「それにしても、いきなり武器を向けることはないだろうがよ」
「いやー、申し訳ない。何せ巨大狼とゴーレムを連れ、如何にも強者オーラをまとったあなたがやってくれば、殴り込みかと思うのが普通」
「いや、普通じゃねーから!」
他の冒険者ギルドじゃ、初見でもそんなことなかったから!
「それを言うなら、こんな美人と――」
カグヤを指差し、そして太郎を指差す。
「こんなガキを連れて殴り込みかけてくる奴がいるかよ」
「いや、本当、申し訳ない」
「まあまあ、桃ちゃんさん」
お鶴さんがなだめてくる。
「イッヌさんやおサルさんを見て、びっくりされる方もいますから」
「でもよ、本当に殴り込みをかけてくるような奴らだったら、町の門辺りで揉めて、町中でドンパチやってただろうぜ? ギルドに着くまで何の騒ぎにもなってないわけないじゃん」
「いや、わからぬぞ。モモ殿たちが、門番を軽くのしてしまい、誰も報告できる状態ではなかった、という可能性も……」
座ってもデケェ熊が何か言ってる。オレが眉間にしわを寄せて見上げれば、オウロが口を開いた。
「彼は、俺の相棒であるク・マ。見ての通り熊獣人だ」
「クマ?」
「ク・マ。ク・マ、だ」
うぜぇ……。何か馬鹿にされたみたいでうぜェ。まあいいや。
「とりあえず、迷惑料代わりに、ここの代金はそっち持ちな」
「もちろん。君たちには迷惑をかけた。ぜひ払わせてもらう」
話しているといい奴っぽいよな。この黄金野郎は。何というか、爽やか系? 飛びぬけてイケメンとかそういうのではないが、何というか明るさで人気が出るタイプ。
「あと、オレらにここら辺の話を聞かせてくれないか。ダンジョン絡みがあれば、それ優先で」
どの道、ギルドで情報収集しようとしていたから、ちょうどいい。装備の金ぴか具合からしても、こいつはここの上級冒険者だ。そこらの奴より詳しいだろう。
「君たちはダンジョン・アタッカーらしいからな。ダンジョンねぇ……」
オウロは考える。
「この辺りは、ダンジョンが多いからな。大体のところは話せるが、何か希望はあるかい?」
「できれば、まだ未開で宝物がある可能性のあるところから!」
カグヤが早口で言った。自身の呪いを解く鍵になる五つのお宝を探している彼女である。すべて開拓され、お宝も残っていないダンジョンは、カグヤにとって価値はない。
「ふうむ。未開というのなら、いくつかあるが、一番わかっていないといえば、シドユウ・テジンだろう」
「詳しく。ゴールド・ボーイ」
オレが言えば、オウロはキョトンとする。
「それは、俺のことか?」
「お前以外、誰がいるんだ?」
黄金装備を纏っているだけで、名前を知らなくても、あの人だってこの町なら皆知ってるんじゃないかな、黄金太郎、いや金太郎よ。関係あろうがなかろうが関係なくそう呼ぶ。渾名ってのはそういうもんだろう。
ク・マが頭を傾けた。
「いいのか、オウロ。シドユウ・テジンは――」
「あぁ、ダンジョンであり、同時にオーガどもの拠点でもある。危険な場所だ」
オーガの巣だって? へぇ、いいじゃん。
「その話、もっと聞かせろよ、ゴールド・ボーイ」
血が滾ってきたぜェ……。




