第26話、桃太郎、ガーラシアの町に到着する
愚者の森から、唐突に霧が晴れた。
はぐれちまった太郎とイッヌを探し始めた矢先だった。そしてすぐに、太郎とイッヌと合流できた。心配かけやがって。
「無事そうで何よりだな。……その杖はどうした?」
霧の中で見かけた光のような、青白い炎が揺らめいている。その杖、松明か?
「ウィリアムさんの遺品」
太郎が答えた。
「ウィリアム? 誰だ?」
「この森を彷徨っていた死人。人魂の正体だよ」
聞けば、この森を永遠に彷徨い、旅人を迷わせたりしていた人魂が、ウィリアムっていう奴らしい。悪党らしいが、天国にも地獄にも逝けずにいたんだそうだ。成仏できなかった霊ってやつだな。
「で、そのウィリアムって幽霊はどうした?」
「それは……」
太郎が困ったように、イッヌを見下ろした。
「イッヌさんは、冥界に送ってやったって」
「あぁ……」
つまり、食っちゃったのね。この食欲無限の狼め。とうとう幽霊まで食っちまったか。
カグヤが苦笑した。
「まあ、フェンリルは神だって喰らうって伝説もあるからね」
「幽霊だって食えるってか」
深く考えるのも負けな気がする。どうせ合理的に説明できない力とかが働いているんだろう。
「何にせよ、よく太郎を守ったな、偉いぞー、イッヌ」
わしゃわしゃと撫でてやる。モフモフだぁ。
「とりあえず、太郎。その杖、お鶴さんに調べてもらうから、もらうぞ」
というわけで、ウィリアムとかいう人魂が持っていたという松明を、お鶴さんに渡す。……人魂って松明、持てるのか?
何はともあれ、愚者の森を無事通過だ。ちょっとした遭難もどきはあったけど、全員無事でよかったよかった。
「――で、どうしたん、カグヤ?」
「イグニス・ファトゥウス……なるほどねぇ」
「何だよ、教えろよ」
「何であの森が愚者の森って言われていたのか、理解したのよ。イグニス・ファトゥウスっていうのは、愚者火って意味があるの。つまり――」
「愚者火の森から転じて、愚者の森、か」
なるほどねぇ。オレは太郎を見た。
「また一つ賢くなれたな」
・ ・ ・
街道を歩くことしばし。やがて、視界にそれを捉える。
「町が見えてきたわ。ガーラシアよ」
カグヤが指し示した。
ガーラシアの町。魔物の出没が多い土地柄か、当然の如く外壁に囲まれている。この町近くには、ダンジョンが比較的多いっていう話だから、オレたちニューテイルにとっての当面の拠点になるだろう。
町に入る前、つまり門には警備の戦士が立っていた。おそらく自警団だろう。……おいおい、そんなに見るなよ、恥ずいじゃねえか……。
「そりゃイッヌやサルを連れているんだもの、目立って当然でしょう?」
カグヤに突っ込まれた。言われなくてもわかってるよ。これまでもそうだったからな。
「ご苦労様ー」
カグヤが先頭に立って、門番に声を掛ける。これでカグヤは絶世の美女。フードで隠していないと、まあ大抵の男は彼女に視線が釘付けになる。
これでフェンリルやメカニカルゴーレムより男の注意を引けるっていうから、どれだけ美人なのかはわかるだろう。さすが、前世で時の帝と貴族たちを虜にした女だ。
「冒険者パーティー、ニューテイルよ。ダンジョン探索の拠点に、しばらくこの町に滞在する予定」
カグヤが言えば、門番も緊張して受け答えしている。ほんと、揃いも揃って、カグヤばっかり見ているな。……話している奴はともかく、それ以外の奴は仕事しろよ。
冒険者証を見せ、一応全員の確認。そこでようやくフェンリルやゴーレムを見たが、特に暴れる様子もなく、大人しいので、門番たちもホッとしていた。
「お噂はかねがね。ようこそ、ガーラシアの町へ」
「どうもー」
問題もなく、町に入場。新しい町ー。いつものように住人たちから、変わり者集団に向ける目が注がれる。
「まずは、冒険者ギルドに顔見せだ!」
この辺りはもう慣れたもんよ。移動するだけで注目されるので、自己紹介はいらねえかな、わはは!
ガーラシアの冒険者ギルドに到着。いつものように、サル。お前はここで待って――
『モモ、見てください。ここのギルド入口』
サルが珍しく声を弾ませた。
『ワタシでも入れそうです』
「本当だ」
ギルド入口は、長身の人間でも入れるようにはなっているが、メカニカルゴーレムであるサルの場合は、ギリアウトな場合が多い。なので割と外でお留守番なパターンが定番になっている。
一応、二メートルと少しくらいまでサイズダウンできるのだが、その分のパーツを背中のボックスに収納する結果、屈んだ時にボックス頭が引っ掛かりやすくなるんだよな。それで身動きとれなくなっちゃうやつ。それで一回、どこの町だったかのギルド入口を壊したことがあった。
「お前に負けず劣らずデカい奴がいるのかな?」
それとも大荷物を、運び込んだりする搬入口を兼ねているかもしれないな。普通はそういうのは裏手に作るもんだけど。
「んじゃ、全員でお邪魔すっか!」
お留守番がいないなら、皆でガーラシア冒険者ギルドにお邪魔する。できればいつもこうでありたい。オレがいないところで、うちのメンバーにちょっかい出されても困るからな。
結構、興味本位で絡んでくる奴はいるんだ、どこにでも。
・ ・ ・
はぇー……。入口がデカいわけだ。
オレたちの前には、熊頭の獣人がいた。軽く2メートル超えの長身、というか熊である。二足で立ち、重甲冑を纏うその姿は、まるで戦車みてぇだ。……ムキムキだ。
そしてもう一人。
「やあ、見慣れないね、君たち――」
黄金の鎧、全身黄金装備の青年が、熊戦士の横に立っていた。これも中々の長身だ。
「ガーラシアにようこそ、と言いたいところだが、ここに来た理由と、できれば正体を教えてくれまいか?」
黄金青年は、背中に担いだ大斧を取った。
「友好的な存在であると思いたいが、もし敵対する者であるなら、どうか外でお相手願いたい」
何言ってるんだ、こいつ?




