第22話、桃太郎、子を引き取った結果
キヌウスダンジョンからの帰還。未踏場所の探索と、水上遺跡、そしてメカニカルゴーレムの回収など、オレたちはアイバンの町で、またも話題を独占しちまった。
フェンリルの時点でも大概だけど、古代文明の機械ゴーレムなんて拾ってきたら、まあ騒ぎにならないはずがないんだよな。
なお冒険者ルールとして、ダンジョンで見つけ、回収した物については発見した冒険者に所有権がある。だからメカニカルゴーレム『サル』は、オレんところでの預かりとなった。
「――それで、モモさん。パーティーを組んでいるみたいですけど、名前はありますか?」
冒険者ギルドから、そう確認された。パーティー名か――
「ニュー・テイルとか……?」
「新しい尻尾?」
カグヤの言葉にオレは顔をしかめる。
「テールじゃねえ、テイルだ。物語だ物語。新しい物語」
オレら、前世とかが昔話と関係あるじゃん? その対比っていうか、前世は前世として、新しい人生、新しい物語を歩んでいこうぜ、って意味を込めたんだけど、どうよ?
「いいと思います!」
お鶴さんは賛成してくれた。カグヤも悪くないかも、と了承した。
ということで、オレたちのパーティーは『ニューテイル』だ。
これからガンガン、未開のダンジョンを探索して、お宝や異世界遺物をどんどん見つけてやるぜ!
オレたちの戦いはこれからだ――なんて、打ち切りマンガみたいなノリは置いておき、オレたちの冒険者としての旅は本格的に始まったわけだ。
ダンジョンの情報を集め、時に現れる魔物退治などをこなしていく。アイバンの町を出て、ダンジョン求めて移動する。
そして、三カ月の時が流れた――
・ ・ ・
「おはよう、モモさん。そろそろ起きたほうがいいよ」
「あー?」
子供の声に目を覚ます。見上げた天井は、天幕の中。欠伸が出る。
外に這い出せば、そこは森の近く。お鶴さんの移動工房や馬車で、即席の野営地となっていた。
「おはようございます、桃ちゃんさん」
「おはよう、お鶴さん。……ふああぁ」
またも欠伸。そこへ少年がカップを持ってきた。
「モモさん、寝覚めの飲み物」
「ん、あんがたよ、太郎」
「……舌が回ってないよ、モモさん」
少年――太郎は肩をすくめた。見た目は、五歳くらい。黒の短髪、どこにでもいそうな平凡な奴だ。
だが、はっきり言えば、普通じゃない。何故なら、コイツ――太郎は、三カ月前は赤ん坊だったんだから。
そう、例の川から流れてきた大きな桃に入っていた赤ん坊だ。結局、放り出すことができなくて、オレたちで育てることにした。……それがどうだい。わずか三カ月で、五歳児くらいに成長しちまった。
名前は、太郎。桃から生まれたから桃太郎ってのは、さすがにオレと名前が被るから、じゃあ『太郎』ってことで落ち着いた。
「……昔話なら、なくはない話なんだけど」
「ん? 何か言った? モモさん」
「お前だよ。……また少し伸びたんじゃないか?」
「かもね。育ち盛りだから」
「よく言うぜ」
さすがに、現実で三カ月で五歳児はない。しかもこいつ、見た目五歳でも、精神年齢はもっと上だ。まだまだガキだし、経験の浅い素人には間違いないんだけど。
「桃に入って流れてきた奴が普通なわけないわな」
「またその話かい? ボクは本当に桃に入って流れてきたの?」
覚えてないって面しているけど、事実は事実だ。お鶴さんは口を開いた。
「そうですよー、太郎クンは、桃から生まれた子なんです」
「ま、成長の原因は、聖杯のせいだろうけどな」
キヌウスのダンジョンの深部祭壇の中にあった『聖杯』。赤ん坊だった太郎が泣き喚いた時、玩具のガラガラ代わりに聖杯を渡した。それで大人しく……なるわけないんだが、何だかんだその後気に入ったのか、ずっと持っていた。
「持っているだけなら、ただの聖杯だったんですけどねぇ」
お鶴さんは首を傾げた。
「雨水でも入ったのか、聖杯で水を飲んでから、おかしなことになりましたから」
「そ、そんな目で見ないでよ!」
太郎がビクリとするが、オレはまだ何も言ってないぞ。お前が何かしたんじゃねえかって、これっぽっちもな。
「聖杯の力だとは思いますけど、太郎クンは、とても賢い子になってしまったんですよね……」
非常に物覚えがよい。賢い。魔法を覚えた。字も読めるし、書ける。簡単な計算もできる。天才じゃないかって。……なあ、太郎よ。お前も実は前世持ちで、実は人生二度目とかじゃねえの?
カグヤやお鶴さんは、現代を知らないから、太郎を天才と思ってるようだが、オレは前世で読んだ異世界ラノベやアニメのショタ主人公パターンって奴を疑っているんだぞ?
「……」
太郎が気まずげに視線を逸らす。こいつ、妙に聡いんだよな。聖杯の何かしら効果のせいか、いまいちはっきりしないけどさ。
手のかからない、非常に聞き分けがよくて、迷惑をかけないとなると、まあ周りが放っておかないわけだ。自分の子より人様の子にいい顔をする親よろしく、カグヤやお鶴さんは、すっかり母親気取りで、太郎の面倒を見ている。自分たちを『ママ』と呼ばせるくらい気に入っている。
それは五歳くらいになった今も変わらない。自分が生んだ子供でもないのに、ここまで面倒見れるのも、太郎の面倒のかからなさも影響していると思う。……見た目は可愛いのは認める。
「ところで、太郎」
「な、何、モモさん……!」
「……お前、最近桃ママって呼ばないのな」
「! いやだって、モモさん、ママ呼びしたら、ママじゃないって怒ったじゃん!」
太郎が反論した。そうなんだよなぁ……最初は、何か嫌だったんだよな。カグヤママ、鶴ママときて、オレのこと『桃ママ』って、二人が呼んで、うっせっ、ってなったんだけど、最近は慣れたというか、オレだけママ外されて少し寂しいっていうか……。
「一応、オレ、お前の面倒を見てきたつもりなんだけどな……」
「……わかってるよ。モモさん……桃ママには感謝しているよ」
「ならよし!」
拾った子だけど、拾ったからには責任を持って育てる! 口先だけ綺麗事を並べて何もしない奴には、なりたくないからな。オレが腹を痛めた子でなくても、太郎はオレの子供だ。
コイツの本当の親が何者で、どうして桃に入れて川に流したか知らないけど、親を知らない太郎の親代わりにはなってやるつもりだ。
……お前のママじゃねえよ、と本当のことでも、本人が聞こえるところで言ってしまった当時のオレはさすがに反省している。
ただ、賢い太郎は、オレやカグヤ、お鶴さんが本当の親じゃないのを理解しているし、自分から言える強い子ではあるんだけど。……だからこそ、いじらしくもあるわけだ。見た目五歳児が、ここまで達観しちゃってるのを見るとさ。




