第21話、桃太郎、SAL-Gと遺跡探索する
さるかに合戦は、民話である。
要約すると、親蟹を猿に殺された『子蟹たち』が、猿被害者の会と共に報復する話だ。猿に悩まされていた被害者たちというのは、栗と臼と蜂と牛糞(?)――地方だと招集メンバーが異なるようだが、まあ、猿によって殺された子蟹の復讐物語である。
前世の昔話では、もう少しマイルドな表現になっていたけど、本家だと親蟹が柿をぶつけられて死ぬわ、報復された猿も最期は臼に潰されて死ぬとかいう、エグい話だったりする。
オレやかぐや姫以上に、明らかにキャストがファンタジー過ぎる昔話であるが、この異世界の大昔に、臼にプレスされて死亡した猿が転生し、メカニカルゴーレムの制御装置の一環として、記憶を移植されるとか……これは前世の行いの罰ゲームなのだろうか?
なお、このSAL曰く、オレの前世の昔話で語られた極悪猿ではなく、ちょっと怠け者で、蟹とおにぎりと柿の種を交換はしたものの、カニの育てた柿の木の柿も、事故なのだという。
そもそも猿曰く、蟹はとんでもなくお人好しで、柿の木に柿がなった時も、自分ではとれないから猿にとってもらう代わりに分配しよう、と言ったらしい。猿も小狡い程度の怠け者だったから、蟹の申し出に喜んで手伝った。お互いに親切心だった。そんな中、投げた柿がまさか蟹に直撃し、殺してしまうとは思っていなかった猿である。
重ねて言うが事故だった。しかし、周囲の猿への、怠け者で小狡い性格から来る偏見は凄まじく、わざと殺したと話は大きくなり、結果リンチの末、猿は殺害されたのである。
……うーん、オレの知っている話と違うなぁ。果たして昔話が事実なのか、加害者とされている猿の証言が事実なのか。歴史ってもんは勝者が正義で書かれるものであり、都合の悪い部分は残されない。かといって、本人の弁明や釈明も鵜呑みにはできない。
でもまあ、あくまで猿の前世の話であり、ぶっちゃけ今やこれからのことにはあまり関係がない。前世の行いを裁く権限はオレたちにはないし、そういうのは地獄や天国ってところで決められるもんだろう。
閑話休題。
とりあえず、動くことができるようになったメカニカルゴーレム――SAL-Gことサルは、オレたちを新たな主と定めて、行動を共にすることになった。
「これで桃太郎のお供の猿枠が埋まったわね」
何故か、そこでドヤるカグヤ。お鶴さんに、昔話の桃太郎のお供、犬、猿、雉の中の、猿枠ではないかと言われたのを根に持っていたようだ。……ま、オレには関係ない。
それはさておき、SALは、古代文明で作られた機械のゴーレム、メカニカルゴーレムというらしい。
それもかなり特殊な型らしく、体や装備を変形によって変えることができる。初対面は、3メートル強のゴリラっぽい姿だったが、今では2メートルほどの背筋が伸び、背中にバックパックを背負ったゴリラのようになっていた。
オレたちが、この遺跡に財宝や希少品などを探しにきたといえば、遺跡調査にさっそく力を貸した。
ストーンハンマー――手を岩塊に変えて、それで対象物を叩く。半端な壁を破壊し、リザードマンをミンチにする。
スピナーニードル――同じく手を鋭い針状の突起に変えて、高速回転させて対象を貫く。先のリザードマンも、殺人蜂も、当たれば串刺しだ。
攻撃はもちろん、メカボディのおかげか防御力が高く、殺人蜂の極太毒針も通さず、リザードマンもお手上げという始末だ。……つよっ!
便利なのは、周囲の一定範囲をスキャンして、物体や位置把握ができること。宝物探しが捗るな。
『――モモ様。箱状の物体を検知しました。この部屋の隣にあります』
「でかした! ……様をつけるのはやめろ」
むず痒いんだよ、様付けは。
「あら、私は様をつけていいのよ?」
『わかりました、カグヤ様』
サルは素直だ。ストーンハンマーで、ちょっと意匠の凝った扉を破壊。砂埃が舞ったが、いざ次の部屋へ。
「何か出たぞ」
「まるで王の間とか、祭事をする部屋のようね」
カグヤがそう表現した。石造りの室内は、半ば神殿のようでもあり、奥に祭壇のようなものが見えた。……言われてみれば、人を集めて、偉い人が演説やら説教をする場にも見えるな。
「なあ、サル。箱状の物体って、もしかしてアレ?」
『そうです。……どうやら祭壇だったようですね』
あくまでそれっぽい形をしている物が検索対象だからな。その言い分で、言えば棺だって対象になりそう。
『ただ、この祭壇の中に何かあるようです』
「マジか」
「何があるかわかる?」
カグヤが問うた。兜頭の奥、目を光らせながら、サルはじっと祭壇を凝視した。
『何やら、器のようなものが見えます』
「器ァ?」
「ま、まさかそれって――!」
カグヤが祭壇に取り付いた。
「もしかして、『仏の御石の鉢』!」
カグヤが探している、伝説のレアアイテム! 前世の竹取物語において、かぐや姫と結婚したいと申し出た男たちの一人に、見つけてこいと指定した品だ。
確か、お釈迦様が使っていたとされる神々しく輝く石で出来た鉢だ。前世の世界はともかく、この世界にお釈迦様はいないと思うんだけど……。異世界漂流物が宝物として出てくる世界らしいから、なくもないらしい。
オレとしては初ダンジョンで、まさかカグヤの探し物が見つかるとは思っていなかったが、彼女からしたら、もう何度目かわからないダンジョン探索だから、見つかればうれしいだろう。……本当に、探し物の御石の鉢だったならな。
「罠とかは大丈夫か?」
『祭壇とその周りに、仕掛けはありません』
サルが確認した。ようし、じゃ、開けようか。オープン……!
「ッ!!」
黄金に輝く器が出てきた。器……器ではあるが、鉢ではない。黄金ではないようだが、黄金色に輝いているところからして、これは何らかのレアな品なのは間違いなさそうだが……。
「探している仏の御石の鉢ではないわね……」
カグヤはガッカリした。でもこれ、オレ、前世で見た『聖杯』ってのに似ている気がするんだけど……。いや、もちろん、本物は見たことないけど、何となく、さ……。
・ ・ ・
結局、その器も持ち帰ったんだけどな。
水上遺跡の探索により、オレたちは、メカニカルゴーレム、その駆動動力と言えるエナジー石、聖杯(?)、石臼(?)、柿の種他、古代文明時代の武具数点と、硬貨らしきもの数十枚を入手した。
まー、桃がいきなり出てくるとは思っていないけど、初めてのダンジョン探索にしては、まあまあの戦果だったんじゃないか?
キヌウスのダンジョンを出ると、お鶴さんの馬車が、すっと姿を現した。……消える車とか、何気に凄いよな。
「お帰りなさい、桃ちゃんさん、カグヤさん」
「おう。赤ん坊はまだ寝ているか?」
巨大桃に入っていた赤ん坊のことを聞けば、お鶴さんはまだ寝ていると答えた。なおその視線は、イッヌと何やら話し込んでいるように見えるサル――メカニカルゴーレムに向いていた。
「成果はどうでした?」
「変なものばっかり見つかったよ。アレも含めてな」
クラフターであるお鶴さん的に、ゴーレムは気になるか?
「話せば長くなるが……まあ、楽しかったよ、個人的にはな」




