第20話、桃太郎、メカニカルゴーレムと遭遇する
「カグヤー、さっき宝物から拾った勾玉っぽい宝石と合いそうな窪みがあるんだけど、こっちに投げてくんね?」
ロボットだかゴーレムだか御神体だか、よくわからないものの背中からオレが声をかければ、下にいたカグヤは、収納魔法で目当ての宝石を出した。
「これ? 投げるけど、ちゃんと取ってよね!」
「そりゃお前のコントロール次第――おっと!」
危うく後ろの壁にぶつかるところだった。あっぶねぇなぁ……。投げろ言ったのはオレだから、文句は言わないけどさ。
さてと、この首後ろの円、その中の窪みに宝石をはめ込めれば……おしっ、ピッタリ! 予想通り!
「……どう?」
カグヤが見上げてくる。
「そう急くなよ」
はまったけど、偶然ってのはなしだぜ。オレは反応を窺う。
「………………」
ダメかな、これ。たまたまか形が合っただけか、普通にこのオンボロが壊れているのかもしれない。
「……お?」
宝石が光った。すると小刻みに振動し始めた。動くか、こいつ!?
背中のスティック二本を握り込む。とりあえず、動かしてみっか。わかんねえけど、右のスティックを前に倒す。感覚的には腕が動いたら、と思ったんだけど――なんだよ動かねぇ。固定されてんのか、このスティック!
『ロックガ、カカッテイマス。現在、オートモード』
明らかな機械音声。オレもビックリだが、カグヤも驚いた。
「しゃ、喋った!?」
「おう、喋ったな」
『動作カクニン、シマス。機体カラ、降リテクダサイ』
クルンと頭が後ろに回って、オレを見た。うわっ、頭が180度回転とか、きめぇ。やっぱ機械だわ。
せっかく登ったのに降りろとはつれないが、動作確認にガタガタ振動しているのを見ると、確かに従ったほうがよさそうだ。爆発したら困るもんな。
オレは、飛び降りて、カグヤと共に少しコイツから距離を取る。
「桃ちゃん、これ何?」
「さあ、ロボットっぽいけどな。この世界じゃゴーレムって言うんだっけ?」
「喋るゴーレムって、私聞いたことないんだけど」
オレも聞いたことないよ。そもそも前世でのゴーレムなんて、ゲームやマンガの世界でしか知らないぜ。
オレたちが見守る中、ロボットだかゴーレムが、ガタガタと自身の体を動かしている。動作確認って言ってるけど、関節とか動かすたびに細かな砂埃が出ているような。
とそこで突然ガシャンガシャンいいながら大きく動き始めた。まるで立体的なパズルのように自身を組み替えているような感じに変形していき――一回り小さくなった。
「エェ……」
3メートルくらいあったものが、2メートルほどに縮んだ。いやまあ、オレらからしたら、それでもデカいんだけど。
『カニィ……』
エェェ……。何か変なことを言っているよ、コイツ。カニが何だって? コイツの真ん丸な目が、オレとカグヤを見た。
『お待たせ致しました。ワタシはSAL-G・MKⅡと申します』
突然、自己紹介を始めた。
「エス、エー、エル? SAL……サル? 姿はコングっぽいのに、サル?」
『サル……? それはワタシの呼称でしょうカ? 保存。ワタシの名前は「サル」で登録致しました』
何か猿で登録されてしまったぞ。そんなつもりはなかったんだけど。
「えー、とサル?」
カグヤが一歩進み出た。
「あなたは、一体何?」
『ワタシは、汎用戦闘型ゴーレム、SAL-Gタイプ、そのマークⅡモデルでございます』
「……わかる?」
カグヤがオレに振った。まあ何となく。
「戦闘用のゴーレムの、エスエーエル・ジーとかいう型なんだろ。マークⅡってことは、その後継機とか改良型だろうよ」
で、そこからかくかくじかじか、サル・ジーから聞き取り。
どうも今は亡き古代文明が作り出したメカニカルゴーレムという、機械のゴーレムなんだそうだ。サルが言う文明は、カグヤ曰く、もう滅びたというのだから間違いないだろう。
で、ここからがやや特殊な話――
『実ハ……ワタシは前世は別の生き物だったのです』
コイツも前世の記憶あり? というか機械に前世なんてあんのかよ?
「どういうこと?」
『ワタシは、とある生き物の記憶を、このメカニカルゴーレムの体に移されたものなのです』
……さらっと恐ろしいこと言いやがったぞ、コイツ。
すると何か? 滅びた古代文明ってやつは、生き物の思考、記憶を機械に入れていたってことか? オレもよくわかんねえけど、サイボーグとか機械の体に脳を移植するとか、それ系の?
カグヤは聞いた。
「それで、あなたは前世の生き物というのは?」
そ、そうだ。人間じゃなくて、生き物って言ったよなコイツ。
『ワタシの前世は、猿です』
「サル……」
「猿……モンキー?」
時々機械音声でおかしいところはあるが、普通に人語を喋っていたけれども。猿……猿かぁ。いや、まさかね――
「ひょっとしてだけど、お前、桃太郎って知ってる?」
『モモ、タロウ……。イイエ、記憶にございません』
お前、オレを馬鹿にしたわけじゃねえよな? その言い回し、何か化かされているみたいで鼻につくんだが。
『記憶によれば、よれば……ヨレバ』
「お、おい、大丈夫かよ!?」
突然、音声が乱れたような、記憶回路がぶっ壊れたような雰囲気になる。
『ワタシは……カニを……コロシ、ました』
無機的なメカ頭のはずなのに、感情的に聞こえた。蟹を殺しただぁ? 何を言ってるんだお前。
「それならオレは、オーガもリザードマンも斬ったぜ?」
どうせカニの魔物か何かじゃねーの? 大したことがないと思うオレだけど、カグヤはサルに問うた。
「そのカニをどう殺したの? そんなトラウマを抱えるようなものだった?」
『柿をぶつけました。カニが育てた柿の木の柿を、とってあげたのです。ワタシが投げた柿が直撃し、カニは……そのまま』
柿の木。柿に潰されたカニ。猿――あっ!
「さるかに合戦だ!」
こいつも昔話にあるやつじゃねえか! え、何お前。日本からこの世界に前世持ちの猿として転生して、その後、この世界の古代文明にメカニカルゴーレムの頭脳として移植されたの?
というか、カニを騙して殺した極悪猿じゃねえか、お前!




