第19話、桃太郎、遺跡のお宝を見つける
遺跡で見つけた最初の宝物は、石臼だった。……帰りたい。
そっと蓋を閉じようとするオレだけど、カグヤの手がグァシっ、と掴んだ。
「ダンジョンのお宝なのよ。たぶん、これはただの臼ではないわ」
「そうかなぁ……」
見たところ、どこにでもありそうな石臼だ。取っ手があって、ぐるぐる挽いて粉にするタイプの。
「忘れた? ダンジョンのお宝には、たまに異世界遺物があるって」
「遺物っていうか、異物の間違いじゃね?」
宝物には見えないな。カグヤは言った。
「とりあえず、収納魔法で持って帰るわ。使い道はなくても、鑑定したら値打ちものかもしれないし。大金持ちになれる可能性を捨てることもないわ」
「まあ、そうだな」
調べてみたら、意外なレアものの可能性もあるよな。伝説の王様が使った道具だったとか、高名な芸術家が作ったレア道具とか……ないか。カグヤが収納魔法で運んでくれるって言うなら、オレの荷物になるわけでもないしいいか。
そのカグヤは帽子の位置を直した。
「さっ、気を取り直して、探索を続けるわよ! まだ、宝物はあるはずだわ!」
もちろん希望であって確定ではない。
殺人蜂やリザードマンもどきを切り倒して、さらに遺跡内を巡る。水路に落ちたリザードマンの死体に、シオマネキが集まって解体、食っていた。うげぇ……。
途中で、武器や防具などが捨てられているのを見つけた。遺跡で朽ちている、というわけではなく、かといって新品でもない。適度に使い込まれたそれには、血の跡がこびりついていた。
「……」
「たぶん、私たちより先に、この遺跡辺りにきた冒険者のものじゃないかしら?」
カグヤはそう推理した。ハチやトカゲ野郎にやられ、これはその遺品ってところか。オレらもやられたら、装備は適当に捨てられるんだろうな。
ちょっとセンチメンタルになりつつ、先を目指す。そこで、イッヌが警告するように吠えた。開けた部屋、石材の床――ふむ。俺は手をついて、床の高さで部屋を凝視。……微妙に窪みがあるのは、スイッチ――トラップ床かな。その上を見上げると。
「わお、落石トラップか」
天井に穴が空いていて、岩塊が収まっていた。床のスイッチを踏んでしまうと、降ってくる仕掛けなんだろうな。危ない、危ない。
罠の部屋を抜けると、小部屋が複数ある通路だった。罠などに気をつけて部屋を覗き込むと、おっ、宝箱発見!
「今度は臼じゃねえよな?」
「開けてみればわかるわよ」
一つ目。小さな箱。中身は……。
「種……?」
「柿の種っぽい」
見覚えがある。異世界品種の柿の種だったりして。こういうのがあると、桃が宝物として出るかもって気にもなるよな。
次――ダーツが飛び出す罠を掻い潜り、次の箱を開ける。
「シオマネキのデカいほうのハサミ?」
巨大シオマネキを見たせいで錯覚したが、よくよく見れば小手系の装備だった。片腕に装着し、握り込むと巨大ハサミでチョッキンする攻防どちらにも使える代物だ。
「サイズが自動で修整されるんだなぁ。割と面白い」
オレの腕には大きいかと思ったが、すっとピッタリに小さくなった。ハサミは閉じていると剣のように鋭く、突きもできる。しかもハサミは展開状態と収納状態を選べる。他の武器を使う時は、ハサミは邪魔だから干渉しない位置に動くのはよい。
「宝物というには微妙だけど、初めてまともなものが出た」
オレが言えば、カグヤは手を振った。ノーコメントらしい。
そして次の宝箱はっと――
「宝石? 勾玉?」
「へえ、綺麗ね。売ったらお金になりそうだし、飾りにもよさそうね」
「ネックレスにするには、ちと重そうだぜ」
回収回収っと。……さあ、探索再開だ。襲ってくるリザードマンもどきを倒し、さらに進む。遺跡の地下へ、長い石の階段を下り、重々しい扉がデンと立ち塞がる。左右に開くタイプのようだから、隙間に指を引っかけ、引く!
「この石の門、相当重そうだけれど――」
カグヤが指摘している間に、ゴゴゴ、と音を立てて、俺が引く石の扉が開いた。桃太郎の大力を馬鹿にするなよ。
「開いちゃったわね」
「開けたんだ。開いちゃったわけじゃねえ」
さあて、この頑丈な門の奥は何だろな? こういう厳重そうな扉の先は、何か大事なものを収納した宝物庫とか、あるいは偉い人の部屋だったりとか?
「どっちも違うみたいだけど」
カグヤ、そしてイッヌが中へ。オレも入って見渡すと、体育館みたいな広い部屋。そこに鎮座しているものは――
「巨人……!? いや、像かしら?」
赤茶けた鋼鉄のボディ。どこかゴリラを思わす、マッシブな体型で、高さ3メートルくらいの人型があった。
頭の部分はバケツをひっくり返したような騎士兜のようで、像としてその中が何をモチーフにしているかはわからない。
「守り神かしら?」
「トカゲたちのいる遺跡なのに、こいつはトカゲ頭じゃないんだな」
オレは率直な感想を述べる。どう見ても、表のモンスターのどれにも似ていないんだよな。
「これも一つのお宝?」
神仏の像だったら、持っていけないぞ。バチが当たるからな。
「うーん、こんな金属の像は見たことがないわね……」
「像っていうか、何かロボットみたいに見える」
「桃ちゃん、ロボットって何?」
前世が現代人であるオレと違い、カグヤはロボットなんて知らないだろう。うーん、なんて、言えばいいのか。自動で動く機械というか……あ、そうそう。
「機械でできたゴーレムみたいなもの……って言えばわかるか?」
「ああ、何となくわかった。言われてみれば、ゴーレムっぽくあるわね。これ」
でも――とカグヤは眉をひそめる。
「近づいても動く様子はないわね。壊れてるのかしら?」
「そりゃこんな遺跡の中に、ずっとあったんだろうし、動かなくても不思議じゃねえな」
オレは、像だかロボットだかゴーレムに近づく。前世でやったRPGとかだと、こんなところにあるのは、ボスか、ボス登場の背景なんだよな。
近くで見ると、ますますメカっぽいな。表面が金属なのもそうだけど、関節部分とか、機械のそれにしか見えない。
正面から側面に回る。後ろは壁のせいで行けないが、横から見上げると……何か背中から首の後ろの部分、人が乗れないか?
「よし」
俺は関節などに手をかけ、足をかけて、よじ登る。
「桃ちゃん? 何してるの!?」
「見ればわかるだろう」
形状に合わせて、ボルタリングの要領で登る。御神体なら罰当たりではあるが、ここに出ていたリザードマンにも似ていないし、見るからにメカなんだから神体ではないだろう。
そうこうしているうちに、背部の上部から後頭部の間に到着。やっぱり操縦桿っぽいのがあって、立ちっぱにはなるが、収まりのいい形になっている。……スイッチっぽいのは、二本のスティックの間にある手の平サイズの円くらいか? おや、この形、さっき宝箱から見つけた宝石の形とピッタリのような……。
もしかして……。




